『――っ!!』

誰かに名を呼ばれている。朦朧とした意識の中でそう感じ取れたのはきっと奇跡なのだろう。何枚ものフィルタが阻んで、周りの音を遮断している。聞き慣れた銃撃の音も遠く、まるで別世界のことのようにさえ思えてくる。
痛みとか苦しみとか、そういうものは何一つとして存在していなかった。それは思っていたよりもずっと穏やかで、こんな自分でも楽になれる資格があるのだろうかと錯覚してしまう。
あのとき愚かにも憎しみに駆られた私は、道を踏み外してしまった。
今更、赦してもらえるはずがない。

もういい。私はもう、これでいい。
だから、あなたもそんなに哀しそうな顔をしないで。
私の死なんて、誰かに哀しんでもらう価値はないのだから。

視界にぼんやりと映る赤銅の影に伸ばそうとした右手には力が入らず。
あなたの手のひらを滑って、そのままぽとりと地面に落ちた。


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