処女雪のような白い肌に赤い花弁を散らした目の前の女はひどく扇情的で、舌を這わせば血液の甘美な香りが鼻腔を抜けた。
額に汗を滲ませ苦しそうに吐息を漏らして喘ぎながらも、女は真っ直ぐに視線を向けてくる。アイスブルーの澄んだ瞳に映るのは赤く染まった冥使の双眸。薄闇の中で妖しく光るそれは、我ながらまるで殺気だった獣のようにさえ思える。

「アーウィン、今日はもうこれ以上吸ってはだめ」
「何故です」
「身体、もうすごく冷たいの。失血死してしまうわ」
「あなたは私の一部となるのです。何を怖がることがあるのですか」

歯を突き立てれば女の柔肌に新たな傷が生まれ、赤く新鮮な血液がそこから溢れる。今まで何度も繰り返されてきたこの行為によって、女の身体には無数の傷痕が消えずに残っていた。その哀れな姿さえ美しく、たまらなく愛しい。

ヒトの脆さを知ったのは、もう何百年と昔の話。最強の祓い手とまで謳われていた親友は、思わぬ事故によって若くしてその命を落とした。何の前触れもない、突然の死だった。ヒトとはそういう生き物なのだ。
もしも彼女が彼と同じようにある日突然逝ってしまったなら、自分はあのときと、フレデリックが死んだときと同じように彼女の骨の欠片を骨壺に閉じ込めてそれを抱くのだろうか。考えたくもない。"死"などという得体の知れないものに彼女を引き渡すくらいなら、その血を全て啜り尽くして自らの血肉と換え、この命が朽ちるその時まで共に在り続けたい。


「『あなたは、本当にそれで満足なのかしら?』」

目の前の女の顔に、かつて聖女と呼ばれていたあの愚かな魔女の貌が重なった。
フレデリックを"造る"ことを約束したあの夜にも、同じことを問われた。あのとき自分は何と答えたのだろうか。思い出そうとして、気がついた。――結局、私はその問いに答えることができなかったのだ。
どれだけ精巧に造られていたとしても、所詮模倣は模倣でしかない。フレデリックを蘇らせるなど所詮出来はしないのだ。それと同じで、目の前の女を自らの手にかけたとしても、本当の意味での永遠は手に入らない。


――それでも、私は求め続ける。


どう足掻いても決して報われることはないのなら、せめて最善のバッドエンドを。


あたたかな血の一滴を舐めとると、女は「それがあなたの答えなのね」と寂しげに微笑んで、やがて瞼を閉じた。




(for*真綿様)
20111221


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