監禁ネタ 何度も腹部を蹴り上げられ意識を飛ばし、次に目が覚めた時は髪の毛を強く掴まれた。拍子にブチブチ毛根が抜けていく。もはやドコがドウ痛いのか考えることすら馬鹿らしい。全部に決まってるから。肋骨なんてきっと何本かイッてる。己の吐血跡が床に付いていて、思わずクラッとした。大概の量。さらに目の前に迫る血液色。恐怖を抱いて歯がガチガチ鳴っても何の救いにもなりゃしないのに。脂汗の浮かぶ額。痛みに耐える体。もういっそのこと神経が麻痺してくれたらどれだけ楽か。 俺は監禁されている、らしい。ここがどこかも分からない。とりあえず俺の近くにあるものとしては両足に嵌められた鎖付きの手錠に乗っている簡素ベッド。どこかの小部屋であることは分かるけれど、それ以外に情報がない。窓も無ければ扉も毎回毎回外から鍵を掛けられてしまうから鎖から解放されても部屋からは解放されない。三度ほど脱出を試みようとしたが無意味で、それがバレる度に酷い目に遭った。右手の小指から順番にペンチで爪を剥がされたのだ。だから俺の右手小指、薬指、中指には包帯がぐるぐる巻かれていて、今でもジンジンと痛み続けている。 首謀者と実行犯は同一人物。俺の幼馴染。何の前触れもなくある日トキワジムの執務室までわざわざ足を運んで来て、俺の挨拶に対する返事など無いままに鳩尾に拳を叩きこんで昏睡させ、そのまま連行した、というわけ。そういえば何日経ったのかも分からない。ジムはどうなっているのか。姉ちゃんやじぃちゃんには心配を掛けていないだろうか。 「考え事?」 バンッ。顔面をベッドに叩きつけられた。先ほど髪の毛を握った幼馴染がそれを引っ張るようにして渾身の勢いを掛けて来た。薄い敷布団だからスプリングに額が激突する。ぐわんぐわん。脳内がグラついてマズイ。何か言おうとしてもただ口が開閉するのみでヒューヒュー息が漏れる。胸が収縮する度に激痛が走る。声にならない。痛い。辛い。苦しい。短く息をすることで何とか肋骨への圧迫を避けようとしたがあまり意味はなく、呼吸をすることすら恐怖。全てのことが俺を殺そうと襲いかかってくるように思えた。 「グリーン」 ググッ。首根っこを上から掴まれて潰しにかかられる。息が。これは完全に気道が。冗談だろ。「ぁ、っあ」と何か主張しようとしたが無意味。見開いた目を向けてみたがそこにあったのは至極楽しそうな笑顔。止めてくれ。頼む。レッド。全身が震えだした。向ける瞳がまるで縋りつくようになっていることだって言われなくても分かる。それが滑稽に思えたのかレッドは喉で笑いだした。不気味な程に。 「僕になら殺されても良い?」 良い訳あるか。 しかしそう返答も出来ない。酸素が足りなくなって全身が何度か大きく痙攣すればフッと落ちる視界。 冷たさがいきなり顔を襲ってきて覚醒した。液体が鼻に入るわ口に入るわで咽こみ、胸部から腹部にかけて激痛が走る。ただの水なようだが傷だらけのこの体には苦痛だ。寒い。いつの間にか下着だけ残して服が無くなっている。内出血外傷塗れで凝り固まった血に塗れている俺の体。特に腹部が真っ青になっていてゾッとした。もはや黒ずみに近い気がする。傷ついてはいると思っていたが服の下がまさかこんなことになっているとは。霞みかけの視界でもそれだけは見ることが出来た。けれど本当は見えない方が幸せだったのかもしれない。 手桶を片手に側に立っているレッドが俺を見下ろしている。無表情。何を考えているのか分かるはずもない。おそらく起こそうとして水を吹っ掛けたのだろうけれど、かといって俺に対して何かしても来ない。と思っていたら殴られた。右手の拳が俺の左頬に激突。ゴキッと嫌な音が届いた。 「あ、がっぁあ゛あ゛」 「ちょっと出て行くから、良い子でね」 喉仏を思いっきり噛まれる。食い破られるんじゃないかと思ったらそのままあっさりと離れたレッド。扉へ向かって一度も振り返らずに出て行く。置き去りにされる俺に為す術はなく、水は相変わらず冷たい。服もどこへ行ったか分からないから寒さに襲われるだけだ。足の先はもう感覚がなくなっていて青紫色になっている。いっそのことそのまま心臓だって凍りついてしまえばきっと楽になれるのに。 ポツンと残された室内で小刻みに震える。薄暗くて光も無い。叫んで助けを呼ぶことも出来ない。最悪だ。このまま独りで死んで行くのか。そんなのってない。嫌だ。出してくれ。そういえば最後に食事したのいつだっけ。もうずっと前から何も食べてない気がする。しかしこれだけメッタ蹴りされた腹じゃぁ何も受付けなさそうだ。血どころか嘔吐物まで吐きだしてしまった日にはさすがに衛生的にドン底だな。自嘲的に笑って、けれどすぐ眉間に熱が走った。喉ががあああと唸る。ひっ、と一度鳴けば後はもう止まらなくなった。じわじわとシーツを濡らす涙に零れる嗚咽。痛むのは体だけじゃない。悲鳴を上げるのは心だ。何が何だか分からないまま連れ込まれて、何が何だか分からないまま暴力を振るわれ、ずっと混乱し続けていた思考回路が悲しみに落ちた。憎しみなんて無い。ただ、寂しい。 なぜだろう、その時に求めるのは姉ちゃんでもじぃちゃんでもジムトレーナー達でもなく、あいつの姿だった。 neta ×
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