愛スクリームで乾杯 ※二十歳前半のレグリのイメージです。※ せっかくの休日であるのに。今日は、酷暑だ。グリーンは自宅のソファに仰向けで死んでいた。 よりにもよってエアコンが壊れたのだ。修理をお願いしたものの、業者が来るのは明後日以降。氷ポケモンの力を借りてどうにかしようかとも思ったが、この暑さに彼らこそ一番やられてしまっている。ボールから出すだけで、ひぃひぃと床の上でへばって弱ってしまう姿が、あまりに可哀想であった。そして、他のポケモンも大体そうであった。唯一、炎ポケモン達は暑さに強いのか、平気な顔をしてるが。この暑さの中で、彼らの姿を見た所で、余計に暑くなるだけであった。炎ポケモンに罪はないが、今はボールに収めておくことが賢明である。 水分補給をしながら、汗をダラダラ流し。唯一稼働する扇風機を回し、うだるような気温にグリーンは耐え続けた。ベタつく身体をどうすることも出来ないが、夜になればもう少し気温が下がるだろう、と予想する。そうすれば、シャワーを浴びて、さっぱりしてから、ベッドに入ってしまおう、と考えた。 明日はトキワジムへ出勤するため、冷房の効いた部屋で過ごせる。それまでの辛抱だ。そう考えて、また飲み物がなくなったために冷蔵庫へ向かおうと思った。───その時。 「ぐりぃぃぃいいん」 間抜けな声が、玄関の扉から響いてきた。 グリーンはかなりのしかめっ面を浮かべた。こんなにも身体と心が辛い時には、聞きたくない声だと思ってしまったからだ。 どたどたと足音を立てながらリビングになだれ込んできた情けない男は、グリーンの幼馴染みだ。どうしてここにいるのか、という疑問をぶつける前に。男は一直線に冷蔵庫へと 向かい。サイコソーダを許可もなく一本、取り出した。 「ああああああ美味い」 缶を一気に飲み干して、男はそのまま嫌な顔をしているグリーンの元へ、さも当然と言わんばかりの顔でやってきた。全身汗だくだった。象徴的な赤い帽子にも滲んでいる。 「グリーン。お風呂貸して」 「一回一万円な」 「なんてこった。いつから俺の幼馴染みは、ぼったくりを始めた!」 「それを言うなら。幼馴染みの家だからって、好き勝手して良いわけじゃねぇぞ」 青筋が浮かんでいるのも仕方ない。グリーンはこのやりとりをするエネルギーすら、無駄だと察してはいたが。言わずにはいられない。 「また連絡もなしに帰って来やがって。迷惑だ」 「仕方ないだろー。記録的な暑さで、シロガネ山の雪崩発生率がやばくて、慌てて一時避難してきたんだ」 「だったら別にここじゃなくても良いだろ。ご覧の通り、エアコン壊れてんだ。よっぽどポケセンで泊まった方が設備的に良いだろ」 「そんな寂しいこと言うなよー。俺たち幼馴染みだろ」 「親しき仲にも礼儀ありって言葉は知らねぇのか」 つくづく。この男から、グリーンは幾度となく迷惑を被っている。 せめて来る前にポケギアで連絡を入れろと散々伝えているにも関わらず、無駄であった。人間として最低限守らなければいけない部分は守っていただきたい。と思うけれど、この男を人間として取り扱って良いものか、という根本的な問いかけも発生するので。グリーンはこの件に関して、これ以上考えることは放棄している。 「とりあえず。今日は一晩、泊まっていくよ」 「誰の許可取ってんだ」 「だって。この家の鍵、俺持ってるし」 ニヤッと笑いながら。ジャラッと鍵を見せてくる辺り。本当に腹立たしかった。それは確かに、グリーンが渡した合鍵だったからだ。かといって、この家はこの男のモノではないのだけれど。 「久しぶりにまともなベッドで寝られるー!」 「お前は居間に布団敷いて寝ろ」 「えー!」 「それが嫌ならちゃんと働け」 「そんなこと言われても。何しろって言うんだよ」 男は部屋をキョロキョロ見回した。グリーンのおかげでしっかり家は清潔に保たれている。日頃、山に籠りきりの男は、何をすれば良いのか想像がつかない。 そんな様子を見て、グリーンは。とあることを思い付いた。机に置いてあったペンを使い、メモ用紙に何かを書き出して、それを男へ差し出した。 「今日の晩ご飯で使う食材のメモだ。いいか。本当に泊まりたけりゃ、買い出し行って来い」 酷暑の中で買いに行くのも面倒だ、と思っていたので。ちょうど良かった。この際、男を使わせていただこう、と考えた。リストを見れば、トキワにあるスーパーで揃えられるものばかりであったが、いかんせん滅多に買い物をしない男は困惑した。 「ええええええよりにもよって買い物?」 「最近はセルフレジも多いからな。頑張れよ」 「せるふれじ、ってなに?」 「とっとと行って来い」 説明もせずに、男を送り出す。 果たして無事に家に帰ってくるのか。今度はグリーンがニヤッと笑う番であった。 *** - - - - - - - - - - あとがき 続きはこのページにあげていきます。 |