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※ちょっと特殊な書き方してます。※




 こんなにも、心に溢れる「殺してやる」は、それでも俺の口から出てくることは無かった。ギラついた光だけ、俺の両目に宿る。

 「殺してやる」と、ここまで連呼することは、人生で初めての経験だが。悪くない。俺は今、最高の気分だ。

 俺の憎しみはポケモンにも伝播しているようで。ピカチュウの纏うオーラも、いつもの数倍に膨れ上がっている。

 シャワーズが咆哮を上げる。その叫びは、俺の胸にも重くのしかかり、原動力となっている。共に、奴を叩きのめしてやろう。徹底的なまでに、潰してやろう。

 相性はこちらが優位だ。速攻で繰り出した十万ボルトだったが、白い霧と電光石火の組み合わせにより回避される。すかさず、スピードスターを放った。

 俺の育て上げたポケモン達は。皆がタイプ相性を乗り越え戦えるように成長した。抜かりはない。皆、思いっきり暴れてくれ。

 不意打ちで食らわされたハイドロポンプにピカチュウが壁に叩きつけられた。体力がなくなったわけではないが、俺はボールへ戻すことを選択する。久々の彼とのバトルは、想像以上だった。サカキ様に勝利した時点で、そのことは分かっていることだったのだけれど。小さく舌打ちをして、カビゴンを繰り出す。

 良い判断だ。俺のシャワーズにお前の電気ネズミは通用しない。ニィッと笑って、次の戦略を練った。カビゴンはなかなかに厄介だ。ド忘れで特攻を上げられる。ならば、とシャワーズを引っ込めて、サンドパンを繰り出した。

 地震でダメージを受けた後、眠るとイビキのコンボによりサンドパンにダメージが通った。直後、毒針で毒状態となったが、何でも直しで回復し、のしかかりを繰り出す。巨体が一瞬、宙に舞い、サンドパンを下敷きにしようとしたが、避けられる。そこまでは予想済みだ。着地した瞬間に、両足で地面を蹴って水平にサンドパンへ向かう。直撃した。巨体に巻き込まれ、シャワーズは見事にカビゴンの体の下だ。

 ボールに戻そうにも、光が届かなくなった。まずい。サンドパンの体力が食われる。先制を取られた。しばらく経ってカビゴンがのっそりと起き上がると、瀕死状態のサンドパンが床にめり込んでいた。ぬかった。あのカビゴンの速さは予想していなかった。どうやら、俺と同様に、弱点を補うような育て方をしていたらしい。舌打ちが出た。だが、まだまだだ。レアコイルを繰り出す。

 互いに。タイプ相性の観点など関係がないバトルを展開していった。むしろ問われるのは判断力、瞬発力。そして想像力だ。かつて博士の研究所でバトルをしていた俺たちではない。考えろ。どうやったら、相手を完膚なきまでに叩き潰せるのか。レアコイルの速攻により、電磁波からの嫌な音、そして十万ボルトを受けたカビゴンは、眠るも間に合わず倒された。すかさずリザードンを繰り出した。

 じわじわ湧き上がる気持ちを無視しきれなくなって来た。気がつけば口から出ていたのは、必死な指示だ。ポケモン達へ。どうしてだか。俺は楽しんでしまっている。あれほど、目の前の男を殺してやりたいと思っていたのに。だが、その理由を考えていられるほど時間はなかった。火炎放射を避け、十万ボルトを放ったレアコイルだったが、翼で打つを床に放ち勢いに乗って上昇したリザードンに、炎の渦を受ける。身動きが取れなくなった所へトドメの火炎放射だ。

 次に出て来たフーディン。すぐにスプーン曲げをされ、リザードンの命中率を下げられた。構いはしない。切り裂くだ。急所に的中するように、育て上げた。しかしフーディンは避ける気配がなかった。おかしいと思った時には遅い。近距離からサイコキネシスを放たれる。ほぼ相討ちだが、壁に叩きつけられたのはリザードンだ。フーディンは少しの傷を負っただけで、命中率を下げられたのが影響したらしい。悔しい。そう思った。効果の能力で上回られた。ハッ、とする。俺は、バトルをしているではないか。思い出せ。そもそも、これは「殺し合い」であるはずだ。ある「べき」だ。

 互いに感情が高まって来て、それをコントロール出来ていないのが良く分かる。いや、そもそも制御しようだなんて思っていない。胸が高鳴っている。次に繰り出されたカメックス。雨乞いをしてトキワジムが水浸しになっていく。ついで波乗りを発動した。凄まじい威力だ。だが、フーディン相手には分の悪い攻撃のはず。と思った矢先、俺の全身が水に呑まれた。奴はカメックスにしがみついて息を止めている。息ができない。苦しい顔をした俺に、フーディンが助けようと動いた。そうか、これが狙いか。フーディンに口で指示が出せない。その一瞬の隙に、渦潮を発動された。一気に引いた水と、天井に向かって渦巻くそれに、吹雪が放たれて、フーディンが氷漬けにされる。くそ。卑怯だ。

 カメックスをすぐに引っ込め、フシギバナを繰り出した。ギガドレインを放ち、フーディンが動けない内に体力を奪っていく。グリーンがなんでも直しを使い氷を溶かしたが、間に合わなかった。瀕死のフーディンを引っ込めて、キュウコンが繰り出される。急いでカメックスを出そうとフシギバナをボールへ戻そうとしたが、電光石火によりそれが阻まれる。俺のボールが、突撃したキュウコンによって叩き落とされる。気を取られた内に、フシギバナへ炎の渦が放たれた。逃げられない。怪しい光まで放たれて、自滅していく。くそ。卑怯だ。

 トレーナーへの攻撃を可とする空気が流れ始めた。次に再度繰り出されたカメックス。俺はすかさずナッシーを繰り出した。やどりぎのタネを奴へ放つように指示をすれば、カメックスがそれを庇いに前へ出る。そこに催眠術を仕掛け、的中させる。連続で玉投げを命令した。目にも留まらぬ速さで急所に五回ぶつけると、カメックスは倒れた。

 次に繰り出したエーフィー。リフレクターを指示し、物理攻撃に構え、泥掛けを放った。ナッシーが避けるのを見計らい、奴へスピードスターを放つ。迷いがなくなって来た。俺たちは、殺し合いをしている。相手が地に伏せば、自分の勝利だ。と思ったら。ナッシーの球投げが飛んで来た。脇腹に直撃し、肋骨が嫌な音を立てた。足で立っていられなくなる。相手にはスピードスターが腹部へ直撃していた。互いに、膝を折る。

 目的が一致して来た。俺は、奴に、攻撃がしたい。奴もだ。俺を殺したくてたまらないはずなのだ。ポケモンは、兵器となる。そして、人間もまた。その原理は今まさに、体現されている。エーフィーが放ったスピードスターを避ける気は無かった。それよりも奴に攻撃を当てることが優先された。二人とも、衝撃に耐えきれず、うめき声をあげて、うずくまる。胃液が競り上がって来て、吐いた。

 ナッシーとエーフィーは、次の指示を待っているが、俺と相手は言葉を出せない。逆に言えば、先に指示を出した方が勝ちだ。ギリッ、と歯を噛み締め、俺は、痛みを無視することにした。こんなモノ、今、感じている場合じゃない。チャンスだ。好機だ。逃してはならない。相手は吐いている。ザマァみろ。どうにか絞り出した声で、エーフィーにスピードスターを命じた。ナッシーが倒れるまでだ。急所に攻撃を受け続けたため、ナッシーは後ろへ大きく倒れた。それを、奴は何も出来ないでいる。ーーーーーと、思っていた。

 ザマァみろ。これが油断という奴だ。奴の足元に残っていたナッシーのヤドリギの種は、エーフィーの体力を確実に奪っていた。気づいていなかった方が悪い。ナッシーが倒れる音が聞こえた後、エーフィーがふらりと横に倒れた。これで、五分五分だ。ようやく。シャワーズを再度、繰り出した。奴が出せるポケモンも限られている。電気ネズミしか、残っていない。胃液の味が気持ち悪いが、そんなモノ、今は無視をした。全く大切ではない。

 ピカチュウは少し冷静になったようで。改めて対面するシャワーズに対する顔は、まさに冷酷な気迫を纏っていた。かつて。オーキド博士の研究所で負かされた記憶は、いつしか憎悪へと変貌し、ピカチュウの原動力となっている。それを全て、一片の無駄もなく、シャワーズへぶつけるつもりでいた。シャワーズは、笑っているようにも見えた。それは、奴もだ。不思議と、俺も、笑みを浮かべている。

 いよいよだ。やはり、最後に残ったのはこの二匹だったか。まるで、俺たちの気持ちを代弁しているような二匹。あの時。ジィさんの研究所で泣いていた、レッドの母親の姿がダブって見える。あんなにも鈍臭いレッドが、こんな風に俺と合間見えるとは、誰が想像しただろうか。ジィさんに才能があると、言われていたレッド。今から思い出すだけでも、脳みそが煮え繰り返る。







 だから。敬意を表し、殺してやる。

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