-2- ポケモンという、初めて触れる生き物に、俺はかなりの苦戦を強いられることになる。とにかく最初の内は家に帰って回復をすることが多かった。ピカチュウの体力がなくなってしまったら、俺に被害が来てしまう。そんな想いで必死だった。しかし、そうやって少しずつ戦闘を経験していたら、ピカチュウの技術が上がっていくのが目に見えて分かった。相手のポケモンの特性を見極めて、攻撃をするようになって来たのだ。一度、トキワシティまで辿り着き、フレンドリィショップから託されたオーキド博士へのお届け物を無事にマサラタウンまで届けたあと、ポケモン図鑑を受け取ってからは、野生のポケモンに対してやりやすくなって来た。捕まえたら詳細も表示されるため、タイプを確認することの参考にもなった。そうやって、俺なりに、地道に足を進めて行った。 グリーンと途中で遭遇してしまう時もあった。その度にバトルを仕掛けられては負けて、何も話すことはなくポケモンセンターへ駆け込んだ。とにかくあいつは、俺とのバトルが出来たら満足のようだった。俺に勝った後にグリーンが得意気な顔をしているのを見ると、それを目的に俺とバトルをしたいのだなと判断した。俺は、はっきり言ってグリーンに負けることには何も思わなかった。それよりもグリーンととっとと別れてとっとと一人になってポケモンと交流する方が重要だったからだ。だから何も会話することはなかった。グリーンが何か言って来ても関係がない。俺は、彼の言葉を自分の人生にこれ以上刻み付けたくなかったし、本当はその顔だって見るのが嫌だった。 そんなことを繰り返しながら、ニビシティのジムリーダータケシにも何度目かの挑戦で勝ち、オツキミヤマへと足を踏み入れた。だいぶ、ピカチュウとの連携も取れるようになって来た。途中で捕獲したその他のポケモン達とも、上手くやっていけそうだった。 少しだけ俺の未来が明るくなった。 その時に、俺は運命の出会いを果たすこととなったのだ。 「ポケモンマフィア、ロケット団を見くびるなよ」 黒い服には「R」の赤い文字。俺は衝撃を受けた。「マフィア」とは何なのか。非常に気になった。偶然、バトルすることになったのだけれど、俺が勝利をしてしまい、相手は悔しそうにそんなことを告げた。 俺は尋ねたのだ。あなた達は何なのかと。純粋な疑問で、好奇心の塊だった。そんな俺に、相手は興味を抱いたらしい。丁寧に説明をしてくれた。 「ポケモンって生き物は便利だ。人間が出来ないことが、こいつらには出来る。上手く使えば、金儲けだって世界征服だってやってのけられる程の力がある。俺たちはポケモンを利用して、このカントー地方の経済、政治を征服しようって考えてるんだ。ロケット団のボス、サカキ様にはその力がある」 征服。その言葉に、俺はドキドキした。 今まで、俺は周りから虐げられる側であった。だから俺に影響を及ぼすものがないように、引きこもって、自分の身を守っているつもりだった。しかし、こうやってポケモンと共に旅に出て、少し感じたことがある。それは、力を持っていれば、虐げられる方には回らないということだ。トレーナーに勝った時、俺は微かな高揚感を覚えることがあった。ふと、考えたのだ。俺を今までいじめて来た奴らは、そういうものを感じる為に、俺をいじめて来たのではないかと。 力があるものが、力のないものを、ねじ伏せるのはこの世の原理として当然なのではないか。弱肉強食。どうして、気づかなかったのだろう。 そうして俺は、今まで力が無かった自分自身を恨むようになった。どうして、もっと早くそういう発想が出来なかったのか。ポケモンを得たことで、思考が変わっていくのが分かった。だから、このロケット団員の言葉は、非常に胸に響いた。 もしも。俺が世界を制圧する側に回れば。もう俺を傷つけるものはいなくなる。むしろ、脅威があるならば自分自身の力で消滅させてしまえばいい。ーーーーーーーそう。あの、グリーンだって。 ぶっ潰せ。 「ロケット団に入るには、どうすれば良い」 目を輝かせて、そう告げた俺に。 団員の男は、ひっそり笑った。 「連いて来い。案内してやる」 足元から沸き立つ黒いモノに、俺は全く気づかなかった。 見ようとも、していなかった。 それからの俺の行動は早かった。すぐに入団試験を受けて、ポケモンバトルの素質を見てもらった。タマムシシティのゲームセンターの奥に、ロケット団の拠点があったのだ。資金はゲームセンターから得られるのだから、全力でバトルをしても何一つとして支障がない設備が整っていた。 判定として、俺のトレーナーとしての素質は非常に良質であるという診断結果が出た。それを聞いて、俺とポケモン達は大いに喜んだ。こうやって誰かに認めてもらえるのは初めてだったからだ。 オーキド博士からもらったポケモン図鑑も、ロケット団へ献上した。これを使って組織が行動しやすくなるのであれば、万々歳だと思った。そうして、特例ではあったが、俺はロケット団のボス、サカキ様と面会することが出来た。どうやら、彼が俺に会いたいと言って来たらしい。 胸が踊った。嬉しくてたまらなかった。 「俺はサカキ。ロケット団のボスだ。お前は?」 「マサラタウンのレッド」 「レッドだな。試験結果は見たぞ。かなり優秀じゃないか。マサラタウンでは何か勉強をしていたのか?」 「十歳になって、オーキド博士からポケモンをもらったのが初めてです。あとは、自分なりに頑張ってここまで来ました」 「そうか。なら、まさしく天賦の才だな。君をロケット団員として歓迎する」 「ありがとうございます」 「ロケット団の最終目標は、カントー地方の制圧だ。その為には、ポケモンバトルだけじゃないことも学ぶ必要がある。君はまだ十歳だが、他の大人達と同様に学んでもらう。努力をしろ。それが出来なければロケット団を去れ」 「わかりました」 「期待している」 政治学や経済学、心理学などロケット団員が学ぶことは多岐に渡っていた。その中で得意な分野を見つけて伸ばす者もいたけれど、俺は全てマスターしようと努力した。ポケモンバトルも訓練を続け、着々と技術を伸ばしていった。俺は本当に楽しかった。この力が、いずれ大きなものになる実感があった。俺はちっぽけな存在ではなかった。おかしい存在でもなかった。ちゃんと力のある人間だった。期待される人間だった。価値のある人間だった。それが分かって、泣きそうになるぐらい嬉しかった。同年代のロケット団員はいなかったけれど、周りの年齢が上の団員達が、俺のことを少しずつ認めてくれるのが分かった。 「お前、すげーよ」 「俺がお前ぐらいのときはもっとバカだったなー」 「きっと上に行けるぜ」 「お前見てると励みになる、頑張ろうな」 俺は、この組織の要となって。支えて行きたいと思った。そうして、その先には、俺にとって脅威のあるモノが無い世界が待っている。俺が最も力を持ち、虐げられることが無い世界。なんて素晴らしい世界だ。それが実現できれば、俺は安寧に浸ることが出来る。しかも、俺のことを信用し、信頼してくれる仲間がいる上で、それが出来れば最高じゃないか。 夢が膨らんでいく俺は、自分自身を止めようとも思わなかった。このまま、ずっと進んでいけばきっと。最高の人生が実現出来る。 そうして俺が着々と力をつけていった時。 俺にとって最大の任務が訪れた。 それは、シルフカンパニー本社ビル制圧計画だった。 幹部をサポートする副リーダーとして、抜擢されたのが俺だった。 「レッド。今回の計画は、君が抵抗する社員達をポケモンで制圧し、俺がシルフカンパニーのプログラムを制圧するというものだ。ヤマブキシティを占拠することに繋がる大切なものだから、しくじるなよ」 胸が高鳴る。 モンスターボールを握る手に、汗が流れた。 - - - - - - - - - - |