憧憬
※原作レグリ。高校生パロ。※





 グリーンが県外の大学に行く。
 ことは、ずっと前から分かっていることだった。
 それこそ、俺たちが小学生の頃から。

「まっ、俺はレッドの手が届かないぐらい遠い世界に行くからな。当然だろ?」

 不敵な笑みを浮かべて言われた。
 それは。今から思えば挑発であったし。
 グリーンなりに、俺の気持ちを引っ張ろうとした発言であったと。
 今なら分かる。
 けれど、当時の俺からすれば。
 ただ、虚しさだけが胸を覆っていた。

 グリーンと幼馴染という関係性になったのは、なぜだろう。
 ただ、家が近かったからという理由だけだろうか。
 と考えて。ふと思い出したのは。
 俺が小学校一年生の時だ。
 あまり同級生と関わることを得意としていなかった俺は、学校が終わればすぐ家に帰ってゲームをする子供だった。皆が外で遊んでいるのを横目に、テレビの前に座っていた。それで何も問題がなかったから、俺はその生活を変えようとも思っていなかった。しかし、ある日の下校中。グリーンが突然、俺に声をかけてきた。

「なぁ。お前、そのゲーム持ってんの?」

 俺がランドセルにつけていたキーホルダーを見つけたのだ。一番好きなゲームのキャラクター。
 驚いて、俺はグリーンを穴が開くかというほど見つめた。あれだけ外に友達を大勢連れて遊び回っているグリーンと俺に、共通点があるとは想像にもしていなかったからだ。どうやらグリーンも相当やり込んでいるらしく、ただ同じゲームを持っている友達が他にいないらしかった。

「これすげー面白いのにな」

 それから。俺の家に案内して、二人でゲームをすることが増えた。グリーンは外で遊ぶ時もあるけれど、週に一回か二回は俺の家でゲームをする。そうすると、グリーンに連れられて他の同級生とも遊ぶようになった。腕前としては俺が勿論上手いから、すごいと言ってくれる人が増えた。そうやって俺にも友達が出来たのだ。嬉しかった。きっかけを作ってくれたのはグリーンだ。だから、一番仲良くなっていった。
 日頃から笑顔が増えた。人と話すことも、前より得意になっていった。そうして中学校に上がったとき。高校に上がったとき。グリーンとはバラバラの学校になってしまった。それでも、俺たちはよく遊んだ。お互いに、優先順位が高かったのだ。勉強も一緒にすることが多かった。違いに、テストの点数で張り合うこともあった。どこかで、グリーンには負けたくない気持ちがあった。学力に差がある学校ではあったけれど、統一模試などでは問題が同じだったから分かりやすかった。

 そして高校二年生の時。グリーンは改めて俺に言ってきたのだ。

「世界は広い。俺は、もっと外に出ていく」

 確固たる瞳だ。
 未だに、目に焼き付いて離れない。

「レッド。俺は、お前を置いていくからな」

 その日は、寒波が世を襲ってきていた。雪の酷い日。二人して暖かい飲み物を手に持って、コンビニの入り口で、そう告げられた。知っていた。昔から、グリーンはそうだ。グリーンの興味の対象は、もっと広いところにある。
 ーーーーーー俺、だけじゃない。

「俺といたいなら、連いて来いよ?」

 グリーンが狙っている大学は、俺からすれば途方もないはずだったけれど。あれだけ模試で競い合うようになると、俺の学力も自然と右肩上がりになっていた。狙えないことはない。本気を出せば。ただ、その目的として、俺は迷うところがあった。
 グリーンと一緒にいたいから、その大学へ行くとなれば。それ以降の俺の未来が、良く分からないことになる。






 いよいよ卒業式が訪れた。
 グリーンはこれから一人暮らしを始める。
 俺は、ーーーーーーグリーンが行く大学とは、別の大学を選んだ。
 大学のある位置も遠い。俺も、一人暮らしだ。

「あんま、会えなくなるな」
「まぁ。それでもたまには帰って来て、遊ぼうぜ?」
「うん。そう、だな」
「今は携帯もあるし。連絡は取れる」

 最後の、帰路だ。
 いつものように、ゲームセンターで遊んでから。
 二つ分の影がアスファルトに伸びて行く。暗い、影だ。
 ポツリポツリと零す俺の発言に、グリーンが一つ一つ返してくれる。
 虚しさは。胸に溜まって行くのだけれど。
 ちょっとずつ溶かしてくれている。
 それが、また切ない。

「グリーン」

 幾度となく、呼んで来た名前。
 もう、しばらくは呼べない。

「俺、お前に会えて良かったよ」

 今まで。思っていたことだけれど。
 恥ずかしくて伝えられていなかった事実。
 と同時に。それを言ってしまうと。
 何かしら、グリーンとの間の糸が。
 切れてしまうのでは、という恐怖。
 微かに震える唇をどうにか無視した。

「それは、まだ早いぞレッド」

 とんっ、と一歩前に出たグリーンが。
 俺の行く手を阻んだ。

「お前が俺に感謝をするのは、もっと後だ」

 そこには。相変わらず、不敵に笑うグリーンがいる。

「そして、俺がお前に感謝するのも、もっと後だ」

 目を瞠る。
 夕焼けがグリーンの顔を照らして、キラキラしている。
 いよいよ、グリーンの家が差し迫って来た。
 もう、互いに手が届かなくーーーーー

「手が届かなくなる前に、捕まえに来いよ?」

 ーーーーーならないように。
 踵を返して、グリーンは家の扉に向かって走って行ってしまった。

 ゾワっとした心臓を抱えて。
 俺はしばらく立ち尽くしていた。


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まだまだ続く未来へ。

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