リベンジネタ ※原作のワタルとグリーン。※ 「教育係」というポジションは非常に厄介で面倒臭い。 出来れば請け負いたくないものだが、そうも言っていられない役割を担っているのだから仕方ない。だなんて言葉で自分の気分を宥めようとするのだが、漏れる溜め息が止まない。 チャンピオンとなって感じて来たこととして。俺は下を育てるというものが非常に下手だった。どちらかと言えば元々、自立した人材を集めて、個々で考えさせたことをまとめることは得意であったし、むしろそういった形の方が楽であったからだ。 そもそも、トキワジムで起きた不祥事が全ての始まりで、俺が彼をを育てなくては行けなくなった要因だ。俺からすればもっと別の人間が任命されるべきだと思っていたのに。どうして彼が抜擢されたのか不自然きわまりなかった。 風当たりが強いのも当然である。たったの十四歳の子供に何が出来るのか、ということだ。しかし彼を抜擢した人間達はオーキド博士の孫であるという理由だけで、妙な期待をしていた。そして、注目を浴びせたかったのもある。ネガティブなイメージを全て吹き飛ばすような衝撃が必要であった。 さらに、彼自身も志願したのも大きかった。 前代未聞の十四歳というジムリーダーが誕生したのは、そういった経緯であった。 「なんだチャンピオン、不服そうな顔しやがって」 初めてトキワジムに新ジムリーダーとなった彼と一緒に足を踏み入れた時。俺はとてつもなく不機嫌な顔をしていた。無意識ではない。わざとだ。 それを見て彼もまた不機嫌な顔をした。大人と子供が似たような顔を浮かべて、キョロキョロと見渡せば、随分と綺麗にされたジムが広がっている。だが人の気配がないせいか、酷く殺風景に感じる。かつてここで多くのトレーナーがバトルをしていた様など、一つも残っていない。 ぐるりっと天井まで見渡した彼は、一言呟いた。 「ここ、俺の好きなようにしていいんだよな」 「常識の範囲内でね」 「ふーん」 案内図を持って、彼と共に細かい構造を見て行く。どこか執務室で、給湯室で、仮眠室で、ポケモン達の手入れ場所で、ジムを操作するパネルなど、色々とジム一つとっても色々とあるものだ。 最後まで説明し、俺も全てを認識するにはもう日が暮れた。 「あー疲れた。帰る」 それはお前が言う台詞じゃない、と言いたかったが、俺も少し疲れていたせいか、もう反応する気力も無かった。 それよりも、いかにこの子供をこれから手入れしていくのか、そればかりに気が行く。ただでさせチャンピオン業務も多忙であるというのに。トキワジムの事にもアンテナを張れというものだから、リーグ本部の人間達はきっと俺達の仕事を甘く見ているんじゃないかと思う。実際、そうなのだろうけれど。 ポケモンと人間の仲介を成すことは、微妙なバランスのコントロールが難しい。それをこんな子供に任せるなど。ただの話題性を狙ってテロリズムにしか思えない。どうせ何かあったとしても尻拭いするのは俺だ。 「君は、本当にジムリーダーになっていいのか」 「なんだそれ。もっと正直に言えよ」 「……君がジムリーダーになることが不安で仕方ない」 「あ、そ。俺は自分で志願したんだ。だからこれでいい。それにどっちかって言えば、心配なのは俺じゃなくてチャンピオン、あんたの諸々だろ」 もう月が昇る時分。トキワジムの出入り口を施錠して、俺はカイリューをボールから出し、彼はピジョットをボールから出して、お互いに岐路に着こうとしたときだ。 最初から話を聞く気もないくせに。とんだ生意気なクソ餓鬼だ。質問した俺も馬鹿だった。地雷を踏んだ。 「俺はジムリーダーになった。ここはもう俺の天下だ。経験値のあるあんたの言うことも、必要あれば聞くし、不必要と思えば切り捨てる」 「随分と大柄だな」 「こんな奴じゃねーと、ジムリーダーなんてやっていけねーんじゃねーの?」 肩を巫山戯てすくめる彼のその顔面を一瞬、ぶん殴りたくなったけれど。俺は耐えた。落ち着け、と言い聞かせた。どうせこれから彼と関わる機会は多々あるわけで。こんな最初から暴力を振るってはいけない。まだ、ここぞという時だ。 「大人をなめてると痛い目を見るよ」 「はっ。痛い目見んのはどっちだろーな」 瞬間、彼の目の色が変わった。 しまった、と思う。俺の背筋に悪寒が走る。 「俺をジムリーダーにさせたこと、後悔させてやるよ」 それは。まるで世界に対する宣言であった。 何か、地を這うような、足下から競り上がる冷気。彼の背後に立つピジョットもまた、主人と同じ目をしていた。笑っていた彼らに、ゾッとする。 そこでようやく、俺は気が付いた。根本的に、間違っていたのだ。俺は、彼を見誤っていた。 「―――――君は、復讐するのか」 その対象は果たして、何だ。 「はは。ぜってぇ教えてやんねー」 そうして俺と彼の攻防戦の、火蓋が切って落とされた。 - - - - - - - - - - |