悪夢ネタ
※レッドの生き霊に苦しまされるグリーンの話。※




 夢の中の。真っ白な空間で。
 俺は泣きながら、幼馴染みに首を締められるのだ。
 その理由も何も分からない。ただ、相手がひたすらに俺の名前を呼んで泣いているのは分かる。かといって、俺がどうすれば良いかは分からない。

 いつも夢の中で意識が吹っ飛び、目が覚める。つまり俺は夢の中で死ぬのだ。毎回。寝汗が全てベッドのシーツに染み込んでべちゃべちゃだ。気持ちの悪い、最悪の目覚めは朝の五時。毎日、俺は苛まれている。抜け出せなくなったのはいつの頃からだろう。俺がトキワのジムリーダーを初めて一年が過ぎた辺りからか。

 その幼馴染みは。今は行方不明であった。居場所は誰にも分からない。捜索願いだってとっくに出されているけれど、この数年お目にかかったことは無い。
 ずっと生死の有無は気になっていた。けれど、夢に出てくるようになったのはなぜか一年程前から。最初はとてつもなく困惑した。なにせ意味が分からない。どうして俺が幼馴染みに首を締められなくてはならないのだ。しかも本当の本気で締められてくるものだから、幾度と泣く俺は死ぬ想いをしている。これほど夢の中がリアルに感じられると、俺の日常にも悪影響を及ぼすようになった。ついクセで首回りは良く触ってしまうし、幼馴染みの指一本一本の圧力を思い出しては吐きそうになる。ジムリーダーとして仕事をしている俺にとっては苦痛だ。唐突にトイレに駆け込むこともある。
 目の下にある隈の色がいつまでも濃いまま治らないのもそれが原因だ。心がいっこうに休まらない。いくらリラクゼーションとして様々なことを試みても何一つとして改善されなかった。
 じぃさんや姉さんにも心配をかけるばかりだが、どうにもこれは俺の問題である為、仕方が無い。

 一度、精神科の先生に診てもらったが、原因は分からなかった。
 先生の方から「身に覚えのあることは?」と聞かれたが。そんなものあってたまるか。どうして俺が幼馴染みに殺されようとされなければならない。
 もしくは。俺が気づかない内に、幼馴染みに何かしらを働いてしまって、向こうが俺のことを殺したいぐらいに思っているのか。だが、そんな向こうが思っているからと言ってこちらに影響が及ぶなど。どれだけの思念の力だ。
 それに。向こうはいつも泣いている。憎しみではなく、俺は悲しみばかりを感じている。相手の。だから余計に話の辻褄が合わない。



 そしてさらなる異常事態が訪れた。
 また相変わらず。幼馴染みに首を締められて起きた夜のこと。慣れてきたとはいえ心臓に悪い。鼓動がうるさいまま耳を打つ。しかし喉が乾いて仕方ないから、いつも傍に置いてあるペットボトルの水を飲むのだけれど。この日は違った。
 体が、動かない。

「……ぁ、れ?」

 直後。があああああああ!と全身に妙な感覚が襲って来た。痺れというか、天地のひっくり返りそうな感覚。なんだこれ。呼吸も非常にし辛い。瞬きさえ出来ない。これは、何だ。パニックだ。声も出せない。まるで何かに拘束されているようだ。
 今は、夢の中ではないはずだ。それは認識出来ている。けれど、これは夢の中でもなったことがない。
 必死に気を落ち着かせようとして、頭の中にある引き出しを開けて開けて開けまくった。知識として、この状態を表す言葉が欲しかった。

 そして直後、思い当たる言葉が湧いた。ポケモンの技にだってあるじゃないか。

(金縛り、か!)

 どうやって解除したら良いのか。経験値が足りなくて分からない。時間が経てば収まるものなのか。どうなのか。瞳孔だけをきょろきょろさせて、他に誰もいない部屋を見渡す。今まで以上に汗が流れて仕方が無い。全身の水分が全部流れて行ってしまうのではないか、と思わせる。そうなると本格的に俺の命も危ない。
 そうしていると。意味の分からない声までもが聞こえて来た。すぐ近くなようで、遠いような、声だ。ノイズがかっていたが、徐々にはっきりしてきた。
 俺は無意識に、何を言っているのかを聞き分けようとした。金縛りの解けるきっかけにならないか、と必死だったのだ。

「グリーン」

 だが、聞くんじゃなかった。と後悔したのは。
 ひたすら。その声は何度も何度も何度も俺の名前を呼んでいる、幼馴染みのものだった。全身が凍り付いた気分だった。なんだこれは。どうしてこんな気味の悪い現象が起こっている。
 仰向けに成ったまま、完全に動くことすら放棄してしまった俺の目の前に、不意に影が指した。薄ぼんやりとした、影。これは、まずい。最悪だ。俺の体に乗っかっている。どうして唐突に現れたのか。いや、もしかすると、そもそも、ずっと「こいつ」は、俺の傍に居たっていうのか。

 直後。透き通った黒い両腕が首に伸びて来て、本当に俺は気を失った。

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