始まらなかった二人



「レッドぉー酒持って来たぞ酒」
「お。なになにその木箱」
「熱燗」
「へー。こんな所まで持って来ても大丈夫なんだ」
「大丈夫な奴、選んで買って来たんだ」
「グリーンもまめだね」
「誰のせいだ」
「はは。君の性格でしょ」
「お前な、これ結構探すの苦労した商品なんだぞ。感謝しろよ」
「ありがとー」
「全然心籠ってねーな。飲ませねーぞ」
「嫌だね。僕も飲む」
「わっがままだな」
「前から前から」
「何の弁解にもなってねー」
「なんでこんな上等なの買って来たわけ?」
「……分かんないだろ」
「うん」
「今日は、俺とお前が旅に出てライバルになった十八周年の日だ」
「あ、もうそんなになるのか」
「俺らも二十八だぞ。早ぇよなぁ」
「げっ。もうそんな歳食ってるの?」
「シロガネ山にいりゃぁ時間感覚も狂うって」
「自分の歳ぐらい把握してるつもりだったんだけどなー」
「何歳だと思ってたんだよ」
「まだ二十五ぐらい」
「もう三十路近いんだぜ?俺らも」
「そっかー」
「とりあえず飲むぞー。せっかく買ってきたんだから」
「そういえば初めてお酒飲んだ頃が懐かしいなー」
「べろんべろんに酔っ払ったもんな! お前!」
「グリーンもでしょ。僕だけじゃない」
「どっちもどっちだ。あの時のレッド、超面白かった」
「人を笑い者扱いするな」
「本当のことだろ」
「グリーンが焼酎とか買ってくるから悪いんだ。あんなの最初から飲むもんじゃない」
「勉強になったじゃねーか」
「あのまま下手したら凍死してたよ僕達」
「カビゴンがいてくれて良かったよなー! あの時は」
「笑い事じゃないって」
「ほらよレッド。御猪口」
「ありがと」
「いや。とりあえず今は昔のことおいといて、祝おうじゃないか」
「何その言い方」
「だって俺達がライバルになってもうそんなに経ってんだぜ? 感慨深いもんあるだろ」
「そう?」
「なんだよ俺だけ舞い上がってるみてーな言い方」
「僕は別にいつまでもグリーンがライバルで、それが揺るぎなければ問題ないし」
「ほぉー」
「巫山戯た笑い方だね」
「なんかレッドからそんな風に言われるのはこそばゆい」
「殴るよ」
「はは。冗談だって」
「あ、これ美味しい」
「だろ? 俺が選んだ酒なんだから間違いねぇって」
「ふーん」
「レッドもたまにはちゃんと自分の足で探して買ってこいよな」
「そんなの面倒くさいじゃん。グリーンが美味しいって思ったもの飲めたらそれでいいよ」
「二十八にもなってどうなんだよその考え方」
「僕の好みはグリーンの好みになってるから問題ないと思う」
「お前、本当に他に酒飲んでねーの?」
「だって買わないし」
「あ、そ」
「あーこれほんとうに美味しい。染み渡る」
「やっぱこんな時は熱燗だな。熱燗」
「そういえばグリーン。前に言ってた御見合いの話とかどうなったの」
「あ? それいつの話だ。随分前に終わってるぞそんなもん」
「え、結婚したの?」
「ちげーよ。破談だ破談。無かったことになった」
「なんで」
「人には合う合わないってあるだろ? 俺にはあの相手は無理だな」
「へー。そんなもんか」
「そんなもんだ」
「じゃぁグリーンどうすんの? だってもうそろそろ相手見つけないとやばくない? 前からずっと結婚したいって言ってるじゃん」
「慌てたってしゃーねーだろ? 縁に従うさそんなの」
「ふーん。僕は別に結婚とか興味ないから良く分かんないけど、そんなんで良いの?」
「余計なお世話だ。お前はお前の心配しろよ」
「だって僕、別に心配することないしなー」
「前から思ってたけど。どうして結婚とかしようって思わねーの」
「別にそれで僕が幸せになるわけじゃないし」
「じゃあどうすんだよ。これから先」
「別に変わらずじゃないかなぁ。もしやりたいこと見つかったらそっちに流れるだけで」
「のらりくらりして生き残れる程、この世界甘くないと思うけどな」
「まぁ見ててよ。僕は僕で上手いことやるから」
「そりゃ楽しみだ」
「でしょ。とりあえずグリーンは結婚とかするなら式呼んでよ?」
「お前、フォーマルな衣装ちゃんと持ってんのかよ」
「え。このままじゃ駄目なの?」
「閉め出すぞお前」
「やっぱり結婚式とかも面倒臭いなー」
「正式な格好持ってないからってあっさり面倒臭いで片付けるなよ」
「あれ、グリーン分からない? 世の中の大事なことっておおよそ面倒くさいんだ。だから僕にとってグリーンの結婚式は大事なんだよ」
「……何が大事なのか是非聞きたいもんだな」
「――――だってグリーンは僕のライバルでしょ? お祝いしたいじゃん。ちゃんと」
「そんだけの理由なら別に式来なくて良いだろ」
「一生に一度になっちゃうかもしれない舞台に立つ君を、見てみたいと思うんだ。まるであの時のチャンピオン戦みたいだから」
「なら俺だってお前の結婚式とか行ってみてぇがな」
「こんな辺鄙な所で出会いがあるわけないからねー」
「だから下山しろって」
「何千回と聞き飽きた」
「―――ー俺が、困るんだよ」
「何で?」
「察せ」
「えー。無理だよ。分かんない」
「分からないならいい」
「教えてくんないの」
「だから言っただろ。世の中そんなにあまくねぇって」
「ひっどいな」
「ひどいのはどっちだ」
「……それ、君の方だよ絶対」



(だって君が結婚してくれたら諦めがつくのに)
(だってお前が結婚してくれたら諦めると決めてるのに)


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 どこかで察しているクセに!


タイトルはこちらからpostman様

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