耳→誘惑
※レ←グリ風味※




「なぁ、レッド」

 酒の臭いが鼻に刺さる。
 かくいう自分の脳髄も、アルコールに侵されていた。

「襲わねーの?」

 その笑みを、握り潰してやりたい。
 一体こちらがどんな気持ちでいるのかを、こいつは握り潰しているから。
 これは侮辱だ、と思った。
 だが、仕返しをする勇気が喉まで出掛かって、止まってしまう。
 転がった酒瓶を横目に、馬乗りされて固まった体が情けない。
 ギリッと、相手に聞こえるほど、歯を噛み締めた。
 それを見て、不意に近付いて来た唇は、僕の耳へと添えられる。

「キス、してーな」

 注ぎ込まれた媚薬が、僕のスイッチを掠めた。それで、十分。
 自ら打ち建てたはずの強固な鉄壁ーーーだと思っていた壁が、見るも無残に崩れ落ちる音がする。
 あぁ弱い。弱い人間だ。畜生。その甘っちょろさに反吐が出たって仕方ない。
 しかし、僕はその出掛かった反吐を、全部ひっくるめて、流し込んでやった。


 抗えない誘惑に、息がつまる。


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あとがき
そうだ。全て、酒のせいにしよう。

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