それは緩慢な心中
※ツイッターでお世話になっているカミサトさんへの誕プレ小説です!バン.プオブ.チ.キンの「R./I.P.」にインスピレーション得ました。おめでとうございますカミサトさん!※





 マサラタウン。オーキド博士の研究所。並んだ三つのモンスターボール。初めての草むら。遭遇したコラッタ。ポッポ。間違えて向かったセキエイリーグ。ほらほら。いっぱい溢れてくるのはかつての鮮やかな気持ちだ。何もかもが俺の世界に傾れ込んで来て、とてつもない興奮に駆られ続けた。まるで魔法に掛けられたかのような感覚であった。今から思えば。
 その中心点にはいつもあいつがいた。どうしても切り離せない部分。あいつがもし居なければ、だなんて考えたり。どうなっていただろう、と考えるだけ無駄だ。あいつの存在はきっと、俺にとっては宝物みたいなもので。その在処を探し、見つければ歓喜し。中身を開けて落胆するか胸がいっぱいになるかは、分からない。
 俺達は旅をしていたのだ。ポケモントレーナーとして。その時は、俺にとっての道であった。あいつにとっての道でもあった。道が交差すればバトルをした。俺達だけの、秘密のバトルだ。あの瞳が今でも忘れられない。あいつとのバトルは最高だった。
 その中で。負けたり、勝ったり、繰り返していれば、気が付けば頂上にまで駆け上がっていた。あっという間の季節。全ての結論を出す為に挑んだ、最終バトル。何もかもが眩し過ぎて。掛け替えの無いもので。しかし、それら全てが終わってしまったらどうなったかと言われると。

 言えないことが多かった。伝えたいことが多かった。何一つとして、俺の口から飛び出す間もなく、別れることになった。同時に、魔法も解けてしまったのだ。

 どうして俺はあいつの背中を追うことが出来なかったのか。それを今更いくら考えたって答えなんて出るはずもない。その時の俺の選択としては、それが精一杯だったのだ。責めることも出来ない。あいつの背中は遠かった。俺が腕を伸ばした所で届くはずもなかったのだ。そもそも。それは、どうしてか、俺の胸に突き刺さっていつまでも抜けない針となった。ぐじぐじとホジクリ返される。いや、俺自身が、ホジクリ返しているのか。

 トキワのジムリーダーになった。また新たな道が出来る。あいつの道がどうなったかは分からない。知りたかったのに、知ることは出来ない。宝物の在処を探すには、俺は、自分をこの地へ縛り付けてしまった。かつてのように、自分の好きなように、宝探しは出来なくなった。リーダーとしての責任があるのだから。俺には。
 時間が経てば経つ程、込み上げてくる感情があった。それに名前を俺は、付けられなかった。なんと言ったら良いのか。そうして漸く、ある地点に辿り着いた。唐突に。まるで隕石が衝突したかのような衝撃が俺を襲ったのを、今でも覚えている。それはマサラタウンからトキワシティへ向かう際に通る、一番目の草むらから夕陽を眺めていた時に、心から輝いたモノだ。
 それは愛情であった。愛しかったのだ。かつての俺とあいつの関係が。ただ、それだけだった。俺がもし居なければ。あいつがもし居なければ。こんなことを想うことも無かっただろうに。想ってしまうのは、俺とあいつがこの世に生まれ落ち、出会ったからだ。景色が滲んだ。気が付いて、涙が出た。当然の事であるだけなのに。

 寂しかったのか。そう想えば、ストンっと綺麗に心の整理がついた。けれど、俺はどこかで、もう二度とあいつには会えない気がしていた。根拠は無い。ただ、そう感じていた。おそらく、あいつもきっと俺と同じ気持ちであったのかもしれない。心残りなのは、俺がもし寂しいと思っているのなら、あいつも寂しいと思っているのではないか、というところだ。それは、何て悲しいことだろう。
 あいつの立場に立てるなら、あいつの気持ちも全て汲む事が出来る。しかし、現実的に不可能だ。もはや分かち合えない遠い記憶の中で、いつまでも俺は安寧を求めて泳いでいる。ゴールなど、見つけられないだろうに。

 傍になんて到底いられない。俺はいつまでも、あいつの幻影を追い続けるだけだ。それでもいい。あいつがいた事実は本当で。あいつがいる事実だって本当なのだから。怖くなる時だってあるけれど。眠れなくなる日だってあるけれど。俺の中で確かにあいつは生きていて。死ぬ事は無い。そして、俺が死ぬ時に、共に死ぬのだ。

 マサラタウン。オーキド博士の研究所。並んだ三つのモンスターボール。初めての草むら。遭遇したコラッタ。ポッポ。間違えて向かったセキエイリーグ。かつての光景の中で、息づく想いがあるのなら。それだけでいい。
 そうして今日も、俺はボールを投げるのだ。熱烈な情景を胸に。投げるのだ。
 鼓動が聞こえた。それは確かに。俺とあいつが生きている証となる。

 
 
 
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あとがき
 安らかに眠れ。遥かな少年達。

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