雷神と風神
「よーデンジ。元気だったか?」
「おかげさまで一週間は風邪で寝込んでたな」
「はは。ざまぁみろ」
「グリーン、お前、俺に何か恨みでもあんの」
「べっつにー」
「そこまであからさまだといっそ清々しいな」
「雷神と風神の仲なんていっつも悪いだろ」
「そのレールに乗るつもりなんて俺は一切無いんだがな」
「じゃぁいちいち俺にプロポーズの言葉と贈り物してくんの、止めてくんない」
「それは俺の気持ちだ」
「気持ち悪ぃ」
「他人の愛情は否定するもんじゃないぞ、風神様」
「お前ね、ただでさえ神様同士でしかも雷神と風神だなんて性質的に正反対の俺達なんだぞ。おかしいだろ。どう考えても」
「常識的に、ってか」
「そもそも、神様なんてくっつくもんじゃねぇだろ」
「俺、お前好きだもん」
「もん、とかキモイ」
「そんな言葉を神様が使っちゃいけないだろ」
「なら普通に喋れ普通に」
「俺はお前のことが好きだ」
「……」
「もう一回か。俺はお前のことが」
「だぁもう、もういい!」
「何だ、分かってくれたか」
「違う」
「なぁ風神様。俺、本気なんだけど」
「俺は本気になんてなれない」
「他人の本気を簡単に叩き潰すのか」
「神様なんてそんなもんだろ」
「なんてこった。この神様最低だな」
「風神なんだぞ俺は。好き勝手に風を巻き起こして人間達の暮らしを応援するも奈落に突き落とすも自由だ」
「だからって好き勝手にして良いってことじゃないだろ」
「お前はどうなんだ雷神様」
「雨を降らして雷を落とし、人間達に恵みと恐怖を与える仕事だな」
「あんたも変わらないだろ」
「馬鹿言うな。恵みを得る為に代償として恐怖を味合わないと割に合わないだろ」
「何てこじつけ」
「言ってろ。そして話を逸らすな」
「逸らしてない」
「俺はお前が好」
「ああああああ聞きたくないねえええええ!」
「喚くな風神」
「分かった。分かったからもう言うなよ。あのな、俺のどこが良いってんだ」
「全部」
「訊くんじゃなかった」
「ほら、受け取れ」
「傲慢だな」
「なんとでも」
「何だこれ」
「指輪」
「はい焼却ー」
「そうすれば呪いが掛るようにしてやった」
「え゛」
「お前が絶対俺から離れられないように」
「解除してやる」
「やってみろ、呪いが跳ね返るぞ」
「う゛」
「なぁ、いい加減に諦めたらどうだ」
「嫌だ」
「何でだ」
「好き、だなんて。そんな感情、あっちゃいけない」
「どうしてだ」
「それで死んだ奴を俺は知ってるから」
「……どういうことだ」
「本当に、死んだんだ。ただ、その感情だけにつき従ったから。それが原因で。死んだ」
「意味が分からない」
「お前の前の雷神が、それで死んだ。だから、俺は信じない。そんな感情、破滅しか生まないんだ。俺達は、神様だから。人間みたいには行かない」
そうして風を纏って逃げた彼の背を、雷を従えた彼は見送ることしか出来なくて。
それでもまた会えば同じことを繰り返すのだろうと、頬を指で掻いた。
少しずつ見えてきた彼の内面に、どこか嬉しさを覚えながらも。
寂しさを伴った横顔が彼の脳裏に焼き付いて離れなくなってしまった。
「やっぱり、既成事実から作った方が早いのか」
と、どこかまたぶっ飛んだ思考回路に至っていることを、風神の彼は知らない。
(あとがき)
神様同士ってきっと色々大変なんだと思う。