人造人間と博士
俺を造り出した彼の名はグリーン。博士、と周りから呼ばれているが、公式的に認められているわけではない。ただ、彼は物造りが好きで、良く色んなものを発明しては町の人に重宝されていたから、そう勝手に呼ばれているだけだ。効率よく大木を切ることが出来るチェーンソーだとか、一定に温かさを保ってくれる暖炉の開発だとか、その技術を格安で町人に提供しているものだから、彼が一度声を掛ければ大勢の町人が協力をしてくれた。資金の調達や材料の調達など、それは凄まじい物々交換だ。技術と労力の。それが良好な関係を保っていた。
しかし、俺が生まれたことで歪みが生じた。俺はいわゆる人造人間で、グリーンが初めて作った『人間』だった。生まれた瞬間は赤子レベルの言語能力と知識だった俺も、グリーンに様々な情報を叩きこまれれば三カ月でここまで成長することが出来た。グリーンは、良く俺のことを見る度に笑っていた。生まれてくれてありがとう、とことある毎に言われた。一体、具体的に何に感謝されているのか良く分からなかったが、彼の言葉がとても心地よくて、特に疑問を抱くことなく過ごしていた。
ある日。町人達がグリーンの家にやってきた。どうやら、俺を造ったことが彼らに漏洩したらしい。人造人間だなんて、一般的に聞いたら心地良いモノではないだろう。おそらく、町に何かしらの被害が及ばないかなど、確認に来たのだ。俺が本当に暴走しないのか。危害を加えることはないのか。それに対してもグリーンは、笑って応えていた。
「あいつは俺の言うことだけを聞く。俺が命令しなければそんなことはしない。そして俺はあなた方に何かしらの危険を及ばせるつもりなんてない」
大丈夫だ、と。いつもグリーンにお世話になっている俺は、その言葉を部屋の影から隠れて聞いていた。確かに、俺はグリーンの命令が無ければ動くことはないし、町人達に暴力を振るうなんて考えにも及ばない。俺は基本的にグリーンの為に生きていた。それは彼に造られたからだ。俺の存在理由は彼がいることで、それ以外に何も要らなかった。必要にすら、感じなかった。
グリーンだけが俺の世界の全てだ、という感覚が当然で。他の生き方なんて考えもしない。人造人間は、人間でありながら、そういったことを考えることは放棄している。根本的な部分は、すでにグリーンに設定されていたから。
「お前の金色の瞳は純金なんだ。汚れることが無いように。何者にも溶かされないように。ゴールド、お前だけは俺の為に生きてくれ」
俺の頬を両手で挟み、額と額をコツンッと合わせて、祈るように彼は告げた。それを、俺は何の躊躇いも無く受け入れる。グリーン、グリーン。俺を造ってくれた愛しい人。あんたの望みなら何でも叶えるよ。俺は、その為に居るんだ。この世に存在する理由は、あんた唯一人。あんたが居るから俺は居る。それだけが、俺の世界の全て。構成する要素。
「お前だけは、―――死んでくれるな」
そう、それは俺だけの話だ。
あんたの中に別の存在が居たって、俺は構わない。俺が存在出来る理由さえあれば。あんたが、悲しい顔をそれ以上しないで済むなら。俺はいくらでも存在し続けよう。あんたが死ぬまで、傍にいる。分かっている。なぁ、あんたが俺を造った理由なんて、訊かない。だって、そんなことインプットされてないんだから。そもそも尋ねる必要なんてないんだろ。
愛しい人。こうやって俺は、今日もあんたをこの造られた両腕で抱き締めて。眠るんだ。
(あとがき)
幸せを補い合い悲しみを隠し合う二人。