吸血鬼と吸血鬼








 双子の吸血鬼なんて厄介以外の何モノでもない。


「クダリ、またそのようなことを」
「へへー綺麗でしょ?」
「後片付けの方が大変です」
「真面目なんだよノボリ兄さんはさー! もっと刺激的に生きないと人生損だよ」
「ワタクシ達の寿命がいくつまであるとお思いですか、あなたは」
「ざっと千年くらいかな?」

 ケタケタ笑いつつ、人間の中でも美女と呼ばれる部類に入る女性の髪の毛を掴んでいる白を基調とした貴族服を纏った吸血鬼は、そのまま手の力を抜いた。べしゃっ、と落ちた女性の顔に、あからさまな嫌悪を示した黒を基調とした貴族服を纏った吸血鬼は、ただため息をつくしかない。

「この調子ではいくら人間たちから献上される女性がいても足りなくなるではないですか」
「その辺りの管理はノボリ兄さんが徹底してくれてるって分かってる」
「そうやっていつまでも甘えられるとは思わないでくださいまし」

 クダリ、と呼ばれた彼は。その女性の血を全て吸ってしまったのだ。まるで眠るように蒼白なまま死んでしまった女性の首筋には鮮やか吸血痕がある。二本の牙が刺された証。しかしこのようになるまで血を吸うことは、吸血鬼同士の間では良くないこととされていた。血液提供をしてくれる人間の数を減らしてしまうことは吸血鬼にとって非情に死活問題となる。だから人間は殺さない。血の量を調整して、複数人の人間から奪うことで、殺すことがないように、かなり皆が神経を使っているのだ。
 それなのにこの吸血鬼ときたら、今月で五人も殺してしまった。定期的に町から献上されてくる女性なので、もう家には戻れない覚悟も出来ているし、家族だってそうだった。しかし、こうやって死んでいくのはあまりに不憫では無いだろうか。本来ならば、吸血鬼側が配慮して生きながらえさせるものなのに。

「だってさ、吸血鬼の餌となることがこの娘にとっての人生とか。そんなの最悪じゃない? 早くこの世から居なくなった方が幸せでしょ? そう思わない?」

 ノボリ兄さん、と付け加えて。
 クダリはそのまま、殺してしまった女性の遺体を横抱きにする。そのまま処理場へと向かうのだ。彼らが所持している焼却炉は凄まじい性能で、骨の一つも残らないほどの威力を誇る。それは単純に使用するモノの魔力も絡んでいた。強ければ強いほど、鮮やかに体を焼き尽くす炎を生み出すことが出来る。
 そうやって完全にこの世から存在を消す餌の骸。いや、少しそれには語弊がある。彼女の血液は、遺伝子は、クダリの中で行き続けることが出来る。

「……片付けが終わったならすぐ、リビングへ来なさい」
「おっけー」

 手をひらひらと振るクダリに、ノボリはため息しか出なかった。
 体型も顔もほぼ同じ。彼らは双子の吸血鬼だった。不吉の象徴と謳われている。しかし、これといって彼らの周囲に災いのようなものが起こったことはない。しかし、彼らの生命は長い時間をかけて続いていく。その中で何が起こっても不思議ではない。とてつもない天変地異が起こる可能性だって否めない。
 なぜ双子の吸血鬼が不吉かと言えば、単純にその数が少ないからだろう。珍しいという単語を使うのが一番良いのかもしれない。遺伝子的な問題なのか、そもそも双子というものが出来にくい種族であるらしい。
 だが、ノボリが厄介だと思っているのは、そんな一般的なことではない。クダリと全く同じ顔をしている彼は、時折可笑しくなるのだ。先ほどのときもそうだ。女性の髪の毛を掴んでいたのはクダリであるはずなのに、それをまるで鏡に映った自分のように捉えてしまう。服の色だって話し方だって違うのに。どうしても払拭できないことがある。錯覚は、日に日に威力を増しているように思えた。
 クダリにそれを相談したことはない。しかし彼ら双子だ。そんな状態にノボリが陥っていることくらい、クダリにはとっくの昔にバレている可能性だってある。それを分かっている上で、クダリはまるでノボリを追い詰めていくかのように、こういったことに及んでいるのではないだろうか。

「ノボリー」
「終わりましたか」
「うん。お風呂入ろっかな」
「お先にどうぞ」
「ノボリも一緒に入ろうよー」
「何を子供のようなことを」
「ボク子供だからさ」
「大人になる努力をなさい」
「つまんないよ、大人になったって」
「子供であるままは許しませんよ」
「誰が」
「ワタクシが」

 クダラナイやり取りを繰り返して、最後に折れたのはクダリだ。
 ちぇ、と一言不満気に零して、バスローブを用意して部屋を出て行く彼に、ノボリは項垂れる。こういった時は、双子であるのにどうしてここまで違うのか、と思うのに。どうも吸血行為といった本能的な部分になると非常に、ノボリとクダリは似ている気がしたのだ。嫌な汗を頬に流しながら、ノボリはそのまま気分転換に本を読もうと本棚へと向かう。

 ふと部屋の反対側に置かれた姿見が目に入って、ノボリはまるでクダリに見られているかのような感覚に陥って。
 結局のところ、気分転換など何も出来なかった。








(あとがき)
 複雑な双子吸血鬼の兄ちゃんの事情






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