海賊とセイレーン
「N、歌ってよ」
「ダメだよ、僕が歌うと嵐が来るって言ってるでしょ」
「嵐なんて来たってこの船は潰されない。それよりも俺はNの歌が聞きたい」
「無茶苦茶言うね、ほら船員さん怖がってるよ」
「また叩きなおさないとならねぇな。根性無し共め」
「船長がそんなこと言って良いの?」
「良いんだよ。ここの法律、俺だから」
「はは、大変だねぇ。ここの船員さん」
「嵐がなんだ。海軍がなんだ。どいつもこいつも叩き潰せば良いだけだろ」
「頼もしい発言だけど、自然現象なめちゃダメ」
「そんなもんにビビッてちゃ海賊なんてやってらんねーよ」
「分かるよ。君の自信は。でもね、船員さんのことだって少しは考えてあげないといつか見放されちゃうよ?」
「俺のやり方が気に食わないならとっくにここからは出てってるはずだ。俺は別にこいつらを拘束してるつもりはない」
「いや、それでもさ。セイレーン見つけて捕獲して船に乗せるのはさすがに引かれて当然だと思うよ。しかも歌まで要求しちゃってさ」
「だってお前の歌、超綺麗じゃん。勿体無いだろ、聞かないと」
「あのね、これは別にセイレーンの能力であるだけで、僕の歌かって言われるとちょっと違う気がするんだけど」
「Nの歌であることに変わりないし。俺、お前の声が好きなの」
「強情だね」
「海賊だからな」
「分かった、歌ってあげても良いけど。この船が転覆しても責任取らないからね」
「大丈夫だって」
そう言ってセイレーンの長髪へと指を埋めた海賊船の船長は、ゆっくりと瞼を下した。とても幸せそうな表情で、セイレーンは静かに空気を震わせる。遠く、海の向こうから落雷が響いた。
(あとがき)
海の魔女に囚われたトウヤ君。