陰陽師と鬼
「グリーン、あれほど人を脅かしちゃダメって言ったでしょ」
「だッ、だって、あいつらが森の木を切ろうとするから」
「追い返すなら別の方法もあったはずだ。さすがに崖から落ちたら助からないよ、人は。君のような鬼ではないんだ」
「う……」
霧も深い朝方、陽ですら片鱗を見せていない。冬が迫ろうとしていた。
とある森で影が二つ、浮かび上がっている。
「お仕置、だね」
それは、主従関係の象徴と言える。
狩り衣を纏った男は陰陽師だった。この近辺では最も実力があり、人々に慕われている男だ。かたやその男の身長の半分程度しかない子供の頭には、二本のツノが生えていた。そして爪も長く太い。格好と言えば局部を慰み程度に隠す麻布くらいで。いわゆる鬼、と呼ばれるケモノだった。
「!、ィヤだ、俺は悪くないだろッ」
「君の意見なんて聞いてないから」
なんとも非道な発言だった。
しかし仕方ないのだ。上下関係を覆すことは出来ない。力の差は歴然としている。何よりもこの陰陽師はこの鬼の「名」を知っていた。それは男が無理矢理聞きだしたのだ。鬼に術で苦痛を与えて、吐き出させた。その瞬間からこの男が鬼の主であり、絶対的に服従しなければならない存在となった。
名は、その存在を拘束する最大の呪いだ。
「僕に逆らえば、傷つくのは君だ」
「!?っぁ゛」
ジュッと皮膚の焼ける音がした。鬼が地面に蹲る。うめき声が辺りへ響いた。陰陽師の男は、ただ口角を吊り上げている。
「ねぇ、いつになったらちゃんと学習してくれるのかな」
「あ゛、い゛だぁ!」
「僕はグリーンの主人なんだから、逆らっちゃダメだって」
鬼の髪の毛を思い切り掴み、そのままグイッと顔を上げさせた。痛みに苦悶する鬼の顔など、彼にとっては楽しみの一部でしかない。鬼の右腕が焼け爛れていた。これは、制約だ。
ひぃ、と小さく悲鳴を上げて泣き出した鬼に。
男は満足そうな表情を浮かべていた。
(あとがき)
陰陽師レッドにやりたい放題に弄ばれる可哀相な鬼グリーンちゃん。