僕の口を甘やかすバカ ※原作レグリ。可愛らしい二人、を目指しました!※ 「あーもうレッド、だからお菓子床に零すなっつっただろ、零したなら拭け! そんぐらいも出来ねーならもう来んな! 迷惑だ!」 と怒りながら、紅茶を用意してくれる幼馴染みに、僕は口の端を緩めた。 薄く色の付いた白熱球。小さな白いお皿に乗せられた手作りのマフィンは、口の中でもふもふと溶けて行く。幸せを噛み締めて、暖かさでお腹が満たされる。愛情が血液を巡る感覚。普段、あんな雪山の頂上で過ごしているだけでは感じることが出来ない空間だ。それを作り出してくれるグリーンには本当に感謝している。 グリーンの自宅はトキワシティにあるマンションで。ジムリーダーをして数年目に購入したらしい。しかし蓋を開けてみれば、この部屋は僕とグリーンしかほぼ利用していない。僕もマサラタウンの実家へ行くよりも、明らかにこちらへ足を運ぶことが多かった。つまり、ここは、僕たちにとってのマイホームとも言える。 愛されてるなぁ、僕は。 「気持ち悪ぃ顔しやがって」 眉間に皺を寄せているグリーンも可愛かったし、ため息混じりでお皿を洗う彼の姿もまるで妻のようだ。ゆったりソファに座って寛ぐ僕は、ピカチュウの小さな額を撫でていた。傍で丸まったイーブイがグリーンのことを待っている。誰もがこの空間の心地よさに目を瞑って浸っている。 挑戦者とのバトルとの高揚感とは反対で、ここでは心が穏やかになる。そうやってどちらも味わうことが出来れば精神的に僕は非常に満たされる。 キッチンから手を拭きながら戻って来たグリーンにはエプロンがつけられていた。それをあっさり外して、向かってくる。その姿がまた可愛いもので。 「だいたい。何の連絡もナシに来るっていうのがすでに社会人としてどうだって話だ。お前なぁ、俺だからって甘え過ぎなんだよ。ちったぁ考えろよ」 「うーん。ごめん」 「気持ちのこもってねぇ返事なんていらねぇ」 「こめてるよ」 「嘘臭ぇ」 呆れたようにドカッとソファに座り込んだグリーンに、飛び跳ねたイーブイ。ちょっとキョロキョロしたが、しかしすぐに、その膝へと収まった。僕とグリーンが並んで、このソファはいっぱいいっぱい。グリーンがリモコンに手を伸ばしてテレビをつけた。ニュース番組が流れる。僕たちにとってはただのBGMにしかならないのだけれど。それすらも今の僕にとっては愛おしかった。 「グリーンは僕のこと信用してないの」 「信用されるようなことしてきたかお前。どっちかっていうと裏切られてばっかりだ」 「ははは。そっか」 「笑い事じゃねーよ」 「うん、そうかも」 何がそんなにおかしいのか、きっとグリーンは分からないのかもしれないけれど。こうやって君の傍にいられるだけで僕は幸せだし、君にどんなことを言われても幸せだし。だから僕は基本的に、幸せな人間である。 グリーンがいられるだけで幸せになれる僕は、世界一幸せ者だ。 本当に、僕はグリーンに出会えていなければどんな人生を送っていただろうか。不幸せな人生を送っていただろうか。それとももっと別な形の幸せを見つけていただろうか。それとも、どんな人生になっていてもグリーンと僕は出会う運命にあったのだろうか! 一番しっくりくるのは最後だ。うん、多分そうなんだろう。 「もし俺がいなくなったりでもしたら、どうすんだよ」 グリーンはきっと。盛大に甘えている僕のことをそれはもう良く分かっている。それでも拒絶しない。否定もしない。ただこうやってぶつくさと文句を言いながら甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。そして時折、こういった質問も投げかける。これらも全て、僕には、僕の為を思って言ってくれているとしか思えないのだ。 グリーンがいなくなったらどうするかって。それはもう聞かなくたって分かっていることだろうに。おそらくグリーンはそれを望んでいないのだろうけれど。関係がない。 「そんなこと。あるわけないから考えないよ」 「――――馬鹿野郎」 「ははは。それ、グリーンが一番良く知ってるクセに」 本当の馬鹿は、どっちだろうね。なんて決して口には出さないのだけれど。 君の家で。こうやっておもてなしされて。寛いで。君のことを感じる瞬間があれば。それで良いのだ。 余計なことなど考えない。考えないようにしている。だって、そんなの今の僕たちには必要のないことでしょう? 「グリーン。眠い」 「寝ろ」 そうしてグリーンの肩に頭を預けた僕は、ゆるゆると意識を手放して行った。 グリーンがどんな顔をしているかも分かっていた。 それでも。僕はやっぱり、今の僕たちのままを、ありのままの幸せだけを、感じていたいと思うのだ。 願うのだ。 - - - - - - - - - - あとがき とらやさんへ!大変遅れました。可愛らしい感じのレグリを目指したところ、私にはこれが限界でしたいやっふー!どうぞ受け取っていただけると幸いです! |