一息は 悲痛な叫びが部屋を木霊している。十歳の少年が男達に犯されている声だ。本来の体の器官の使用法を逸脱した、愚かな行為。しかし、それは最も相手にとっては屈辱的でプライドの全てをへし折るには適した行為。そして己の欲とストレスを発散するには。 後ろから抱えられるように一物を突っ込まれた彼の口にはまた別の肉棒が突っ込まれている。一人ずつヤルよりも複数人で行為を進めたほうが効率が良いとのことだった。クダラナイ。卑猥な水音と下卑た笑い声、そして少年のくぐもった声。こんな閉鎖的環境に身を置いている限り仲間達のそういったフラストレーションが溜まるのは目に見えていたが、まさかこんな少年を使ってそれを処理しようと思い至るとは。ちょっとさすがに俺は引いてしまった。だが、俺以外の仲間達は皆が彼を犯すものだから、俺だけがまるで異常者のようになっている。 いつのまにか、事後の体液に塗れて汚れた彼の世話をするのが俺の役割になっていた。ただそこにあったのは、やはり同情だけだった気がする。局部を痛めつけられ散々男の象徴を相手にさせられた精液塗れの可哀相な少年。何も処理されずいつもベッドの上に放置され続ける。感染症でも発生すればさらに面倒だったので、まぁ一石二鳥だったと言えばそうだ。ただ、風呂は使えなかったから、お湯に浸らせたタオルで体を拭いたりすることしか出来なかったけれど。 彼は決して口を開くことはなかった。俺に対しても仲間に対しても。しかし警戒心だけは俺の前で解いてくれていた。おそらく、本当に俺が何もしないことを理解したらしい。当初の頃はそれはもう手負いの獣のような抵抗っぷりを見せられたが、今となっては可愛らしいもんだ。 ちなみに暴力も相変わらず続いている。おかげさまで胸部から腹部はもはやほぼ肌色を失くし、ただ真っ青に染まっていたり紫色になっていた。背中もだ。ただ、複雑骨折をしていないだけマシか。足や腕には切り傷や火傷の跡が多数見受けられる。仲間達がフザケてナイフの刃を彼の皮膚に突き立てたのと、煙草の火を押し付けた痕だ。 そんなことをされながらも、ここまでなんとか彼の精神が持っているのが、驚きに近い。 「体拭くぞー」 一応、一言だけ断りを入れるものの、あまり意味をなしていない。 お湯で絞ったタオルを彼の体に這わせた。痛みが走るのか時折体をビクッと跳ねさせるものの、抵抗は無かった。局部は特に痛々しい。ちょっとお湯を多く含ませた状態のタオルで拭いていった。それにしても他人の精液ほど見たくないものはないんだがな。自分のだって、そんなに積極的に見たいと思わないってのに。ただ外部に撒き散らかされた精液はそのまま酸化して死んでいく。 こんなにも少年の体にまとわりつきながら簡単に死んでしまう命の種で生まれた俺達なんて、よほど元々からどうでもいい存在なんだな。 この一ヶ月。少年が痛めつけられている中、何もメディアでは報道がされていない。オーキド博士には確実に脅迫文書を送りつけたのだから、何かしらのアクションがあるかと思ったが、そうでもない。それが仲間達が彼へ暴力行為を過剰に働かせている原因の一環になっている。もしかしたらメディアには報道せずに事を済まそうとしているのかもしれない。何せ相手は世界的権威者だ。傷を付けたくないのではないか、己の経歴に。 (まぁ、そんなどうでもいいこと気にしている間にお孫さんはズタボロになるだけなんだけどね) 着々と衰弱に向かっている少年は、それでもまだ死ねない。この一ヶ月に受けてきた数々の仕打ちに、それでも生命力は底を尽きている訳ではない。とんでもないガキがいたもんだ。俺だったらとっくに壊れていると思う。 彼をこの世に留まらせている砦はなんなのだろうか。どうしてそこまで自分を保てるのか。散々、屈辱を受けているのに。 「ねぇ、殺してやりたい?」 疲労で意識を飛ばしているであろう彼に、ふと尋ねてみた。聞こえちゃいないのに。つい零れてしまったそれはすぐに空気に掻き消えた。吹き終わったタオルを最後に洗って絞れば、桶の中に残された汚れたお湯を捨てなければならない。持って立ち上がって部屋を出た。 その直後に「あぁ」と、一言だけ呟きがあったことを。俺が知ることはない。 いよいよポケモン達は衰弱の一途を辿っていた。ガリガリと浮かび上がる骨に張り付く皮膚。そりゃこんな森の中だけで食料を探せというのがそもそも無理な話。大抵の食材の範囲に入るものは食い尽くされてしまっていたし、もはや限界かと思われる。 俺達は基本的に私服で町に出かけて食料を調達できた。金はスリでも何でもして得ていたので、それほど困ることもなかった。だが彼らとあの少年は違う。体力的にもギリギリにする為にもはや人並みの食事は与えられていない。 「なぁ」 驚いた。 またいつものようにお湯とタオルで彼の体を綺麗にした後のことだった。 初めて、まともに彼の声を聞いた気がする。 変声期をまだ迎えていない、俺達なんかよりも高めの音。 目を丸くする俺に、彼は傷んでいる体を何とか起こして、お互いに向き合った。 「俺のポケモン、どこにいる」 瞳に宿っていたのは、光だ。 ゾクッ、とした。その奥の奥から燦然と輝きを放っている。信じられなかった。この一ヶ月に彼に散々浴びせられてきた行為は、一つとして彼を崩壊させてなどいなかった。なぜだ。驚きに絶句した俺は、彼の質問に答えることなど出来なかった。 「もう殺したのか」 淡々と、何の表情変化もなくそう言い放ったれる。自分の手持ちのポケモンが殺されたかどうかなどを、尋ねる顔だろうか。これが。 「いや、まだ生かしてある」 「ってことは、殺すのか」 「まぁ、用が済めばな」 「お前ら、レッド探してるんだろ」 唐突に出された名前。 あぁ、そうだったよ。あまりに収穫の無い日々が続いていたせいで、その名前が若干頭から遠のいていた。元々の俺達の目的。と言っても、俺は最初からレッドという少年にあまり興味は無かったのだが。 「じいちゃん脅して、レッドを誘き出そうとしてんだろ」 「まぁ、そんなとこかな」 「別に俺が言ったってしゃぁねぇけど、何の効果もねぇぞ」 声色が変わる。 それに含まれていたのは自嘲だ。この少年がここに来て初めてみた、己を貶そうとする発言の仕方に、俺も気が変わる。何を言い出し始めるのか。 「じいちゃんは俺のことなんて探さない。だからお前らのして欲しいことだってしてくれない。きっと」 「どうして? 君は孫なんだろ。オーキド博士の」 「俺がまた旅に出たと思ってるからな」 「でも脅迫状を」 「そんなもの、俺が旅に出てる間に何通あったと思ってやがるんだ。日常茶飯事なんだよ、俺が誘拐されるのなんて。それに、じいちゃんはもう俺に興味がない」 ほぅ。どういうことだろうか。 世界的権威を保持する偉大なポケモン博士が、ポケモンにはご執心であるにも関わらず実の孫には興味がない、と。大層なる矛盾だ。一般的な目で見れば。 「俺がもし丸裸にされて両足も両手も首も切られてどっかにバラバラにされて捨てられてたって。きっと興味がない。じいちゃんが今一番興味があるのは、レッドだ。俺じゃない」 「なんだそりゃ。孫の君よりもあの子の方に?」 「あいつの方が面白いんだ」 そんなことで孫から興味の失せる祖父がいるというのなら、この世って意外にとっくに終わってるのかもしれない。 たいがい俺達も最低なことはしてきたし、最低な世界を見てきたつもりだったが。もしかすればまだまだ甘かったのかもしれない。そもそも比べられるものではないのだけれど。 「何でだろうな。それってずっと前から分かってたのに。俺なんかよりもずっとあいつの方が面白い奴だったって。俺なんかよりも全然ポケモンに触れたことが無かった奴のほうがよっぽどポケモンのことを分かってた。いや、違う。分かろうとする努力を誰よりもしていた。俺はただ得た知識を振り回してポケモンにそれを押し付けてただけだ。けど、それでもチャンピオンにまで登り詰めたんだ。俺のやり方だって悪いわけじゃなかった。でも負けた。後からついてきたあいつの。俺のやり方もあいつのやり方も、どっちも間違ってたわけじゃなかった。ただあの瞬間は、あいつのやり方の方が正攻法だったってわけだ。それを持ってなかった俺は負けた」 「違うよ」 滑稽な話だ。 笑いが止められない。なんだこの少年は。面白すぎる。 「君が弱かっただけだ。それ以上でも、それ以下でもない。君があのレッドとかいうトレーナーに負けたのは、君が弱かっただけだ」 指を差しながらそう告げる。 「そんな風なクダラナイ御託を自分に対してつらつら並べる暇があったら、ポケモンバトルで強くなれば良かったんだ。どんな手段でも方法でも勝てば官軍。負けたら賊。俺達は文字通り賊になったよ。だから君のような少年を自分達の都合の良い脅迫材料として誘拐し、自分達の欲求不満解消に暴力を振るい、強姦する。弱くて腐ったどうしようもない人間だ。でもそれって、俺達が強かったら良かったわけだろ。俺達があのトレーナーに負けなけりゃ良かったんだ。負けちまった俺達はもうプライドを持つことも許されない。ただどこまでも狂っていくしかない。その標的にされた君は、本当に可哀相だ」 そう。本当に。 「可哀相だ」 呆けた顔で、俺のことを穴が空くんじゃないかというくらいに見つめてくる。その、あまりに年相応過ぎる顔に、先ほどまでの自嘲的な表情とのギャップを感じた。 「お前は、何で俺に何もしねぇの」 何を言っているんだか。 俺が一番、この少年に対して屈辱的なことをしているというのに。 「俺は君が面白い。俺は君に興味がある。客観的にずっと見ていたいと思った。俺まであのクソみたいな行為に参加したら、それが見られないだろ」 この環境の中での俺にとっての娯楽は、この少年がこれから一体どうなっていくかだ。そうして自分の楽しみの為に鑑賞を続ける。最もタチが悪い。けれど、そう言って笑った俺に、彼は力なく笑った。初めてみる笑顔だった。 「お前、面白いな」 そうして、少年にそう切り替えされた俺は。 ただ目を丸くした。 → |