最期の
※注意書き:グリーンが酷い目に遭ってます。暴力描写多々。強姦されてますが直接的な性描写は無いです。※





 俺達が彼を拘束してから早一ヶ月が経過した。




 ロケット団がたった一人の少年ポケモントレーナーに壊滅に追いやられ、ボスが解散宣言をしたおかげで統率を失くし散り散りになったロケット団員達は、それぞれが途方に暮れていた。ロケット団でボスの信念の下集まっていた俺達は、そのたった一つの灯台を失ってしまっただけで目標も誇りも何もかもが消えてしまったのだ。そう、もしかしたらこんな俺達だったからこそ組織が崩れてしまったのかもしれない、だなんて考えが過ぎったりもしたが、認めたくなかった。あのトレーナーにやられたから、あのトレーナーがいなければ、あのトレーナーが。ただそれだけしか皆の頭にない。そうやって何かの対象に感情をぶつけなければ皆がやっていられなかった。この不満、憎悪を消化出来なかった。
 だからあの少年トレーナーを探す団員達がかなりいた。見つけ出して必ず復讐しようと。もしくは犯罪行為に手を染めてストレスを発散する者もいた。ロケット団としてやってきたこを継続させようとする者もいた。幹部をしていた人達は新たなリーダーとなりボスが帰還するまで待つと宣言する者もいた。

 俺のつるんでいた奴らは、壊滅に追いやった少年トレーナーとは別のトレーナーに目をつけた。

「ほら、やっぱりな」

 かつてシルフカンパニーを拠点としていた際に作動していた防犯カメラの映像をこっそりと持ち出していた俺達は、とある森の中の空き家に。そこに二人の少年がポケモンバトルをしている姿が映し出されていた。俺達の基地で好き勝手にやってくれたものだ。もしかしたら彼らにとっては俺達の存在なんて些細なものだったのかもしれない。遊びの一環だったのかもしれない。だって結局、ロケット団とあの少年トレーナーの間にあったのはポケモンバトルだ。それが彼にとって遊びだったとすれば、単に俺達はその遊びに負けてしまっただけ、ということになる。
 非常に、くだらなく思えてしまった俺とは反対的に、仲間達はどうやら様子が違った。ロケット団を潰したのは赤い上着と帽子が特徴の黒髪のトレーナーだ。しかし、こいつらが目をつけたのはそのポケモンバトルの相手をしていた茶髪の少年トレーナー。

「こいつ、あのオーキド博士の孫らしい」

 どこで調べ上げたんだか知らないが、とりあえず俺達はこのガキを誘拐することを決めた。住んでいる場所はマサラタウン。俺達が迷走している間に、彼らはセキエイリーグでチャンピオン決戦を迎え、そしてあの赤い上着の彼が頂点に立ったらしい。オーキド博士の孫は負けた。あの世界的に権威のあるポケモン博士の孫が負けてしまった。
 そんな彼をなぜ誘拐するのか、仲間の意図が良く分からなかったが、その少年を調べた仲間の団員いわく。彼らはマラタウン出身の幼馴染で、ポケモントレーナーになった時期も同じ。オーキド博士からポケモンを貰い、旅に出て、ライバルとして幾度と無くバトルをしたと。シルフカンパニーのバトルもその中の一つだったようで。

「あのクソトレーナーを探してる奴ら曰く、全っ然足跡が見つかんねぇらしいんだ」
「でもな、そもそもあんなクソガキ一匹カントー地方から探そうってのが無理だろ」
「だからこいつ誘拐して脅してやろうぜ。俺らの前に出て来いってな。さもねぇと」

 幼馴染を殺す、と。

 まぁ、だいたい気が狂ってる奴らばっかりだから、そういったことを思いつくことくらい想定済みだ。
 そうしてオーキド博士の孫は実にあっさりと俺達に浚われた。あまりに彼は無防備だった。屈強なポケモン達を連れていようがいまいがやはり十歳のトレーナーには変わりなかった。トキワシティで買い物をし、トキワの森へ向かおうとしていた彼を待ち伏せした俺達はいとも簡単に彼を昏倒させると、そのまま自分達の拠点である空き家まで運び込んだ。本当に、俺達からみたこんな幼い子供が、あのセキエイリーグでチャンピオン戦を繰り広げたポケモントレーナーとは到底想像が出来ない。しかし彼が腰につけていたボールホルダーのポケモン達は俺達の手持ちなどよりよほど良く育てられていて、―――賢かった。

「いいか、お前らが余計なことをしてもこのご主人様は死ぬ」

 わざわざナイフを気絶している彼の首に突きつけて、お仲間は並べられたポケモン達にそう脅した。威圧してきたポケモン達は瞬時にそのオーラを納めて大人しくなる。状況判断が早い。

「今日から俺達の言うことを聞くんだ。分かったな」

 こうしてあっさりとチャンピオン所持レベルのポケモンまでも得てしまった。
 彼らは非常に賢かった。何も言わず、そのまま自らモンスターボールに戻ると沈黙を保った。その潔さに感動を覚える。主人に危害が加えられないよう最良の選択をした。

「で、どうすんの」
「とりあえずオーキド博士の研究所に脅迫文送りつけるぞ。孫を返して欲しけりゃこいつの幼馴染出せってな」

 つまりは、少年トレーナーを探す労力を向こうに押し付けるということだ。確かに要領は非常に良いだろう。

「とっとしねぇと、孫が無事に帰る確率が減っていくぞ、って最後に書いとけ」

 可哀相に。今気絶している彼はこれから身に降りかかる全てのことを分かっていない。
 ここにいる仲間は俺を含めて合計六人。ロケット団に所属していた時代から気があっていた仲間達だ。だが、あの時の楽しかった面影はほとんどない。皆、病んでいた。多分、俺も病んでいたのだと思う。そこまで「感じて」いたのに、俺は何も「感じ」なかったのだ。この状況をどうにかしようとも思わなかったし、誘拐を止めようとも思わなかった。かといってロケット団を潰したその少年トレーナーにも興味はなかった。

 それよりも、どうやってこれから自分が生きていけばいいのか。それを考えるのが全てだった。

「おい、お前今日の餌係だろ」

 彼のポケモン達は一日一回だけある食事の時間だけボールから出される。といっても、森の木の実や草を食べさせるだけだが。彼が誘拐された当初よりも随分と痩せたように思う。おそらく普段はポケモンフーズなどの栄養管理食を食べていただろうから。
 今日の当番は俺だった。ただ、ポケモン達に食事させてボールに戻るまでちゃんと見張っていろ、という係りだ。ぞろぞろと食事を終えたポケモン達が自らボールへと戻る。本当に一切反抗はしなかった。主人が酷い目に遭わないよう、ずっと耐えているに違いない。

 だが、結局のところこのポケモン達が何をしなくても、彼は酷い目に遭わざるを得なかったのだ。




 まず、彼が初っ端から俺達に反抗したのがイケなかった。
 いや、当然の反応だとは思う。気が付いたらいきなり知れない場所でロープで拘束されて床に転でていたのだから。暴れるのも当然だし、金切り声を上げるのも当然だ。しかし、それは完全に俺の仲間達だって予期していたことで、皆の浮かべた笑みに一瞬寒気が走った。

 まず、一人の拳が彼の顔面を殴りつけた。

 嫌な音がした。たった十歳の子供を殴り飛ばす大人。彼が反抗する余地を与えず、連続で胸、腹、足、あらゆる箇所が殴られていく。悲鳴を上げたが誰も助けるはずもなく、ゲラゲラとした笑い声しか届かない。酷いストレス発散だ。誰もがこの少年にあの少年を重ねている。当人を本当は殴り殺してやりたいのだろうに、今は彼が標的となっていた。
 しばらくすれば、悲鳴が聞こえなくなった。おそらく、脳震盪を起こしている。意識が飛びかけていた。ダランッ、と力の無くなった体に、面白くなくなったのか、髪の毛を鷲掴みにした仲間はそのまま彼をズルズル引き摺ると風呂場へと向かった。
 この家はどうやら、かつて人が本当に住んでいたようで。一応生活していくには最低限の設備が揃い、また機能していた。彼からすれば、それが災いした。
 鼻や額から血を流し、また全身が内出血に見舞われているであろう彼に、シャワーから吹き出る冷水を浴びせる。さらに意識が遠のこうとしている顔に集中的に浴びせたものだから、彼は咽せ返った。強制的な意識回復手段。しかし咳きをする度に体に痛みが走るのだろう。奇声が断続的に上がる。特に胸部が。変に体を痙攣させながら浴室をのた打ち回る彼は、まるで壊れたカラクリ人形のようで。
 それを周りで娯楽のごとく楽しんでいる仲間達は、おおよそ人間では無かった。

 ひゅーひゅーともはや息もギリギリな彼は、しかしまだ体力自体はあるように思えた。
こんな状態になっても俺達を睨み付けて来る根性に、心の中で関心した。それが面白かったのか、仲間達はずぶ濡れな彼の腕を掴んで強制的に立ち上がらせる。もはや足に力は入っていない。入れられないのだろう。そこを無理矢理歩かせればいちいち崩れてなかなか進まない。しかしその光景ももはや楽しみの一つらしい。時折、わざと腕を放しては床にべしゃっと落ちる。その度にくぐもった呻き声しか上げない彼。それをまた掴みあげる仲間。最終的に彼はある一室へと連れ込まれた。この建物で一番小さな部屋だ。ベッドしかない。

「今日からここがお前の部屋だ」

 無理矢理彼の体を放り込めばベッドに沈んだ彼。もはや起き上がる気力も無いだろう。そのまま扉を閉めた仲間達は、しばらく爆笑を続けた後、部屋へ戻っていく。その姿を見送って、俺はとりあえずもう一度彼の部屋へ入った。怪我と出血具合の確認をしたかった。下手をすればこのまま死んでしまう。そうなれば餌にするところではない。

(あーぁ、鼻の骨折れてら)

 もはや死んだようにベッドにうつ伏せになっている彼を、とりあえず仰向けに寝かせる。胸部や腹部も酷く殴られていたからその辺りも骨折の可能性が否めないが、まだ分からない。額も切れて血を流し続けている。唇は冷水を浴びたせいか真っ青。顔面は腫れ上がり始めている。

「可哀相にな」

 同情するよ、本当に。
 これから襲い掛かる過酷な日々に、心から。

 
 
 



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