color WARing -23- トモダチの声が消えていくことに恐怖する。 ガタガタと頭を抱えてベッドの上で震える。いくら耳を塞いでもあちらこちらで絶叫する声が耳へ飛び込んでくる。しかし、その声が怖いんじゃない。これほどうるさい声が、ふっ、と一瞬の間に消えていくことの方がよほど、恐ろしいのだ。トモダチの生への叫び。それが呆気なく叩き潰されていく現実。どうしてこんなことになってしまったのか僕には分からない。けれど、僕が理解しようとする暇なんて関係なく、次から次へと消えていくトモダチ。そう、いくら僕が嘆き、悲しもうが関係がないのだ。そして、どうすることも出来ない。僕はトモダチを助けることが出来ない。 僕達の世界のトモダチが次々に消滅していくという、とんでもない事態が訪れて、その原因として判明したのが、もう一つの世界の存在だった。いわゆる平行世界という奴らしいが、空想上での話でしか聞いたことがない世界にどう対応すれば良いというのか。カオスだ。思考の収集が収まるのを待てる暇もなく、事態は進行していく。トモダチが消えて行く事実には変わらない。だが、そのもう一方の世界をどうにかすれば、こちらの世界の現象が収まるというのだろうか。誰もがその答えを求めている。 「N!」 「大変よっ」 突然、部屋に侵入してきた声に大きく体が震えた。 全身に流れる汗と、顔面を覆う涙。声を出すことすら恐怖している僕の視界に、黒髪の少年と少女。ボヤけて顔の認識を出来なくても、その声だけで誰かなんてすぐに分かる。 かつて僕と敵対し、僕と最終決戦を迎えた、ポケモントレーナーである彼ら。あの時と比べ、やはり少し大人びてきている。こんな状況下でも着実に成長をしている。怯え、ただ蹲っている僕とは違って。しかし、彼らが成長した所で何の役に立つ。結局、この過酷で最悪な状況を打破出来る術など、あるはずがない。 「あの人達が帰って来たわ、でも一人だけ向こうの世界へ取り残されたみたいで」 「銃が、また人へ使われた」 銃。ゲーチスを中心とした七賢人達が開発した、黒い黒い武器の名前。 元々、トモダチを解放するという信念の元に動いていたプラズマ団が、僕には内密に裏で開発を進めていた武器が、銃だった。しかし、彼らとの―――トウヤとトウコとのバトルがあって、王である僕が崩壊し連鎖的にプラズマ団も崩れ落ちたことで、研究もストップ。そのまま裏の世界で抹消されれば良かったものの、この世で起こり始めた怪奇現象のせいでイッシュ地方の政府本部が銃の開発を推奨してきたのだ。トモダチに頼らずとも、人間の力だけで強大な力を得る為にはどうすればいいのかと、躍起になった結果。 バラバラになったはずのプラズマ団の幹部を召集し、専用の研究室まで用意して、開発を進めさせた。 おかげで銃が完璧な存在としてこの世に生み出された。さらに、その武器に関して声を掛けてきたのが外国である「カントー」地方と呼ばれる場所でポケモントレーナーをしている「レッド」という名の青年。彼もまた、悲劇の被害者だ。手持ちのトモダチを全て失ったと、政府の人間へ語っていたのを聞いた。 それ故に彼は銃を求めた。初めて彼を目にした時、瞳に宿る狂気を垣間見た。もはや誰にも止められないのだろうと、その瞬間にこの現実を諦めた僕は、ただ黒い塊をその手に握る青年に対して何も出来なかった。 そして、また銃が使用されたと彼らは教えてくれたけれど。 かといって僕はどうすれば良い。 銃の犠牲となった初めての人間は、向こう側の世界のトレーナーだった。今回は誰だ。もうそんな話、聞きたくないのに。どうせ、これから銃に命を奪われる人間、トモダチが多く出てくるのだから。今からその数のカウントを始めるのか。こんなにもただ虚しいだけの、カウントを。 救われない。そもそも、救いなんて。 「N、俺達はあっちの地方へ向かう」 何も云わない僕に、ギュッと口を強く結んだ後、トウヤが力強く告げた。 トウコの瞳が大きく揺れている。恐怖している。当たり前だ。誰もが心から震えている。トモダチをいつ失ってしまうのか分からない、残酷な状況に対して。けれど、何もしないままではいられないのだろう。彼ららしいと言えばそうだ。 「あっちの地方に行けば向こうの世界へ行けるんだ。だから政府の人にお願いして」 「私達のポケモンが消えてない、今の内にどうにかしたくて」 どうにか。そう、その中身が空っぽであることくらい、彼らが良く分かっているだろうに。ねぇ、君達が何か行動を起こした所で、この現状が変わると本気で思っているのかい? とは問わない。答えがすでに分かっているものをわざわざ問う必要もないからだ。 行ってらっしゃい、と小さく呟いた。僕は行かないよ。君達とは。 その返答に、二人は少し瞠目して、すぐに顔をくしゃっと歪めた。泣きそうだ。彼らも僕も。大声で叫びたい。この現実から逃げたいのだと。でも逃げるなんてことは出来なくて。否が応にもリミットは迫って来ている。 「N、あなたの―――トモダチ、は」 ふと、トウコに問われた。 そんなこと、僕がベッドに一人で横たわっていた時点で、分かっていただろうに。 敢えて問うたとしたのなら、なんて彼女は残酷なんだろう。 空っぽのモンスターボールだけが、僕の枕元に並んでいた。 main ×
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