color WARing -1-


 ポケモントレーナーとしての実力というものは、数学者と良く似ている。
 若ければ若い程発想が豊かで、老いれば老いるほど新しい考えの浮かばなくなる数学者。若ければ若い程体力もあり強くなりたいという意識も高く、老いれば老いるほど体力的な厳しさや己の才能の限界を察するポケモントレーナー。
 世界は広いので、その法則に当てはまらない者も当然いる。けれどそれも少数だけの話。つまり、基本的に若い方がポケモンバトルでも優勢となる。

 さて、今この地では争いが起きている。ポケモンを武器として使用出来るという、今までのポケモンの概念を叩き潰した方針が、認められてしまったからだ。

 そもそもの始まりは、あるテロ組織の出現。各地をポケモンを使って荒らし、町々を崩壊させ、時には多大な犠牲を生む。すでに死者は数えきれない程にまで及び、政府が対策として編み出したのは、優秀なポケモントレーナー達にテロ組織への対抗を命ずることだった。各地のジムトレーナー、四天王、チャンピオンはほぼ強制で、他にも手腕のある者達は政府に収集され、テロ組織の討伐を命令された。
 勿論、それを拒否するトレーナー達がいるであろうことは予想されていて、そういった者達に対して政府は、所持するポケモン全ての没収を命令ずる。さらに手持ちの中で最も強いポケモン達は彼らの手により戦闘に勝手に駆りだす、ということで。己の知らぬ内に共に過ごし戦ってきたポケモンが戦闘に参加するという恐怖に、誰もが口を閉じるしかなかった。そして絶望に染められたトレーナー達は政府の下で争いに参加することを余議なくされてしまったのだ。
 トレーナー達のほとんどの年齢が、20歳台。
 そんな中、政府は最後に収集をかけるべき人物として、かつてのセキエイリーグチャンピオンの名を挙げた。若年11歳にしてチャンピオンに君臨したその少年は、今は行方不明となっているが生きていれば19歳。十分に戦闘への参加資格を持っている。
 さらに8年の月日により、どれほど実力が上がっているかも計り知れない。そんな優秀な人材を放っておくわけにも行かず、政府は総力を彼の捜索に当てた。その途中、カントーのトキワジムリーダーである人物が彼と幼馴染である情報を掴み、トキワジムリーダーへ彼の行方を問いただす。最初は知らないと一点張りしていた彼だったが、トキワジムを良く抜け出して大量の荷物を持ってシロガネ山へ向かっていた、という情報がトキワシティの住民達から漏れてしまい、シラを切れなくなる。
 挙句、彼が最も幼い頃から一緒にいたイーブイを政府関係者が彼の手から取り上げ、目の前で首を締め上げた。息が詰まり鳴くことも出来ず、呼吸を封じられたイーブイは必死に藻掻く。目の当たりにして、トキワジムリーダーは必死にイーブイを助けようとしたけれど、他の関係者に後ろから羽交い締めにされて叶わない。泡を吹いて目を見開き、痙攣を起こし始めたイーブイを見上げ、彼は泣き喚き絶叫した。
 そして幼馴染の居場所を知っていることを強制的に吐き出されてしまったのだ。
 その遣り取りは他のトレーナー達も目撃してしまっていた。
 政府関係者は基本的に、ポケモンを所持していない。さらにテロ組織の存在もあり、ポケモンという存在への反感が強い者が多い。ポケモンなど、死のうがどうでもいいと考える。おそらく、もう少し彼の心が折れるタイミングが遅れていれば、イーブイの首の方が折れてしまっていただろう。
 その扱いを他のトレーナー達も目撃してしまったことにより、精神的な束縛がより増してしまう。ポケモンを殺されてしまうという現実が収集されたトレーナー達にのしかかった。目の前が真っ暗になるなんて、バトルで負けた時だってそうそう味わうことがなかったのに。

 そうして、トキワジムリーダーの幼馴染であり、元セキエイリーグチャンピオンはシロガネ山の頂上で見つかった。
 吹雪くそのてっぺんでは、テロ組織なんて無関係で、まさか下界がそんな状況になっているとは夢にも思わない元チャンピオンである少年。今となっては青年。赤い帽子に赤い上着、そして半袖という何ともこの環境に適さない格好。それでも平然と、堂々と、彼は文字通り頂点に君臨していた。し続けていた。
 彼の手持ちは、ほぼポケモンに対する知識のない政府関係者が見てもオーラが違い、明らかに他のトレーナー達のポケモン達とはレベルが違うことを伺わせた。予想以上の人材に彼らは喜び、青年に対して政府からの収集命令の内容を伝える。
 無論、その内容に驚愕した青年だったが、かといってポケモンを武器として使うことには抵抗を示し収集に対して拒絶を示す。しかし、他のトレーナー達は全て政府に従っているという言葉を聞き、瞠目する。それは、彼の幼馴染もそうであることを示していたからだ。
 政府関係者はその反応を見て、トレーナー達に課せられている制約を一切話さず、あたかも他のトレーナー達は自らその作戦に参加したかのような口ぶりで彼を説得することにした。どんな形であれ、こちら側に引き込めれば問題はない、と思ったのだろう。
 しばらく時間をくれ、とチャンピオンはおそらく住処にしているのであろう洞窟へ戻った。
 極寒の中、凍えそうになりながらも政府関係者は待ち続けた。そうして、10分程すれば大きな荷物をいっぱい持って出てくる。どうやら収集へ応じる気になったようで、ほっと胸を撫で下ろす彼らに、青年は無表情にリザードンをモンスターボールから解き放つ。そのまま空を飛ぶの命令をして、青年と政府関係者は無事にシロガネ山から下る。

 こうして、最強の精鋭トレーナーが集結した。政府は本格的にテロ組織の討伐を開始する。今までのポケモンバトルでは有り得ない、ポケモンもトレーナーも死亡する可能性のある戦争が勃発。ポケモンを生き物とも思わない連中を相手に、ポケモンを大切な存在として共に過ごして来たトレーナー達は、対抗して行かなければならない。
 誰もが不安と恐怖をその双眸に宿して、どうかこんな時代がすぐ過ぎ去りまたあの楽しかった時代に戻れることを願うしかなかった。
 しかしどこかで皆は理解していたのだ。そんなものもはや夢物語とならざるを得ないことを。


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