素っ裸




 気が付いたらライバルと一糸纏わぬ姿でベッドインしていたら、一般人であればどういった反応を示すだろうか。

 オーキド・グリーンは絶句した。
 重くグラつく気持ちの悪い頭を何とか起こしてみると、隣にはスヤスヤだなんて可愛い表現に似ても似つかないイビキで爆睡を決め込んでいるライバルのレッド。ふら付く視界を無理やり機能させて部屋を見渡せば、どうにも見たことの無い場所だった。ベッドは無駄に広く、薄暗い室内。無駄にピンクだか赤だとかの強い壁紙。グリーンの経験上、というよりも記憶を遡って見てもこのような部屋を見た覚えがない。
 ポケモンの状態異常で言う所の混乱に陥っているのであろうグリーンの頭が、何とか最善の方法として選んだのはレッドを起こすという選択肢だった。状況が分からない以上は第三者の手を借りたい。しかしいくら体を揺さぶっても彼が起きる気配はなかった。さらにガンガンとなぜだか唸る頭。時折吐き気も催してくるソレにグリーンは顔を顰める。水を飲みたくなってきた。覚束ない足取りで何とかベッドから降り、洗面台へ向かうグリーン。そこに備え付けられていた鏡に映った、隈の浮かぶ何とも情けない顔の自分に溜め息をついた。

 一体全体こんな状況になる前、何があったのか。記憶を無理やり辿ろうとして、しかし頭痛に襲われる。自己嫌悪に苛まれるグリーンは、洗面台で思いっきり顔を洗った。少しはスッキリするかと思ったがあまり効果は無いようで。そこでやっとのこと彼は気が付いた。えらく体全身が気持ち悪いことに。べたべたする、といった表現が最も適当だろう。頭ばかりに気を取られていた気だるさも襲いかかって来ている。訳も分からずとりあえず風呂に入ることにしたグリーンだったが、この部屋が誰のものであるかなど不明瞭な所が多すぎて、設備を使っていいのか一抹の不安があった。しかしこんな男二人を入れて挙句泊めてくれている、ようなので、とりあえずそこは無視を決め込んだ。もし必要ならば後で謝罪をしよう、と心に決める。
 熱いシャワーは気持ち悪さを流してくれて、でも相変わらずの頭にくる気持ち悪さを取り払ってくれることはなかった。タオルで乱暴に髪の毛を拭いて、用意されていたバスローブに身を包む。まるでホテルのようだなと漠然に思いつつ、またベッドで寝ているレッドを起こそうと試みた。しかし反応は全く同じ。思わず水でもぶっかけてやろうかと思いやりも何も無いことを考えたが、ふと鼻を掠めた臭い。それはレッドから放たれているというよりもこの空間全体に及んでいる。キレイさっぱりとなったからこそ気付けたことだ。

(酒、か?)

 強烈なアルコール臭が鼻へと侵入してきた。その単語が引き金となり、一気に蓋をされていたであろう昨晩の記憶が蘇る。
 そう、人生初のアルコール摂取を試みたのだ、レッドとグリーンが。お互いが20歳になってやっと法律的に認められたのだから、景気づけに挑戦してみようとレッドが居酒屋に誘って来たのが始まり。呑んだものは度数の低いチューハイから初心者が飲むには辛い焼酎やウィスキーまで。ブルーがレッドに送ったものも含まれていて、最初は自重しようとしていたグリーンもついアルコールでふわふわとした頭に逆らえず、思ったよりも口に入れてしまった。確か、どちらともなく潰れてしまって、そこからの記憶が途絶えている。何とも情けない話だ。グリーンは長く長く胸から空気がなくなるまで息を吐いた。
 色々と原因は分かったものの、それでもこの部屋の意味がグリーンには分からなかった。酒でぶっ倒れた後にどうにか訪れたのであろうここは、妙な違和感を覚えさせる。どうせならどちらかの実家なりなんなりに帰るべきはずの所を、どうしてこんな意味不明な空間に来てしまったのか。そしてポケモン達はどこへ行ってしまったのか。酔っぱらって危険な自分を理解して、それでも彼らだけは手放さないように意識していたというのに。

「…あ、ぐりーん」

 呻き声に近かった。
 思わず頭をガリガリ掻いていたグリーンに届いた声は、明らかに喉が酒焼けしていることを証明していた。掠れているにも程がある。やっとのこと覚醒したのか、もぞりっと頭を動かしたレッド。しかしすぐに顔を顰めてしまった。おそらく彼もまた酷い二日酔いだ。

「あれ、どうしたんだっけ」
「知らん」

 とりあえず頭痛できっとグラグラしているであろうレッドの為に水を汲んでくるグリーン。それを飲むために上体を何とか起こしたレッドだったけれど、額に手を当てて蹲ってしまった。よほど痛みが走ったと見える。仕方なくグリーンが無理やり彼の片手にグラスを握りこませれば、レッドは「ごめん」と一言告げた。

「何で裸なんだ、俺達」
「その前に、ここがどこだか分かるか?」

 一番の疑問を投げかけてみれば、レッドが眉を顰める。何とか重い目蓋を持ち上げて部屋を見回してみて、ゲッと声を漏らした。おそらくグリーンと同じく色彩センスに驚愕したのだろう。やっとのことグラスの水を飲み始めた、こんな調子のレッドではきっと何も知らないと判断し、グリーンは仕方ないのでこの建物の外へと向かおうと立ちあがった。それにポケモン達もどこへ行ってしまったのか探したい、という想いもあった。けれど、突然手首を引っ張られてしまって叶わない。
 その力がかなり強かったものだから、倒れ込むようにそのまま見事にベッドへと逆戻りしてしまったグリーン。次いで鮮やかに己の上に覆い被さって来たレッドに驚愕した。彼の片手には空のグラスが握られている。いつの間に飲み干したのか。二日酔いで頭もガンガンしているだろうに、どうしてかグリーンの目に飛び込んできたレッドは余裕の顔を浮かべている。
 混乱させる暇もなく、彼はさらにグリーンへと攻撃を仕掛けた。

「ここがどこか本当に分かんないの」

 舌なめずりしながら尋ねる彼は、まだ酔っぱらっているのではないかと思われたが、そうではない。目が明らかにおかしな色を宿していたのだ。その奥に潜む狂気にゾッと悪寒が走る。グリーンが固まってしまったことを良い事に、股の間にレッドの膝が割り込んできた。ぐぐっと体重を掛けられて完全に身動きが取れなくなってしまう。そうこうしているとバスローブにレッドの手が潜り込んできて、ギョッとするしかない。抗議の声を上げながら焦ってレッドを押しのけようとしたグリーンだったが、その前に彼の方が行動を起こした。

 落とされたのは、ただのキス。

「ラブホテルだよ、ここ。ならすること、一つしかないでしょ」

 耳元から脳内に滑り込んできた声に、二日酔いが吹っ飛んだ。
 驚愕に染められた双眸でレッドを見上げたグリーン。
 20歳記念。アルコールデビューを果たしたその次の日。
 彼らは幼馴染という関係の、一線を越えた。



*あとがき*
はじめましての方は初めまして、Cloeです!
今回は肉食系レッドさんが書きたかったのです…。
そして素っ裸でベッドインしてる所が書きたかったのです…。
己の欲望に忠実過ぎて申し訳ない…。
ラブホテル知ってるスペレッドと、知らないスペグリーンって萌えないですか?
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