エプロン



 01:下着の続きです。
 -あらすじ-
 スペグリーンがスペレッドに片想い中。
 そこに25歳ファイア(別世界)が登場。
 スペグリと同棲生活中。
 体の関係持っちゃってますが18禁ではない。








 俺と体を繋げておきながら、ファイアは俺の恋を応援する。

 別に性交渉をすればお互いが好き合っているかと言えば、そうではない。俺とヤることがただの性欲処理であるのなら、別にファイアのこの言葉に疑問はない。ファイアが俺に対して好意を抱いていなくて、俺もファイアに対して好意を抱いていなくて、この関係を所謂セフレと言うのならば、ファイアが俺の恋を応援したって良いことだろう。しかしどこか違和感を覚える俺がいるのも事実。なぜだろうか。どうしてもファイアが矛盾しているように思えて仕方が無い。それは、俺に対して「ちゃんと気持ち伝えれば大丈夫だって」だとか、そういった言葉を掛ける彼の顔がどこか寂しそうだからだろう。浮かべられる笑顔とは逆に、彼の顔が暗くなっている気がしてならなくて。それがどうしてだかは分からないが、とりあえず思うことは、彼が本当はこんなことを言いたくないんじゃないんだろうか、ということで。
 最近は、俺の機嫌でも取ろうとしているのか、と思い始めた。やはりこの家に住む為には俺に嫌われる可能性をなくしていきたいのではないか、と。きっとファイアだってこの俺の感情がおかしいことを分かっているはずだ。しかしそれを周囲に理解してもらえないだろうと分かっている俺に対して、あえて味方をすることで、俺がファイアに頼るとでも思っているのかもしれない。残念ながら決してそんなことはしない。かといって別にファイアを追い出す気もない。やはりライバルに似たオーラを持つ彼を途方に暮れさせることは、出来なかった。
 今日も今日でファイアと同じベッドに入る。服なんてもう取り払われた後だ。俺が下。ファイアが上。俺の肩に両手を置いて、俺の首筋に顔を埋めているファイア。ライバルに似ていると思う彼と何をしているのだと、いくら頭でぐるぐる巡っても、やはりこの関係を断ち切れないのは俺だ。ファイアと繋がることで、どこかレッドと繋がれていることを錯覚することは否定しない。まるでレッドと愛し合っているように思う━━━思い込もうとする俺は、本当に最低で、最悪で。いつまで経っても気持ちも伝えないで、ファイアを代わりにして満たされようとするなんて。愚の骨頂だ。

「グリーン」

 そうして。また泣いてしまう俺の髪の毛を笑顔でクシャッと撫でるファイアに、また心臓が悲鳴を上げる。すまない、だとか。言ってもファイアはただ笑ってくれるだけなのだ。何も言わず、ただ俺を抱きしめてくれる。その優しさに甘えてしまう俺が、また情けないだけで。死にたくなる。


 翌朝。基本的にファイアよりも早く起きる俺は、そのまま朝食を作る為にキッチンに立つ。その前に勿論、風呂にも入るが。ファイアの残渣は体内に残されたままになることが多い。前までは、彼はちゃんと俺に配慮してくれて体に負担が掛らないようにと気を使っていてくれた。しかし、それを俺が拒否したのだ。多分、こんな風にファイアを利用していることに罪悪感があったのだと思う。だから彼がより気持ちよくなれるならば、俺の体に多少負担が掛っても問題ないと思った。最初は躊躇っていた彼だったが、俺が強く望んでいることが分かって、了承してくれた。ちゃんと事後処理さえすれば何とか耐えられることは、ここ最近で証明された。やはり始めの方は処理の仕方が分からなくて。でも寝ているファイアに尋ねるのも申し訳なくて、自分なりに頑張ろうとしていた。しかしあまりに時間がかかってしまって、結局俺が風呂に入っていることに気が付いたファイアにしてもらうことが多かった。最近ではやっとのことコツを掴んだから、一人でも済ませられるようになる。
 そうやってお風呂から上がって、キッチンに立つ前に、エプロンを身につける。そのままジムへ行く格好をするため汚れが飛んでは面倒なことになる。ウナジ部分と腰部分で紐を結べば、とりあえず目玉焼きでも作ろうかとフライパンの加熱を開始した。そうしているとファイアが寝室から出てくる。

「グリーン、早いね。相変わらず」
「風呂に入って来い」
「おっけー」

 寝ぼけ顔のまま脱衣場へと向かった彼の姿から目を背けた。その格好が下着一枚なものだから、行為を思い出させるには充分。若干頬が熱くなっている気がしたけれど無視をした。多分、フライパンを加熱しているコンロの熱のせいだ。そうして油を引いてハムを乗せ、卵を二つ割ってから水をちょっと入れて蓋をする。ご飯はもう炊けているし、味噌汁は昨日の晩に作っておいたから大丈夫だ。完璧な朝食。
 するとファイアが風呂場から上がってきた。渇いていない髪の毛をわしゃわしゃとタオルで拭きながら、寝ぼけ顔もすっきり消えた笑顔を向けてくる。

「おはよう」
「おはよう」
「今日も美味しそうな臭い」
「とっとと座れ」
「あーぁ。グリーンみたいな子がお嫁さんだったら幸せなのにね」

 俺の言葉なんて無視して近づいて来たファイアは、そのまま俺の腰辺りで結ばれているエプロンの紐をひっぱって、コンロの前に立つ俺を後ろから抱きしめてくる。こんなことにも慣れっこだ。そのまま不満げにファイアを見上げても、そこにはやはりニコニコとした彼の顔しか見えなかった。

「いつもありがとう」
「……別に」
「グリーンの朝ご飯美味しい」

 ふにっ、と頬にファイアの唇が当たって、それを急いで振り払った。朝っぱらから何をしてくるんだコイツは、と睨んでみたけれど何も効果は無い。そのまま椅子に座りに行ったファイアを恨めしい目で見つめた。ファイアの朝ご飯を作ることは、それは勿論同居人のご飯を作らないなんて非情過ぎる、と思う自分がいるから。そして、ただ俺がファイアを利用していることに対しての本当にちっぽけなお礼。でもきっとファイアはそんな風には思っていないだろうから。
 そして毎日全てのメニューを完食してくれるファイア。仕事へ向かう俺。食器洗いはファイアに任せている。支度が出来て玄関から出ようとすると必ず彼は見送ってくれるのだが、彼との同居生活で未だに気恥ずかしさが残る瞬間だ。なぜか、散々人に言えないことをしているというのに、こんな見送られるのが恥ずかしいなんて、俺もどうかしていると思う。けれどその原因は、ファイアがいつも言ってくれる一言にある。

「気を付けて。待ってるから」

 待ってるだなんて、卑怯だ。
 こうして俺は、毎日毎日、心にファイアの放った鎖が絡みついていくわけで。いつのまにか雁字搦めにファイアに拘束されている自分がいることに気が付いた。それと同時に、やはりどこかファイアにレッドの面影を見出している俺は、彼に愛されているとより錯覚してしまう。また頬に熱がこもる。これは決して、コンロのせいなんかじゃない。
 最近はジムに行っても、ファイアの顔がチラついてしまう。おそらく俺の家にいても暇を持て余しているだけなのだろう彼。何をしてどうやってそれを潰しているのかと。トラブルも何も無いのだろうかだとか、そういった心配も頭を過ぎる。
 まるで恋人と同棲生活しているようだ、とバカげた思考になる時もある。その度に自己嫌悪に陥る俺。何が恋人だ。吐き気がする。そんなことを思うのはきっと俺だけだ。ファイアはただ、住める家が欲しいというのと、性欲処理をしたいだけだ。そうに違いない。だから、恋人なんてそんな言葉を当てはめてはいけない。━━━期待は、自ら叩き潰せ。
 書類を書く手が進まない。指に握られたペンが一か所だけに押し付けられていたが為、真っ黒な染みを作りだしていた。気が付かないでいて、慌ててペン先を上げる。何をやっているんだ。集中力が完全になくなってしまっている自分が不甲斐無い。溜息を吐いて、もう一度書類を書きなおす。
 そんなことを何度か繰り返して、イライラとしていた俺の元へ、突然幼馴染が訪れた。いきなり扉がノックされたかと思うと慣れたように入って来たレッド。驚いて見上げていると笑顔で挨拶をされる。その顔に、ファイアの面影を見た。

「久しぶり。相変わらず忙しそうじゃん」
「あぁ」
「ちゃんと休んでんの?」
「適度には、な」
「はは。過労で倒れるなよ?」

 その笑顔に、ホッとする。グラついていた精神が安定して行くのが分かった。あぁ、やっぱりレッドが好きだと思う。こいつがいるという事実だけでこんなに落ち着く自分がいるのだ。

「今日も遅い?」
「いや、五時くらいには書類仕事は終わる予定だ。挑戦者が現われなければ」
「ふーん」
「で、今日は何しに来たんだ」

 レッドが理由無く訪れることは少ない。特に深く考えずそう尋ねた。すぐに返答があると思ってすぐ書類に目を落としたが、しばらくしてもレッドが何も言わないからふとまた視線を戻してみた。するとなにやら思いつめた顔をして立っているものだから、珍しいレッドの顔に呆気に取られる。ちょっと首を傾げて見ていると、レッドから何やら深刻そうなオーラが漂い始めた。口を開こうとして、でも噤んで、を繰り返しているように思う。何か言いたいことがあるのか。

「レッド、どうした」
「グリーン」

 
 話がある。
 そうして近づいて来たレッドから続いて出てくる言葉に、頭が真っ白になった。








 家の扉の前に立って、そのノブを掴めずに立ち尽くす俺。
 待ってる。朝、俺がこの家を出る時。その言葉を渡してくれたファイアの顔がちらついて離れない。次いで浮上してくるレッドの顔にギリッと歯を噛みしめた。どうして、俺はこの状況を喜べないのだろうか。俺にとって奇跡が起こったのに。絶対にあり得ないと思ったことが実現してしまった。心から喜んで、本当はもう天にでも昇れてしまうのではないだろうか。それなのに、今の俺は混乱している。それが適切な表現だ。ぐるぐるとレッドに言われた言葉が巡って巡って脳細胞を攻撃してくる。処理が出来ない。素直に俺の心の中に落とすことが出来ない。
 けれど、いつまでも外に立っていてはまた心配したファイアが外に出てくる。その前には何とか家に入りたい。しかし指先が震えてノブに手を近付けようとしても上手く行かない。グッと全身に力が入る。冷や汗が滲み出て気持ち悪い。心臓がバカみたく高鳴って、ようやくドアノブを掴めたのは帰って来てから三十分後ぐらいだった。
 おかえりー、とファイアの声が聞こえて来た。なんとかいつも通りのただいま、を返そうとした。けれど若干声が震えていたらしい。迎えてくれたファイアが不思議そうな顔。頑張って隠そうとしても、彼にはあっさりと見抜かれてしまった。

「なにかあった?」
「いや、なにも」
「うそ」

 ピョンッとソファから下りて俺の前に立つファイア。彼を見上げると、不安気な顔。俺も不安。目を泳がせてファイアから視線を逸らした。

「嫌なことでもあった?」
「違う。だから何もなかった」
「ねぇ、ならちゃんと目を見て」

 怒っている。
 地を這うような声にゾッとした。目を見ろ、と。もはや脅す領域だ。逆らえず、おそるおそるファイアの方を見ようとして汗を握りしめた。しかしギュッと目を閉じかけてしまって顔を上げようとするのに上手く行かない。怖い。ファイアが見られない。どうする。どうしよう。
 そうしてモタモタしていると、いきなり腕を引っ張られて前のめりになる。握られるその力が強くて思わず顔を顰めた。そのまま引っ張られるようにファイアにズルズル連れていかれる。晩御飯、作らないといけないのに。ファイアもお腹を空かしていたに違いない。
 一瞬だけキッチンに目をやれば、俺がいつも付けるエプロンが椅子の背もたれに垂れ下がっていた。





 寝室に辿り着いたが電気も付けないで、強引にベッドに体を放り投げられて馬乗りになられる。薄暗い部屋で、しかしこういった体勢になれば絶対に上をみないといけなくなって、そのままファイアと視線を合わせることになる。やはり明かりが無くても分かる、怒っている。今まで感じたことのない威圧感が襲ってきた。なんだろう、この妙な重圧は。二人分の体重でギシッと軋むベッド。冷や汗が止まらない。心臓が悲鳴を上げている。痛い、痛い。何も言えないでいると、突然ファイアが溜息を吐きだした。

「ごめん」

 それと同時にファイアの体が俺に落ちて来て、抱きしめられる。でも体重を掛けないようにしてくれたから大丈夫だったけれど、突然全身を覆った温もりにビクッと震えた。ごめん、と謝られてしまったが、どちらかと言えば俺の方が謝らなければならないはずで。ファイアのその言葉がグスッと刺さって来た。俺の左肩に顔をうずめられてその髪の毛が首筋に当たってこそばゆい。

「俺には言いたくないこと?」

 不意に耳元で問われた。耳に息が掛って来てぞくりっと背筋に何かが走った。どう返答すればいいのか迷って、ファイアもそれを待ってくれて。けれど正直に言うしかないと決意した。だって嘘は、つきたくない。今までずっとファイアに対して嘘の態度を取って来たのだから、これ以上は嘘を重ねたくはないじゃないか。だから。

「レッドに、告白された」

 明らかに、ファイアが動揺したのが分かる。
 心臓に絡みついていたファイアの鎖が、締め付けてくるのが分かった。息がしにくい。泣きたくなってきた。どうしてなんだ。これは、単純にファイアへの罪悪感なのか? いやでも、彼に対してどうして罪悪感なんて覚えるんだ。━━━俺とファイアは、恋人同士じゃない。それどころか、そういう意味で好き合ってもいないのに。

「良かったね」

 足下から凍りついていく気分だった。
 いつも、俺の恋を応援してくれるファイアの声色。あ、ダメだ。と思った時には遅い。ボロボロと零れて止まない涙。ぎゅっ、とファイアの背中に腕を回せばバカみたいに鳴り上がる心臓。お互い。このまま、どうして融け合えることが出来ないのだろうか。張り裂けそうになるこの心なのに、ガンガンと唸るだけで決してファイアのソレとは重ならないのだ。

 この時点で、もう分かっていたのに。
 認めたくは無かった。違う。認めてはいけなかった。俺は、レッドが好きなのだ。それは絶対に確固たるものであることは分かっている。だから、それ以上に求めてはいけない。そんな傲慢なことをしてはいけない。レッドの告白は受けるつもりだ。それを決めたのは俺。ファイアに、これ以上傾倒してはならない。分かっている。分かっているのならしっかりしろ。けれど彼の温もりがこんなにも全身に広がっているのだ。否定するにはもう、遅い。全身が冷えて行く俺とは裏腹な、この温度。
 その日はいつの間にかずっとファイアの背中に腕を回したまま寝てしまった。俺はそれを後悔することになる。
 俺はもう二度と、ファイアの前でエプロンを付けることはなくなった。 

 次の日。ベッドには俺の他に誰もいなかった。












 あの雪崩を受けた瞬間、多分、俺は死んだんだ。

 あ、もうダメだ。と思った。それはもう逃げられない現実で、誰のせいでもなくて。だから心はスッキリしていて、その白の化け物を受け入れた。所持していたポケモン達に謝る間もなく。呑み込まれた俺の頭に浮かんだのは、たった一人の幼馴染の姿。
 少年期にチャンピオンに君臨した俺が、こんな歳になるまでもシロガネ山にこもって、そんな俺の元へ食糧を飽きることなく届けに来てくれたあいつ。いい加減に山から下りて結婚でも何でもしろよ、と口酸っぱく言って来て。それならリーフ、君はどうなんだ。と問い返せば、俺は出会いがねぇんだよ、と返してきた。カントー地方最強ジムリーダーが独身で25歳なんて、女の子はいくらでも寄って来ているはずなのに。それでも彼は結婚なんてしなかった。それがいつまでも不思議でならなかったが、俺からすればラッキーなことで。ずっと前から想いを寄せている人が一人身であることは、どこかで安堵をもたらしていた。いつか、この気持ちを伝えることが出来れば。なんて、そんなくだらないことは想っていなかった。ただ彼が俺の元へ食糧を届けに来てくれる。それだけで良かった。それだけが全てだった。
 こんなにも呆気なく人生が終わるなら、せめてキスの一つでもしておけば良かったと、そんなことを想って意識が吹っ飛ぶ。死んだ、と認識する暇もなく、死んだ俺。けれど次になぜか目覚めた俺は、そんな幼馴染と瓜二つの━━年下の男の子をベッドの中で組敷いていた。
 グリーンと。彼は名乗った。そうして彼との共同生活が始まる。

 俺は最低だ。俺は、彼と幼馴染を重ねた。挙句の果てに無理矢理に犯してしまって、でも彼はそれを受け入れてくれて、彼の優しさに甘えた。しかし分かったのだ。ここは平行世界とやらであると。だって、この世界には俺がずっと過ごしていたシロガネ山が存在していて、ここはマサラタウンで、でも俺の家はない。彼はきっと本来俺の世界でのリーフのポジションである人間のグリーンだったのだ。そうして嫌な予感がした。そうなれば俺と同じポジションである男の子も存在していると。そうしてもし俺と関係が同じであるならば、それはグリーンの幼馴染でライバルであるのではないか、と。こちらの世界でこの二人がどういう関係であるか。それを尋ねるのは怖かった。
 そうしてある日。グリーンに好きな人がいると分かって。それが彼の幼馴染で、きっと俺のポジションの男の子であるレッドということを聞いて。泣きそうになった。彼は、その子が好きだ、と。俺の世界のリーフはきっと俺をそういう対象では見ていなかったはずなのに、グリーンはこの世界での俺のポジションの子が好きだ、と。羨ましい。妬ましい。
 しかし。これは間違っている。グリーンはグリーンなりに幸せになるべきで。俺はもう本当は死んでしまった存在なのだから、今生きている子に対してそのような感情を抱くべきじゃない。だから想った。もしグリーンの恋が成就したのなら、素直に俺は消えてしまうべきだ、と。きっとこれは神様が与えてくれたチャンスだったのではないか、と思った。だってそうだろ。俺の世界では上手く行かなかった俺だけれど、こちらの世界ではもしかすれば結ばれるかもしれない。まぁ、この世界の俺であるレッドとやらには結局会えることが出来なかったから、彼がグリーンのことをどう想っているかは分からなかったけれど。でももし本当に俺と同じ気持ちであるならば、彼はグリーンのことを好いていることは容易に予想がつく。
 そして訪れた。グリーンがレッドに告白を受ける日が。何やら雰囲気がおかしかったから少し強引にグリーンから聞きだす形になってしまったが、良かった、と心から想った。複雑な紐が何重にも心臓に絡まっているのは分かったけれど、それでも良かった、と想う。想い込むしかない。俺は、グリーンの幸せを願うことが、きっとどこかでリーフの幸せを願うことに繋がると考えていたのかもしれない。こんな、あっさりと雪崩で死んでしまった俺に出来る、唯一の孝行。ずっと彼にお世話になり続けていた俺が出来る。しかしこんなの、ただのエゴでしかないことは分かっていた。それでも、願わずにはいられない。
 この世界の俺のように、俺もリーフに告白すれば上手くいっただろうか。彼と一生を共にすることが出来ただろうか。そんなこと、もう消えていこうとしている俺が考えた所で、答えが見つかるはずもなく。


 俺の背中に腕を回して寝てしまったグリーンの額にソッとキスを落として、俺の体は粒子と化して空気に溶け込んだ。





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お久しぶりです、Cloeです。
私の趣味を詰めに詰めた、25歳ファイア×スペグリーンでした。
下着→エプロンという、まさかのお題跨ぎをしてしまって本当にもうすみませんorz
書いてて楽しかったのですが、どうでしょうか、こんなぶっ飛び設定をうまいと思ってくださる方がいるのかと疑問に思います(笑)
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