哀楽の狭間 外部との連絡手段を閉ざされて早1週間。あの野郎から受ける暴力と凌辱は日に日に増す一方だ。いや、そう感じるのはあまりにダメージが蓄積されてしまったが故に同じレベルのものを受けた時により酷く感じてしまっているだけなのかもしれないが。 油断していた、と言われればそうだ。だって僕はバトルに勝ったのだ。つまりあの野郎は負けた。不甲斐なくもまだポケモントレーナーとして一年も経っていないこんな僕に。しかし腐っても奴はポケモントレーナーだ、その誇りは持っている、と僕が勝手に思い込んでいた。それが全ての原因。僕の過失。 ロケット団という名を謳う悪の組織の親玉は、こんな少年を殴り蹴って、挙げ句犯すことをご趣味にするらしい。 そもそも最初、僕はロケット団を潰そうだなんて微塵にも考えていなかった。何となく、黒服で胸にRと書かれた奴らがポケモンを手酷く扱う様を見てしまったから腹が立って、ポケモンバトルを身近にいた団員に申し込んだだけだった。別にそれが正義であるとか正しき善い行動だ、と思ったことは一度としてない。ただ、僕が許せなかっただけだ。 それがどうしたことかいつの間にやら僕はロケット団に目を付けられ敵視され、シルフカンパニーにまで乗り込んでボスとバトルすることになってしまった。バトル自体はやはり経験を僕なんかより断然に積んでいる奴のレベルも高かったから血が沸き立つような興奮を覚えるものとなったが、それでも僕が僅差で勝ったのだ。 そうして、僕の思考ではそこで全てが終わるはずだった。ポケモンバトルに勝った僕があらゆる面において勝者であり、ロケット団という組織が消え失せろと命令すればそうなる、と信じて疑わなかった。僕が全ての権限を持つはずだと。 しかし実際はこのザマだ。 「起きたのか」 ノックもしないで電気も付いていないこの暗い部屋へと足を踏み入れる男。畜生、さっきヤられたばっかりだと思っていたがもう半日経過したのか。この暴力と凌辱のセットを受けるローテーションはだいたい12時間ずつらしい。さすがに僕の体の丈夫さを配慮してのことだろう。この男は別に僕を殺したいわけじゃない。苦痛と辱めを加えたいだけだ。分かっている。 ズキズキと痛みを訴える脇腹。ここが一番蹴られたせいかダメージを受けている。ちょっとでも腹部に力を入れてしまえば激痛が走ってしまう程。内出血で変色してしまっている皮膚を自分から見たくない。見れば悔しさで泣きそうになるからだ。涙なんてとうに枯れ果てて出ないけれど、顔で泣いてしまうのが自分でも許せない。こんな男の前で。 「さて、今回はどうされたいんだ?」 喉で笑いながら僕のことをまるで見世物のような目で見てくる奴を、無言で睨み付けた。僕の格好は酷いものだ。簡素でロクに安眠も出来ないベッドの上で、両手両足には手錠がハメられている。さらに下着すら与えられず全裸の状態だ。正しく「監禁」という言葉をそのまま具現化したよう。馬鹿みたいだ。 今日はどれだけ痛め付けられるのだろう。 「いい加減に慣れて来ただろ」 そんな訳、あるか。 左頬に激突した手の平。口に広がる鉄臭。ベッドに沈んだ体。今日も今日とて始まる最悪の行為にもう吐き気もしない。噎せ込んだ僕など何のその、馬乗りになられてしまって腹部に圧迫が掛かる。腹の立つ程の笑みを浮かべた後、奴は僕の口に自分の舌をねじ込んで来た。まるで獣のようだな、と思う。理性なんてきっとこの男は持ち合わせちゃいない。しかしこんな行為にすら本能というものは仕方ないもので、一度でも気持ち良さを感じてしまえば堕ちてゆく一方なのだ。こいつを憎んではいるが一番殺してやりたいのは僕自身。 失神を繰り返す程の激痛と快楽の波は、ある意味で表裏一体なのかもしれないだなんて、馬鹿げたことを考えた。僕の救いになんて何一つとしてならないのだけれど。 気が付けばこいつの腕の中にいた。どうやら意識を失った僕を抱き締めるように寝てしまったようだ。今まではいつの間にか僕の意識が飛んだ時は放置だったというのに、どういう風の吹き回しだ。 憎い奴の腕から何とか脱出したかったのにそれは叶わない。圧迫感はないがガッシリと捕まってしまっている。もぞもぞしても意味は無いのだが出来るだけ奴から解放されたい気持ちが先行してしまうから仕方ない。 どうしようもなく途方に暮れそうな僕。体は相変わらず傷めつけられた所は勿論痛いし、本来排泄機関として使うべき場所はドロドロだ。早く風呂に入りたいのに。そうして何とか脱出方法を考えていると、不意に僕の耳に寝言が聞こえてきた。 「……――――るば」 誰が発信源であるかなんて言うまでもない。そうしてその言葉の意図なんて僕が知った所で何の役にも立たない。しかしどうしても僕はその言葉を無視出来なかったのだ。なぜなら奴が泣いていたからだ! 顔を見てみると一雫だけの涙が奴の頬を辿っていた。信じられない。散々笑いながら自分の欲望に従っている男が泣くなんて。ちょっと声を失ってしまって、僕は唖然と奴を凝視する。 人間らしい面なんて無いと思っていたのに、どういうことなのか。先ほどの呟きに何かしらの意味があるのか。僕にはさっぱり分からなかった。でも散々憎くて殺してやりたいくらいに思っていたこいつが、どこか寂しそうなオーラを出しているものだから妙な気分になってくる。まるで僕を抱いている男が、僕を痛め付ける男と別人であるようだ。 ほぼ無意識に僕の手の平が奴の頭へ向かった。たったの二回だけだったがポンポンと髪の毛に触れると、少し奴の表情が安堵した気がする。本当に些細なことだったけれど。 あとがき:初めましての方もいらっしゃるかと思います、Cloeと申します。榊赤企画なんて素敵!と思い参加させていただきました、ここまで読んでくださった方ありがとうございました! いかがだったでしょうか、初の榊赤でした。不完全燃焼気味なのでもしかするとちょっと続きを書くかもしれません。予定は未定ですが。もし続きも上げましたらその時はよろしくお願いします! |