タンクトップ



 ※18禁程ではないですが16禁程度の温い性描写があります。注意してください。




 さすがに気温が27度にまで上がる日に厚着をするような馬鹿はいない。トキワジムリーダーを任されているオーキド・グリーンも例外ではなかった。つい先日までは肌寒い風の吹く日々が続いていたというのに、いきなりの気象変化に体が着いていかないと思いながら、半袖ではなくタンクトップを着用したグリーン。ズボンもハーフパンツで見るからに夏のスタイルだ。ちなみに、まだ梅雨も来ていないこの時期。これから本当の夏が近づく時にどうするつもりなのか。
 図鑑所有者達のスタイルも同じように変化していた。トキワジムに良く遊びにくるカントー、ジョウト地方のメンバーもかなり露出の強い格好になっている。まぁ、常に肌を顕わにしている者もいたが、普段から長袖だとか厚着をしていた人物が軽装になっていると新鮮なものがある。
 そんな中、グリーンのライバルであるレッドは、まるでどこぞの虫取り少年のような格好でトキワジムを訪れた。いや、服装自体はグリーンと大差はなかったが、やはりトレードマークである赤い帽子のせいだろうか、とても同年代とは思えない幼さを感じさせる。

「グリーン暑ぃから水浴びしようぜ!」
「馬鹿か、ジムが水浸しになるだろ」
「えぇ、ケチ」

 じゃあ外でしてくる、と不服そうな顔を浮かべつつレッドはニョロと一緒にトキワジムの外へ出た。これが元セキエイリーグチャンピオンなものなのだから、世の中ってものは良く分からない。いや、彼のそんな純真さがポケモンバトルのセンスにも関わっているのかもしれないのだが、どちらにせよグリーンから言わせれば少し納得がいかない。レッドとのバトルに満足しないんじゃない。逆にどんなトレーナーとのバトルより、レッドとのバトルが一番心が湧き立つ最高のものだ。しかし、時折レッドに対して劣等感を抱くのも事実。こんな奴に、と思ってしまう醜い自分がいることをグリーンは自覚していた。レッドをライバルとして尊敬し続けることが理想であるはずなのに、そう上手くいかない。認識する度に心臓の奥が痛むことも分かっている。
 トキワジムリーダーに就任したのも、レッドが手首を負傷していたから自分に役目が回って来た、と言っても間違いじゃないのだ。レッドが本当ならばジムリーダーに相応しかった。彼はチャンピオンだ。もっと言えばセキエイリーグチャンピオンとして君臨しても良かったのだ。それなのにどうしたことだろう、彼はどんな役職にも就かないで相変わらず自由奔放に旅とバトルだ。それに比べてグリーンはどうだろう、まるで彼の代わりであるかのような役職に就いて、ジムの仕事に拘束され、慌ただしい日々。旅になんて出られないし、昔のように道端で出会ったトレーナーとバトルなんてことも出来ない。心安らぐ時間なんて削りに削られてしまっている。

(高望みは―――するつもりはないんだが、な)

 レッドが羨ましいと、思う自分がいる。この状況から少しだけでも良いから抜け出してみたい。
 きゃあきゃあとジムの外から子供達の楽しげな声が聞こえる。きっとレッドが一緒になって水遊びをしているのだろう。どこか遠くにその音を聞きながら、グリーンの意識が現実世界から遠退いていく。そういえばここはどこなんだろうか、だなんてちょっと考えて、自虐的な笑みを浮かべる。目の前に置かれたジムリーダーの仕事である書類の山を切り裂き炊くなって止める。いつまでも彼を拘束し続けるのは、こんな書類などではないから。
 心の深い深い所にいるのは、いつも―――。

「ああスッキリした!」

 タオルを首に巻いて戻って来た赤い帽子に眉を顰めた。
 これほど悩みに悩んでもこのライバルにとってはきっと塵ほどに関係がないのだ。それに苛ついてしまったって無意味であることは分かっているのに自分のことをコントロールしきれない。それにまた苛つく。負の連鎖が延々と心の下に下続いていく気分。嫌になるのも頷ける。

「グリーンもすりゃ良かったのに。水遊び。スッキリするぞ?」
「スッキリしたかったらシャワーでも浴びるさ」
「皆でするから楽しいしスッキリするんだって。一人で水浴びしたってつまんねぇじゃん」

 グリーンからすれば理解の出来ない理論を突き付けるレッドは、やはり不服そうな顔を浮かべている。どうにもそれがさらなる苛つきを呼んだらしく、グリーンは小さく舌打ちをしてまた書類に目を通し始めた。タンクトップになっても暑いものは暑くて流れる汗を止められない。胸元に溜まる汗に顔を顰めて、用意しておいたタオルで拭おうとした時のこと。

「なぁグリーン」

 意地の悪そうな声がグリーンの耳に届いた。
 ハッとして顔を上げると、いつの間にか眼前に迫るレッドの顔。書類のことなんて何一つ考えないでデスクに体を乗り上げて来た彼は、そのままグリーンの両肩を掴んだ。強制的に上を見させられることになったグリーン。レッドの目がスッと細くなったのを見て唇を噛みしめた。この目の意味は良く分かっている。レッドの欲情の印だ。一体どうしてこのタイミングで発情したのか。嫌な顔をしてレッドを見上げ、しかしグリーンは伸びてくる彼の指を拒絶するなど、出来ない。

 彼らの関係に変化が訪れたのはいつのことだっただろうか。
 そのことを考える度にグリーンは頭を振り払おうとする。無駄、であることは彼自身が最も分かっている。たとえ醜い嫉妬心を抱こうが何だろうが、最低でも幼い頃からのライバル、という立場であり続けたいとグリーンは思っているのに、どうしてだろうか、レッドはそうでなかった。
 鮮明に覚えている始まり。初めてグリーンが「襲われた」のはこのトキワジムで。ある日、ジムトレーナー達も帰ってしまった深夜に、書類仕事をしていた所で、だ。単純に仕事が終わるまで付き合ってくれているだけだろうと思っていたのに、突然椅子から引き摺り倒されて床に押し倒されて、そのまま同性同士でするにはあまりに非生産的な行為に無理やり引きずり込まれることになる。いや、それはグリーンにも多少の知識はあったが、それはあくまで異性間で行われることに対してだ。まさか男同士のヤリ方というものをレッドが知っているとは思いもせず、パニックになりながら流されるままにレッドに翻弄されながら事に及んでしまった。その後の絶望感など半端ではなく、まずそういう対象として見られていたということが何よりもショックで。
 グリーンはレッドを好敵手として受け入れていたかった。レッドはグリーンとそれ以上の関係へと進みたかった。文字にしてみればたったこれだけのこと。それでもグリーンの心臓は大きく抉られた。誰にも言うことはできず、レッドの欲望を拒絶すれば周囲にこの関係をバラすと言われ、どうすることも出来ずレッドを受け入れることしかできない状況。
 嫉妬する程憧れる存在だったのに。胸を掻き毟られる。

 タンクトップが余程お気に召したらしいレッドは、全てを脱がせることはなくただ生地の下に手を入れてグリーンの肌に這わせた。首元に流れる汗に目をつけて舌で舐めとればグリーンはビクッと一瞬体を震わせて、双眸を歪める。それにレッドは特に反応を示すことはなく、そのまま好きなようにグリーンの体を弄るのだ。
 レッドから施される愛撫には未だに慣れない。ただやはり直接的に中心に触れられると嫌でも反応を示してしまうのは確かだ。しかし今のようにただ上半身に指を這わされる時点ではただ不快な違和感を覚えるだけであって、グリーンからすればさして発情する原因にはならない。それが面白くないらしいレッドは、何とかグリーンに気持ちよさを教えようとするが、なかなか上手くは行かない。

「全然ダメだね」
「当たり前だろ」
「もうちょっと感じてくれても良いんだけどなぁ」
「おい、今日は暑いんだ。とっとと離れてくれっ」
「ひっどいね。水遊びしなかった方が悪いんだろー?」

 暗に、とっとと終わらせろという意味を籠めたのだが、レッドは分かっていてもなかなか終わらせてはくれないだろう。ただでさえ汗で気持ち悪くなっていた体だったが、追加でレッドの唾液にも濡れて来た。とっとと風呂に入りたい衝動に駆られるグリーンだが、彼から解放されないとどうも動きようが無い。

「ちぇ。ならいいよ。こっちいく」
「!?、いきなりッ」
「だってグリーン、不感症過ぎんだもん」

 何も反応を示していなかったはずのグリーンの中心に、乱暴にズボンへ手を突っ込んで触れて来たレッド。変に全身が強張ってしまったグリーンは、すぐレッドの腕を抑えようとしたがそんなもの関係無く彼の指が動く。普段、慰めるならば自分の指で自分のペースで行うのに、他人から与えられる予測不能な快感に翻弄される。声だけは上げまいと必死に唇を閉じれば少し噛んでしまう。たとえ血が少し出ようとも関係無く、グリーンは必死に目を閉じた。自分の性器に幼馴染が触れているという事実を認めたくない。
 それでも容赦なくレッドはグリーンへ快感を送り続けるわけで。
 生理上仕方なく勃ち上がってきた中心に、吐き気がしたが、グリーンは何とか最大の理性を振り絞って堪えようとした。その間にもレッドはタンクトップの下にもう片方の手を這わせ続けていて、どうにか上半身の性感を開拓しようとしていた。その挑戦が一体何のためになるのか甚だ疑問ではあるが、ただ単純にレッドが楽しみたいだけだろうという結論にグリーンは達する。
 それならばつまりグリーンはレッドのオモチャとなっているということなのだが、それはそれで認めたくは無かった。とりあえず求めることはこの不毛な行為を止めて欲しいということだけ。それなのに強く彼がレッドに言えない理由は何なのか。レッドに負い目を感じていることだろうか。レッドに醜い想いを抱いているからだろうか。しかしそんなことで自分の尊厳すらも捨ててしまうのはおかしい話ではないだろうか。どうしてグリーンは強く言えないのか。

 きっとそれは、レッドを拒絶することで、グリーンもまたレッドから拒絶されるのを恐れているからだろう。

「━━━っ、ぁ、ぃ」
「イきそう?」
「訊くなッ、っふ、ぅあ」

 先端を執拗に弄られて、堪え切れずに吐き出した。
 指に纏わりついた白濁を面白そうに眺めてから口に含むレッドにグリーンはぞっとする。そんなもの舐めて何が楽しいんだか。理解が気でない。放出の倦怠感が襲いかかり、さらに暑さもあって椅子にグッたりもたれかかった。もう仕事をする気にもならない。ちょっと胸を上下させて息を整えていると、相変わらずタンクトップの舌から胸の先端を弄り続けているレッドの指。それに不快感を示して、グリーンが抗議した。

「いい加減にしろ、レッド」
「うーん。残念」

 弄られ過ぎてちょっと赤くなっているそれ。やっとのことレッドも諦めたようで、彼の指が退いた。ティッシュで残渣をふき取る二人に、こんな所に誰かが入ってきたら取り返しがつかないな、と不安になるグリーン。とっとと何事もなかったかのように振る舞えるように気を持ち直すしかない。どうしてこんな思いを味合わなければならないのか。ちょっと泣きそうになりながら、でも決して涙を滲ませないグリーンは、タンクトップに沁み込んだ気持ち悪い汗を流したくてシャワー室に向かうことにした。レッドはその後ろ姿をただジッと見ている。視線が背中に突き刺さり、けれどレッドの顔をもう一度見ることを拒否したグリーンはそのまま立ち去ることにした。シャワー室から戻ってきた時にレッドがいるかいなかは知らないが、出来ればいなくなってくれていることを願うグリーン。
 扉から出て行く彼に、レッドは何も言わなかった。その姿が完全に廊下へと消えてしまった後、ちょっと頭を掻いて、不満げな顔で小さく零した。

「やっぱし、順番間違えたかな」

 今更ながらの認識。気付くにしてもどうしてもっと早く分からなかったのか。
 一息だけ吐き出したレッドは、一人残された部屋で目を細める。
 主のいなくなった空間で、ただ虚しさだけが心に残った状態で、先程までグリーンの中心を弄っていた指を見つめ続けた。


 *あとがき*
 はじめましての方ははじめまして!Cloeと申します。
 GRN48なんて素敵な企画を開催してくださった窓さん、ありがとうございます!
 ドSレッドさんを目指したかったのですが、不完全燃焼でした、他の作品で何とか挽回したいところですが……頑張ります……(笑)
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