color WARing- 13-


 俺のピカチュウが消えた。
 あいつのピカチュウを殺した。
 あいつを殺し損ねた。
 おかしいな。確実に攻撃したはずだったのに。
 早くしないといけないのに。
 時間が刻一刻と過ぎて行く。
 間に合わなくなる前に。
 あいつを殺さなければ。
 俺が消えてしまう。
 早く、早く早く早く。
 そうさ、全てあいつらが悪いんだ。
 俺達は何も悪くはない。
 これは正しい行動だ。
 悪くない。俺達は。俺は。


「スリバチ山での任務、成功しました」

 フッ、と頭に滑り込んできた声に顔を上げる。どこまでも落下していた思考が一気に浮上した。ちょっと視界が眩んでしまったが、すぐに笑みを浮かべる。そうか、俺の目の前に来た彼は成功したのか。それは良かった。とても、良かった。

「君が殺ったのか」
「そうです」
「どうだった」
「変な気分でしたよ」
「だろうね。でもこれで君は安泰だ」

 パン、パン、と間隔の長い拍手を送る。そうすると複雑そうな顔で微かに笑った彼。そのまますぐに俺の前から身を退いてしまった。本当は分かっている。彼が心では全く喜んでいないことくらい。
 彼は俺が出来なかったことをあっさりと遂行したのだ。そうして安全地帯へと身を寄せることが出来る。それなのにどうして彼が心から喜べないのか。それは単純に、誰かを犠牲に自分が生き残るという事実を痛感するからだろう。しかし死にたくないともし思うのならそんなこと気にしている暇はない。
 だって、失ってからじゃ遅いんだ。

 俺のピカチュウを返せ。
 おまえのピカチュウだけが生き残っているだなんて。
 そんなの許せるわけがない。
 だから殺してやったんだ。
 ざまぁみろ。
 そうしておまえももうすぐ死ぬ。
 俺が殺してやるから。
 絶望に染まる顔をどうか見せてくれ。
 俺のことをどれだけ罵ろうが構わない。
 それで俺が生きていけるというのなら。
 どれだけ命を奪ったって関係が無い。
 それで俺達が生き残れるというのなら。
 さぁ、どちらが勝者としてこの世界に君臨するのか。
 おまえは、果たして俺を殺すことが出来るのか。

 ピカチュウを殺された、その憎しみを俺に向けてみろ。





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