color WARing -10- 心に蓋がされていたのだ、きっと。 ポケモンが武器として使用が許可され、テロ組織の討伐を政府から命ぜられた時。俺はそんな風にポケモンを扱うことなど出来るはずがないと思って、頑なに拒絶していた。怖かったのだ。俺がポケモンに、人やポケモンを殺せと命令することが。━━人やポケモンを、殺してしまうということが。 しかしこんな状況ではいつか必ず自分や自分のポケモンが殺戮者となることは目に見えていた。いつまでも目を背けているわけにはいかない。けれど、俺のイーブイが政府関係者の手により絞殺されかけて、それで精神的に傷ついたと思われた俺に任務が来ることは今の所なかった。それに安堵した自分がいて、そんな自分の醜さに気が付いて、吐き気がした。結局俺は利用したのだ、ポケモンを。最低だ。イーブイは本当に苦しんで死にかけたのに。俺はそれさえ自分が苦しくならないために利用した。そんなの、ポケモンを武器として扱っているのと同じじゃないか。 だが、今となってはそんなことすらどうでも良くなった。 そういった恐怖、不安、嫌悪、は全て吐き出された。解放されたのだ。そうして俺の心に残ったのは、純粋なる想い。 レッドのピカチュウが殺された。 憎い、憎い憎い憎い! 頭に火炎放射が放たれた気分。気持ち悪い。グラグラする。このまま体内にあるもの全部が流れ出てしまえば楽になれるだろうか。 ピカチュウは壮絶な手術を10時間に渡って乗り越えようとしたのに、最後の最後に体力が保たず死んでしまった。レッドはずっと扉の前で待っていた。ただひたすら、相棒の帰還を待っていた。それなのにどうしてこんな。酷過ぎる。レッドがこの本部へやってきたのは俺のせいだ。だからピカチュウだって死んだのは俺のせいだ。いや、違う。ピカチュウを殺したのはテロ組織の一員だ。俺のせいじゃない。俺はピカチュウに死んで欲しくなかった。イーブイとずっと仲が良かったピカチュウ。ピカチュウが死んだ時、イーブイは全てを悟ったかのように静かに泣いていた。俺が部屋に戻った時、モンスターボールから出ていたイーブイ。その姿に耐え切れず、ボロボロ泣くしかなかった。無性にレッドの名を呼んだ。 そう、あいつは俺以上の感情を抱いている。それが悲しみであれ憎しみであれ、爆発しそうになっているに違いない。俺ですらこんな状態になっているのだ、計り知れない想いをレッドは何とか押さえ付けているはずなのだ。それがどんな風に爆発するかは分からない。もしかすればずっとレッドの中に留まっているままかもしれない。けれどその栓が抜かれてしまえば最後、彼は狂変してしまうだろう。 「ドサイドン、バンギラス。地震だ」 大地を揺るがせる破壊音が敵を飲み込む。亀裂へと誘われた人やポケモンは呆気なく地上から見放された。落とされる命。ジェノサイダーなんて一生自分とは関係が無い話だと思っていたのに。立派な殺戮者と成り下がった俺を救ってくれるものなど無い。ごめんな。お前らには罪は無いのに。ドサイドンもバンギラスも俺の命令に従っているだけなのに。けれど彼は分かっているのだ。相手の命を奪っていることが。彼らは賢いから。 どうして俺や彼らが辛い想いをしなくてはいけないのか。 あぁ、分かっているさ。これもそれもあれもどれも全てテロ組織のせいだってことくらい。こいつらさえいなければ俺達の世界は平穏だった。いつまでもポケモンと平和に暮らしていけた。バトルだって出来た。お互いを高め合うことだって出来た。でもこいつらのせいで、こいつらが出て来たから、マサラタウンだって崩壊した。幼い頃から住んでいた家は跡かたもなく消し炭となったのだ。許さない。姉さんもじぃさんも、二人とも今では本部に身を寄せている。マサラタウンの住人はそれほど人口も多くなくて、それに優秀なポケモントレーナーを輩出する街として有名だったからそういった措置が取られた。 しかし他の街の住人は、家を失っても行き場がない。政府が臨時に避難所として簡易住居を立ててはいるものの、数が多すぎて追いつかない。そんなことが全国で起こっている。さらにポケモンで攻撃されたということで、ポケモンへの不信感も募り始めている。自分の手持ちと決別してしまうトレーナーも最近になって増えて来ているのだ。そんなの、あんまりじゃないか。 けれど、容赦なく敵を殺している俺も、大概救いようがない。 テロ組織がどうしてこんなことを始めたのか、首謀者から理由を訊かない限りは分からないだろう。それにこれだけの大人数がポケモンや人間を殺したいと思っていることも、納得がいくようで納得がいかない。敵は各地方に住んでいる人々なのか、それとももっと別の所から来た人々なのか。もしかすれば同郷の人ではないのか、カントー出身の人を殺してしまっているのではないか。他地方の人間なら構わない、というわけじゃない。俺と同じ町、同じ地方出身の人間が殺すという動作を犯していることが無性に悲しい。俺も一緒だけれど。 ━━━一緒? 一緒だなんて、そんな言葉で済ますのか。あぁ、もう嫌だ。どうして俺はこんな。最低だ。屑だ。お互いに同じことをすれば許されるとでも思っているのか。しかしこれは任務としてやっているわけで、俺自身の意志じゃない。違う、そんなのただの言い訳だ。もっと大事なことがある。向き合わなければならない、大事なことが。それが分からない。分かっても向き合える勇気がない。 断末魔が聞こえる。堕ちて行く人々。ポケモン。日常じゃ有り得ない絶叫。助けることなんて誰もしない。俺もしない。流されるまま。消えて行く。命が。俺の手で。ポケモンの手で。 main ×
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