緊急発進にご注意を! その2




<ーレッドグレイブ市事件より4ヵ月後ー>

机の上に散らばった工具を片付けながら、
解体し、整備済みの愛銃ブルーローズを組み立てる。
ガレージの入り口からさしこむ昼下がりの陽気にと、遠くで子供たちの声とキリエの笑い声がきこえる。

此処は宗教都市フォルトゥナ。
10年前の偽神事件以来ボロボロだった街の住民に声をかけあい
ネロが中心となって方針を決め、立ち上がった住民たちと共に復興作業に従事し、街は少しずつ復興の兆しが見えているところである。

そんな中で最も街人の寄り添う力になったのはネロの家族であり、騎士団長の妹であり、街の歌姫でもあるキリエの存在がとても大きかった。
心根やさしい彼女は、どんな時も笑顔を絶やさず、頑張る者には勝利や健康を祈り、
悲しみに暮れる者には共感し手をさしのべる聖母であった。
彼女は事件以降、一件で家族を失った子供たちのために孤児院を経営している。

そして自身も、彼女の経営の仕事を手伝いながら
移動式デビルメイクライ2号店にて、デビルハンターとして悪魔退治の仕事を請け負っていた。

全ては順調に進んでいた。
あまりにも平和な日常に、ネロの中でもあの偽神事件が人生で最初で
最後の大きな事件なんだろうなんて、そう思い込んでいた。
悪魔の腕を失うまでは。

つい半年前
”レッドグレイブ市”で大きな事件がおきた。
ワケあってクソ親父が兄弟喧嘩をこじらせ、力を求め、魔界の王になろうとした。
詳しいことは割愛するが、兄弟喧嘩をとめたあと親友を1人失い(クソ親父の一部ではあったが)
クソ親父もクソ叔父も魔界へトンズラしてしまった。

兎に角、怒涛のようなその事件が終焉をむかえてから
今やっと現実を受け入れ、落ち着きを取り戻して約4ヶ月がたとうとしていた。


今日は特に合言葉付きの仕事もなく、
この移動式デビルメイクライ2号店の店主ネロは、
久方ぶりに休暇というものに舌鼓をうっていた。

とはいえ、いつ電話がなるかわからないので気は抜けない。
まだこのフォルトゥナにも地獄門の名残からひっきりなしに悪魔は存在するため、
週休6日というより連勤7日…なんてものがざらなのだが。

「おい、ネロ!いいもん見つけたぞ!」

相棒のニコ。今はこの孤児院に居候中。

「それフリオのプリンだろ、勝手に食べるのはやめろよ」

「いーだろべつに、そういえばキリエが、嵐が来る前に外に干してあるシーツを取り込むんだとよ
手伝ったらどうだ?」

人事のようにいうニコにネロは大きく溜息をついて、腰をあげる。
そういえば、先ほどつけっぱなしのラジオから
全国放送の天気予報で午後から長期的な雷雨がはじまると促していた。

「お前は?」

「プリンたべたらデビルブリンガー調整する。泣いて喜べよネロ!この天才!ついにデビルブリンガーに
超転送機能をつけた!」

「転送?違う空間から違う空間へ移動するっていう?」

「そう!今の持ち出し数じゃ限度もあるからな。マルファスってやつの時空移動にヒントを得たんだ!
安心しろ、あんなふうに失敗して腕がちょん切れたりはしないさ。すごいだろ!」

「今度試運転するからつきあえよネロ」

「はいはい」

そうとう凄いものができたのか、確かに数に関してはデビルブリンガーの壁であり、
今も決められた数を小型化して持ち歩くのが限界だ。マイナス面が克服できるとあって
戦闘の幅もひろがる。ニコも大喜びでいるようでテンションがたかい。
試運転ということは、ほぼ実装段階ではあるのだろう。

「まったく、人使いが荒いのはどっ「ネロ!!!!ネロ!!!!」」

呼吸を乱しながら飛び込んできた孤児院の少年であるフリオが
真っ青になってネロにとびつく。

「どうしたフリオ!」

びっくりして顔を見るとよほど焦っていたのか、

「キリエお姉ちゃんとシーツを取り込んでたら、突然音がして、人が倒れてたんだ!」

「はあ?!」

「まるで死んでるみたいに真っ白で。それで、キリエお姉ちゃんがネロを早くよんできてって、焦って、俺っ」

早口でまくしたてるフリオの肩をたたいてネロが急いで出入り口に向かう
突然現れて人が倒れるなんて怪しすぎる。まだこの街の周辺にも悪魔が蔓延っている今
キリエと2人きりになっているその現状が決して安全とはいえない。

「フリオ、わかった。ありがとな。ニコ、フリオ頼んだぞ!」
「わかった、急げよ!」

手に冷や汗を描きながら、ネロは薄暗いガレージから洗濯が干されている暖かな中庭へと駆け出した。

「キリエ!!!」

「ネロ、よかったわきてくれて……私だけじゃ運べなくて……」

「いったい何が……っ、……?」

キリエの無事な姿にホット胸をなでおろしたのもつかの間
ネロはキリエの膝の上に頭をおいて、それこそフリオの言ったように死んだように眠っている顔をみて
驚きの余り目を見開いた。

「V……?」

Vとは、以前のレッドグレイブ市の事件にてその解決を依頼してきたネロの親友のことである。
今となってはクソ親父ことバージルの片割れ…人間の感性の部分だったわけで
すべての元凶である魔王ユリゼンことバージルの悪魔の感性と一体化して、ただのクソ親父に戻ったはずだった。
要するに親友は消えたのだ。跡形もなく。
そもそもVという人物すら戸籍としてこの世界に存在していなかった。


それなに、今ここに存在する。
髪は黒色……体に刺青もちゃんとはいっている。

「なんでここに……!」
駆け込むようにしゃがみこんだネロに、
キリエがやさしく肩に手をのせてくれる。

「お知り合い?……兎に角、息はしているみたいだから……話はそれから…すぐ中まで連れていきましょう?」

キリエに言われるまま、あまりにも細く軽すぎるVを担いで、
バージルがどうなったとか、悪魔の契約だとか
その理由の解決には、彼が起きるのを待つしかないと……
舌打ちしたくなる感情をおさえて、孤児院の空き部屋へと足を進めた。



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