風邪引きネロとおっさま反省タイム




ひた・・・ひたひた・・・

ふと、廊下を歩く足音と気配に、バージルは目を覚ました。
深夜のDevilMayCry、時計を確認すれば現在午前4時をまわったところである。


「・・・・・・」


じっと息を堪えて、相手の行動を探る。

ひた・・・ひたひた・・・ひたひた・・・

もう一度気配を探る。
一番の問題は、その魂が激しく揺らいでいることで誰のものか特定がしづらいことだ。
愚弟のものでないのは確かだが、他の悪魔の可能性もある。

ひた・・・どっばたっ

バージルの自室ドア前ので人が倒れる音がした。
無視をするべきか・・・そう思ったが、不特定な気配があると気分が悪い。
大きくため息を吐いてバージルはドアを開けると


「うぅ・・・う・・・」

「ネロ・・・?」


毛布と一緒に体を蹲らせ、苦しそうに胸をつかむネロの姿があった。


「おい、どうした」

「・・・ばーじ、る・・・」


玉のような汗をかいて空ろな目で自分を呼ぶ、
半魔である身としては身近にこんな経験はない、だが確実にネロの体に異変が起こっているのは確かだ。


「ばーじ・・・、」


必死に伸ばされたネロの右手をバージルは反射的にキャッチする。
事が切れたようにネロがそこで意識を無くした。

そこでハッと息をついた。

荒い息遣いが続くその空間で、その悪魔の腕は、驚くほど熱かった。




―――――――




「おいおい、坊やが風邪引いたって?」

「シッ!!静かにしろ」


寝起きから2様の伝言で事情を把握した髭がバージルの部屋へ向かうと
そこには部屋の前で初代と若が既に居座り、若は大声を出した髭の口を
慌てて押さえ込んだ。


「なんだってそんなコソコソと・・・」

「バージルが騒ぐな入るなって言うんだよ。しかも自主的に世話までしてさ、あのバージルがだぜ?」


大げさに肩をすくめて答えた若はまるで信じられないものを見るしぐさでバージルの部屋の扉を見つめた。
確かに、普段からネロに甘いところがあったバージルではあるが…ここまでするとは、相当ネロを気に入っているのか。
それとも、早々に魂の繋がりに気づいたか……。
髭はそこまで思考して考えをやめた。

どっちにしろ、あのオニーチャンが考えなしに行動してるとは思えない。


「初代、アンタもバージルかネロが心配でここにいるのか?」

「ばっ、まあ・・・なんつーか・・・そうだな。」

「はぁ……」

「どうする?」


大方、これから悪戯でもしかけようかと考え付いた若の目は輝いている。


「どうするって、hun……」

「かまうなって言われてんだ、俺たちは大人しくしてた方がいいんじゃないか?」


マトモな意見を出した初代に髭は一拍置いてうなづいた。
普段ならここは若に賛成なのだが、病人絡みじゃ分が悪い。
それに自分たちは半人半魔。風邪などというものは幼少の頃に1度引いたかひてないかぐらいで、加減が分からない。
人間の血が多いネロだからこそ引いてしまったのだろう。その場合、知識はある兄貴に任せるのが一番いい。


「ちぇー」

「まあまあ」


拗ねる若を初代が慰める。
しかし、その瞬間気が緩んで消していた気配が密かに漏れたのが罠だった。


「貴様ら…」

「げっ」


突如開いたバージルの部屋の扉・・・そしてその先に居るのはまさに部屋の主のバージルである。


「Scum!!!!!」


押し殺されたようなその声と共に青い幻影剣が舞う。
見事に串刺さった若と初代、そしてなんなくかわした髭を人睨みし、髭に視点をおいた。


「だいたい、貴様のせいだからな」


そう言い放ったバージルは、また静かに・・・しかし威圧を放って扉をしめた。


「・・・はあ・・・?」


普段の兄らしくない発言と、言葉の意味がわからずに、髭はただ扉をみつめることしかできなかった。




―――――――




めずらしく事務所内で大人しくしているダンテたち、そしてその中で一人
特等席である事務所机にグラビア雑誌をおっぴろげながら髭はただ唸っていた。


「俺のせい…なあ」


そう呟いた後に自然とため息が出る。
さんさんと太陽の降り注ぐ窓からの風景をのぞくが、何かが物足りないような気がした。

しかし・・・俺のせいといわれてもまったく見当が付かない。
坊やをそんな風邪を引くような過酷な寒々しい状況下においたわけでもなければ、流石に坊や相手・・・甥っ子相手に夜な夜なよろしくヤったわけでもない。
なにを考えてるんだ俺は・・・ついに考えすぎて思考が危ない方向に向かうじゃないか。そっと息をすってもう一度大きくため息をつく。


「幸せが逃げるぞ」


ふとかけられた声の方にむくとそこには買い物帰りの旦那がいた。
買い物袋の中には葱やら米やらパンにミルク鶏肉キャベツ・・・食べやすいゼリーなどが入っている。
見るからにネロ用だ。
そして今日の食事は旦那が担当するらしい。

そう考えたときにお前も手伝えよと鋭い視線がささるから本当に旦那は侮れない・・・。
・・・ハイハイ。
かといって年長の男2人がキッチンに立ってちまちまと料理をしはじめるというのもまた珍しい図である。


「ネロの様子はどうだ?大方部屋の扉の前で留まっていたんだろう?」

「なんで知ってるんだアンタ・・・。」


買ってきた野菜を洗って長年使ってきた冷蔵庫にしまう。
そういえば最近この事務所に暮らす男共が増えて食材が入りきらない、と、ネロが呟いていたのを聞いた気がする。

旦那はどこからともなく使い込んで端等が折れている料理本を取り出し、ページをめくり始めた。各ページが綺麗なぶん丁寧に使っているように見える。
というか、この事務所にそんなものあったのか。
・・・キッチンなんて飲み物とツマミを作るときくらい・・・いや、最近は滅多に入らないから知らないのも無理はない。


「若い頃の俺だったらそうする。」

「なるほど。」


まあ、姿形や歳からする性格は微妙に違えど根源は同じ”ダンテ”だからな。
ふと、思った。こいつなら「俺のせい」である理由わかるんじゃないかと。


「なあ旦那・・・」

「バージルに何か言われたか?」

「・・・アンタほんとに何者なんだ」

「年上を舐めてもらっちゃこまるな・・・。それで、なんていわれたんだ?あとキャベツ頼む。」


お目当てのページを見つけ調理にかかった旦那は、鶏肉を一口大に切る手を休めることなく聞いてきた。
仕方なく俺もキャベツを適当な大きさに刻む。


「あぁ・・・ネロが体調崩したのは俺のせいだってな。」

「Fum・・・なるほどな。」

「答えがわからないのはじれったいからな・・・。」

「お前らしい。・・・そうだな、年長者として、その答えは自分で見つけろといいたいところだが・・・これはお前を筆頭とする俺ら”ダンテ”のせいでもあるからな・・・。」

「俺らの、ねえ・・・。」

「・・・今のこの世界のネロにとって一番必要な存在っていうのは何者でもないお前だってことはわかっておくべきだ。体も力も一人前に近い。だが、あいつはまだ心の奥底が、”坊や”なんだ。・・・お前は既にわかっているだろう?」


いつもと違いずいぶんと言葉を発する旦那は珍しい。
料理本とのにらめっこと、調理手を止めた2様はふとこちらを向いて目を合わせてきた。その眼差しは・・・優しい色を含んでいたのは言うまでも無い。


「あぁ」

「この料理本」

「?」

「この料理本はネロのものなんだ。この間酒を飲もうと思ってグラスを探していたらみつけたものでな。」


ご丁寧に付箋まで挟んであり、本当に使い古されているが丁寧に扱ってあるのがわかる。
旦那から渡され、手にとって他のページをめくればネロの字で走り書きされた文字がいくつもある。

”糖尿にならないように砂糖を少なめに””変わりに別の食材を使う”だのと、手早い上に健康を気遣ったものだ。
一番後ろにはストロベリーサンデーの作り方のメモまで挟まっていた。
いちいち皆の反応や感想で作り方を微妙に変えて最善のものにしていたのだ。


「ネロは元々フォルトゥナに居たんだ、それをここに来てから全てお前好みにあわせるようにしている。気づかなかったか?」


そうだ・・・窓を見たときの違和感も。古い冷蔵庫も。使いこまれた料理本も。
ここにネロが来てから毎日洗濯物を干している姿と干された服を見る。料理だって旦那の言ったとおり文句のつけようがないほど自分好みだ。
ネロは小言はいうものの、強制は絶対にしてこない。むしろ自分で依頼をうけて機器やモノはそろえているほどだ。

フォルトゥナで育った・・・あの閉鎖都市とこのドギツイ暮らしじゃむしろ真逆の生活ともいえるだろう。
その事態に気づかなかったから、今回努力による日々の疲労と過度なストレスによって悪魔の血が流れていながら体調を崩したということになる。


「・・・旦那には、お手上げだな。」

「俺じゃないだろう?」

「ネロには、か。」


坊やのくせにな。


「バージルの気持ちもわからんでもないが、あいつは過保護すぎる。」

「バージル?」

「大抵、弱る体に微力ながら魔力でも流し込んで自然回復させようとか考え込んでるんだろう・・・それに、な。」

「あぁ・・・まあそうだと思ったさ。」

「我が子ってのは、愛おしいものだからな・・・。」


そう言ってスープにかけた火を切る。美味しそうな香りがキッチンに広がる。
もうすぐ匂いにつられて食い意地のはった若あたりが突撃してくるだろう。


「チキンスープだ。悩みがわかったなら、さっさともっていけ。」

「あーはいはい、オーケー。わかったよ。だからその威圧やめろよ旦那。」

「威圧をかけているつもりはないんだがな・・・。」

「おいおい・・・;」




―――――――




コンコンコン、とノックをすると静かに扉が開いたとたん幻影剣がとんできたので、すんでのところで避ける。危ない。


「・・・何をしにきた。」


至極機嫌の悪そうなバージルに先ほどのチキンスープをチラつかせ、中に入ってもいいかと尋ねると、思いのほかあっさりと中に通された。


「サンキューオニーチャン」

「貴様・・・こいつに何かしたら即刻み殺してやるからな・・・俺は少し出る。」

「魔力切れか?デビルスターなら倉庫だぜ?」

「死ね。」


その言葉とともに幻影剣が形をなして崩れる。相変わらず容赦が無い。
部屋にある小さな机の端にチキンスープを置いてとりあえずネロを見る。

顔色は良好。ただ、熱が下がらないのか荒い息が続いている。
悪魔に勝てても細菌には勝てないのかと思うと、坊やの体を蝕む細菌がものすごい脅威にも思えてきた。


「坊や」


返事は無く、ただ息遣いだけが部屋を満たす。
掌で眠っているネロ額を多い、柔らかい髪を手で梳く。


「ごめんな・・・。」


その手触りは思ったよりも柔らかく、やさしかった。

そのままいささか名残惜しそうに手を離す。
もうすぐバージルが戻ってくる。こんな顔俺らしくもない。見せることで心配をかけることもわかっている。

一度振り返ってネロを見る
さきほどよりも幾分か眉間のしわが取れたようにも思える。その様子に心のどこかで安堵して、

ガチャリと、静かに扉を閉めた。







「・・・おっさん」








ただ、チキンスープの香りの中でネロのその囁きだけが、暖かく部屋を満たした。





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