笑う事こそ人生の男と笑う事も忘れた男 その1



早朝、ネロの右腕が反応した。
そしてバージルもネロの異変に気づく。

デジャヴだ。

ネロの腕が疼いたとき、それは新たな厄介ごとがこの事務所にくる合図・・・。

現在、この事務所で動けるのはネロとバージルしかいない。
いや、いるにはいるが、ダンテたちははまだ寝ているのだ。


「・・・」

「・・・」


沈黙が降りた。

バージルは静かに閻魔刀へと手をかけ、ネロはあいにくレッドクイーンが部屋にあるので、変わりに右腕へと力を入れる。

その警戒態勢のまま数十秒が過ぎた。


「・・・」

「・・・何も、起きないのか?」

「どうやら・・・そのようだな」


互いに目を合わせて警戒態勢を解く。
いったいなんだったというのか。
確かに右腕は反応したのに、気配さえ無い。


「いったいなんだったんだ?」

「さぁな。大きな悪魔が朝からこの付近を徘徊しているなら、すぐに気づく」

「だよなぁ、俺の気のせいかも」


やれやれと首をふってネロはキッチンに戻る。

今日の当番はネロ。
バージルは既にキッチンでなにか飲みながら本を読んでいることから、手伝う気はさらさら無いようだ。

テレビをつけて、迷惑にならないような音量でニュースを見る。
――今日は昼から××州全域では雷を伴う豪雨になるようで・・・―

決まりのニュースキャスターが天気予報を淡々と話、豪雨なら、シーツが干せないのか。
とりあえず、俺も何か飲もうとカップを取り出す。

そうだ、もう卵のストックが切れそうなんだったっけ・・・後で買出しにいかなければと思うとめんどくさい。

なんか本格的に修行より家事がメインになっていて悲しくなってきた。



「・・・ネロは砂糖は2つだったか?」

「あぁ・・・え?」


瞬間、背後に強大な魔力。
振り向いたと同時に、自然と危険を感知して俺の理性がDTを引く。


「Die!」

「おっと、・・・振り向き頭に危ないな」


寸でのところで余裕そうにネロの閻魔刀をかわし、その男は着地する。

気配と危険を察知してか、バージルが死角になる場所で気配を消し、自身の閻魔刀で隙を狙っているのが横目に写った。
ネロは改めて目の前にいる男を見つめる。

赤いコートに、銀髪、口元の不適な笑みとは対象に絶対零度の冷たさをかもし出す瞳。
そして、ありえないほどの魔力。気配の消し方さえ、わからなかった。

確実に敵に回してはいけないようなのを敵にしたような、そんな焦りから冷や汗がネロを伝う。
もうすぐDTが解ける、解ければしばらくは使えない。

ならば今のうちに倒すのみ。


「×××× you!!!」


閻魔刀を使い切りかかるが避けられる。
どんなにコンボを決めようが相手が余裕顔なので確実に遊ばれている気がしてくる。

攻撃ひとつ当てられない。

まさか、無謀なのだろうか。

この男に勝つことなんて。


「・・・貴様、まさか愚弟か」


そのとき、静かにつぶやいたバージルの声が、緊張の漂うキッチンに静かに響いた。


「流石兄貴というところか」

「は?・・・はぁ?」


DTの解けた音だけが残り、その場がまた沈黙に包まれる。


「ちょ、ちょっと待てよ、バージル、なんでダンテだって!?」

「魂を見ればわかる。残念なことにあれは愚弟のものだ」

「はぁ・・・」


魂がどうのこうのと言われてもネロには理解不能だ。
自分にスパーダの血が流れていることは薄々気づいていたが、
この双子のように魂の波動なんてものは人生に一度たりともみたことがない。

血の濃さの影響なのか、もっと修行をつめばできることなのか・・・
兎に角、分からないものは分からないのである。


「ネロを知っているということは、あの髭より未来だろう」

「聡いな」

「パラレルワールドに来たにしては、貴様はさほど驚いてないように見える」

「驚いてるさ」


驚いてると言ったが、表情を見る限りピクリとも動いてないように見える。
むしろ先ほどのニヤリとした笑みと、無表情しか見てない。


「ただ、原因がわかってるからな」

「!?」

「ほう」


初だ。
この展開は初だ。

今まで突然押しかけてきたり、バスタブに落ちたり、わけが分からずここに辿りついたケースしかなかった。
もしかしたら、皆が帰れる手がかりをつかめるかもしれない。

そう考えて、なぜかネロの胸がキュッと苦しくなるのを感じた。
寂しい、なんて考えてるのだろうか、まさか。


「あぁ、そうだ、えっと、・・・・・・・・・いきなり切りかかったのは、・・・謝る」

「気にしてない」


目線が目の前の男とあう。

頭の上に手を置かれ、不器用になでられ、不思議と安心したのは、内緒のことだ。


「・・・一応家主なんだ、髭にまかせる」

「そうだな」


半ばあきれ気味に放ったバージルの言葉に、俺たちは同意した。



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