第三者の見解




「どういうことだよ」
「どういうことって言われてもなァ」

太り脂ぎった肌のイタリア人、安い酒を煽る目の前の情報屋は
茶髪の青年の抗議を右から左へと受け流した。

「教えられないものは教えられない」

フリージャーナリストである青年ルカは以前ベヨネッタとの一件により、彼女と過去の深層に関わった。
しかし、知りたいという仕事柄の欲求のせいで今もこうして彼女を追っている。
まぁ、そんな簡単に姿を表すような人物でもない。
そこで、こうやって交流のある情報屋エンツォに頼んだのだが、この結果だ。

「アンタ情報屋じゃないのか!?」
「なにぃ、こう見えてもおれっちは悪魔から魔女までお墨付きの情報屋さ」

この会話に似たものを何度繰り返しただろうか。
ルカは大げささにため息を付いた。

「あぁ、いいさ」
「おう、潔くて助かるよ」

立ち去り際にそのまま右肩に手をおいた。

「これでもタフなんでね」
「ホント、兄ちゃんもいい加減懲りないな」

フリージャーナリストの情報収集をなめちゃいけない。
かといって、とっくに追いかけられる側は気づいてるだろうが、念には念を。

「それはできないな」

ハハハと笑い飲み物の代金をテーブルに置いて店を出る

…はずだった。

「ストロベリーサンデー」

其の言葉とはかけ離れた男の声にぴくりと反応する。
ルカ自身の直感なのか、ジャーナリストとしての本能なのか、少なからず、この声の主に興味が湧いた。

「え?」

昼間だといっても、やはり此処はバーで、そんな注文をされるとは思っていなかったマスターも顔に困惑の色を映しだした。

「聞こえなかったのか、”ストロベリーサンデー”頼む」
「あ、いえ、お客様、うちにはそのようなものは扱っておりませんので…」
「じゃ、作ればいいだろ」

横暴な。

銀髪に真っ赤なワインレッドのコート、無精髭を生やした鍛えられた体格の男
一見ただの馬鹿か物好きな中年だが、その雰囲気が只者ではないとオーラを醸し出している。

ああいう人間には関わらないほうが身のためだと、一般人は言う。
ルカ自身もジャーナリストとして、そしてベヨネッタという魔女を追う身としてそれは深く身体にも心にも刻まれているのだが
ああいう人間こそ、ジャーナリストにとって一番の可能性をもってる人物が多いことも知っていた。

男はなにやら言い合った後、結局店を出ていくようだ。
まあ、いくら可能性があろうとも、今は魔女を追うだけでいい俺にとってその可能性との遭遇は無益に等しいのだが。

昼間から酒を浴びて椅子に雪崩れる情報屋

「じゃあな、エンツォ」
「おう、じゃーな」

酔ったエンツォは騒ぎにも気づかず、そのまま帽子を深くかぶり、早速寝息を立て始めた。

さあ、今日はどうしようか そんなことを考えながら出入口に向かう。




ドンッ

「!?」
「あ、すまない」

いきなり扉が開いて駆け込んできた銀髪。誰だぶつかったのはと視線を下に下げると
右手だけが長袖にグローブという重装備なのがいささか目立つが、まだティーンであろう少年だった。

「いや、大丈夫「ダンテェェエエエエイ」

なんて俺が言い終わらないまま、その少年は怒鳴りながらカウンターの中年に飛び蹴りをかました。

「げっネロ」

心なしかげっそりとした中年は少年に襟首を掴まれている。そうか、ダンテというのか。

「おっさん今日という今日は、許さねえぞ!!」
「お前なんでこの場所しってんだ」

おいおい此処で喧嘩ぶっぱじめると言うのか、正直異常巻き込まれたくない、そう思い店の扉に手をかけるようとして其の違和感に気づいた。
ドアノブ…というか取っ手がない。
思い当たるのはさっきの少年だけで、どんだけ強い力なんだあの少年、取って破壊とかどんだけだよ。



ドォオン

「あぶねっ」
「あ、すまない」

またか。

今度はドアごと俺をふっ飛ばそうとしたことに「あ、すまない」ですませた青年2人。
ワイヤーで避けたはいいものの、当たっていたらあのドアごとあの世だった。
青年のその容姿はさっきの2人にどこか似ている。
ニコニコと笑うごけた肌の青年に対し、無表情で一転を見つめる青年…?まて、後者はもしかして青年じゃないかもしれない。

「見つけたぞ…」
「The endだな」

いい加減、店主が涙目になってきた。

ここまでくると、このダンテと呼ばれたカウンターの中年がいったい何をしたというのか。
そっと無表情だったやつが口を開いた。

「若が既に犠牲になった」
「げっ」
「元はお前等が悪いんだ、俺たちにアイツとばっちりが来る前に後始末して貰わないと困る」
「悪戯の発端は若だろ」
「事を大きくしたのはお前だ」

逃げないようにと重装備の右手で襟首を掴む青年がなんでこんなこと付き合わなきゃいけないんだというように、ため息を吐いた。
パリィイイイン

「ダァァアアンテェエエエイ」

割れる音と共に地響きのような声が聞こえたと思うと、ブリザードが吹き荒れた。
窓に足をかけて、一人の青いオールバックの青年がこちらを睨んでいる。

「は、はは」

俺は思わず、笑うしか無くなった。

「ダァァアアンテェエエエイ」

よく見ると、右手に何かを持っている。

「さあ、好きだろう?食うがいい」

一見ストロベリーサンデーに見える、見えるが絶対に違うと匂いが物語っていた。
これでもかと漂う酢の匂いと唐辛子。
これは確実にストサンのストロベリーではない。

タバスコだ。

今日一番、余裕顔だったダンテの顔がこわばったのを感じた。

響き渡る悲鳴を聞きながら、割れた窓からワイヤーを使って俺は其の店から脱出した。
さあ、今日はどうやって彼女を探そうか、なんだかあっさり見つけられそうな気がする。

このあと、あの銀髪で赤コートだらけの奴らとあの中年男がどうなったかんて、俺は知らない。

ふと、通り過ぎたショーウィンドウ越しに、赤い紐飾りの黒猫が笑っていた。



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