半人半魔幼児化計画



「なんでまたこんなことになっているんだ?」

寝起き一番、昨夜依頼から帰ってきたこともあり何時もより遅めに起きたわけだが
目に飛び込んできたその光景に、俺はその眉間に深いシワを作られるのが嫌でもわかった。


「とーうーさーんー」

「とうさんー!!」


「!!??」


腹に受ける小さな塊が2つ。

弾丸のようにとんできて、一般人なら普通に吹っ飛ぶようなそれを2様は不可解に思いながらもだきとめた。


「あはは、これにはいろいろワケがあってな」


「だぁだぁ・・・あぅ?」

「へいへい、どうしたネロ」


片腕に小さいまだ喃語を話す子供を抱き抱えた過去の俺が、子供たちの周りにいて
過去の俺は困ったようにこっちを見ていた。

今度は不意に服の裾を引っ張られ、見てみる。


「親父!剣の稽古しようぜ!!」


今度は少年だろうか、リベリオンを軽々と担いでるところを見ると明らかに昔の俺だ。


「どういうことだ?」

「それが、レディがなーーー」




つい、昨日のことに遡る。

事務所に初代、若、髭のいる時間帯にレディが現れたという。
また借金の取り立てかとため息を付きそうになるが、予想外にもそうではなかったらしい


「あら、私が此処に来るのは借金の取り立てだけのようじゃない」

「実際そうだろ」

「否定はしないわ」

「それじゃ俺が借金まみれみてぇだな」

「あら、違ったの?」


はっきりズバリと言い切る辺りどの世界でもレディはレディである。


「で、取り立てでないなら今回はどんな要件で?」


すねはじめた初代に変わり、髭が対応する。
レディはその言葉にニタリと笑うと一つの小瓶を取り出した。


「餞別よ」

「餞別ぅ?」


その言葉に若が食いつく。
中に血のように赤い液体が入った小瓶を事務所机の上においた。
どうも魔力が込められた液体のようにも見えなくないが、そんな気配感じ取れない。


「何かに混ぜて飲んでみたら?案外面白いことが起こるかも」


週休六十のデビルメイクライだけあって、面白いことはめったにない。
それに食いつくのはやはり皆同じだった。

そのまま「次の仕事があるの」と出ていったレディの背を見送って
一番最初に動いたのが若だった。


「で、どんなんだよ」

「悪魔絡みなんだろうが、まぁ飲んでみる価値はあるかもな」

「やめとけ、レディが持ってくるもんは碌なもんじゃねぇ」

「初代のビビリー」

「なっ」


その時はその時で、一時収集がついて悪魔絡みとして机の中に保管しておいたはずが
何故か朝トマトジュースを飲んだメンツがこうなったらしい。
犯人は、まぁ予想はつくが、寝ぼけたのか自分も飲むとはやはりまだ若い。


「はぁ・・・」


話を聴き終わって一息ついた。初代が苦笑いする。
膝の上にはバージルがおとなしく座って本を読んでいる。
ちなみに絵本、「塔の上のラプンツェル」だ。
塔とかやめてくれマジで。


「で、なんでお前は縮まなかったんだ?」


話によるとこいつもその魔液入りトマトジュースを飲んだという


「いやぁ、なんでだろうな」


以前もそんなことがあった気がする、こいつには天使の加護でもついてるというのだろうか
いや、それはないか・・・自分で何を言ってるんだ。


「ちなみに、こいつがネロな」


そう言って初代は抱いていたネロをこちらに見せるようにする仕草をした。
右腕は普通の人間の腕で、しかもつぶらな瞳とかち合う。


「だぁあうぅ・・ぁ?」


どうしていいかわからなく、眉間にシワを寄せると不思議な顔をしてきた。
とりあえず頭を撫でておくがそのせいで髪がぐちゃぐちゃになってしまった。


「不器用」

「あぁ?」


お前も俺なんだぞ、そういう目線を送るとまた苦笑いされた。
ソファに目をやるとじゃれ合う年の違う2人。


「髭と、若か」

「そう、でかいほうが髭、チビは若」


どうやら一定の感覚で年が違うようだ、しかも厄介なことに記憶なし。
レディ、この始末はどうしてくれよう。
脳内で不敵に笑う彼女の姿が浮かんで、やめた。


「父さん」

「どうした、わ・・・ダンテ」

若、と言いかけてやめた。

厄介なことに双子と髭は何を勘違いしてるのか俺を父と呼ぶ。

そこまで似てるとか考えるとかんせん軽くショックである。
しかし訂正すればややこしいことこの上ないのでそのままにしておくのが無難だろう


「母さんは?」


その言葉にバージルもピクリとなる。


「そういえば、僕が此処にいるなら母さんもいるよね」

「さっき写真もあった!」


元髭と若が後を追うように聞いてくる。
もちろん母さんなんて、・・・いるはずない。
今この場にトリッシュが居なくてよかったと思う。

初代もだまりこんだままだ。


「母さんは……」

「母さんは?」


皆が俺の言葉に耳を傾け、一度その場が静かになった。


「母さんは……家で留守番中だ」

言った後に、胸の中がとてつもなく苦しくなったような気がした。

嘘。
嘘だ、真っ赤な嘘。

しかし今の彼らに言うには、これが一番正解な答え。
それを証明するように彼らは安堵の息を漏らして「なんだぁ」なんて言ってる


「・・・2様」

「・・・」


久しぶりに、”母さん”なんて言った気がする。
あぁ、苦しい。
形容しがたい苦しさが胸を襲う。


「2様」

「ッ・・・!」


ふと、温かい雰囲気がした。
頭の上に置かれる手


「いい年して、そんな苦しそうな顔すんなよ」

「・・・すまない」


俺が気づいてもなお、その手は頭から離れず、撫で続ける。
どこかその仕草があの人の行動に似ていて、ふと枯れたはずの涙腺がゆるみそうになった。


「父さん、悲しい?」


バージルが絵本から目を話して此方を見て心配そうに言った。
そういえばこいつも、小さい頃は素直だった。


「いや、大丈夫だ」

「ところで」


この状態はいつ戻るんだろうか
そういう意味を込めて右横の初代を眺めると察したように


「あぁ、それなら、もうすぐじゃないのか?」


もうすぐ、たしかにトマトジュースに混ぜて飲んだくらいだ
効力は薄くなっているだろうし、それなりに時間も経っている。


「なぁ、初代」

「アンタにそう呼ばれたの初めてかも」

「そうだったか」

「そうそう」

ニシシと笑った初代を小突いて、俺は笑った。
不意に視線の先に居た若と髭がこちらを見て無邪気に笑う
それに気づいたバージルも怪訝な顔をしたあと、はと気づいてこっちを見上げ、笑った。

いつか、こんな過去があって、こんな未来があったら。


買い出しから帰った夕方には皆が元に戻り、気づけば初代のひざ上に乗っていたネロは顔を真赤にして飛び退いたとかなんとか。






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