Shall we bloody dance?




スラム街の一角、赤い派手なネオンをチラつかせる店の右隣。
廃れきったこの街で、つい先日新たに新装開店した店があった。



Bloody Dance



それが身を潜める用にそこに存在する黒い外観の店の名前だった。

まるで昔からそこにあったように馴染む店とその事務所で負けずと、また真っ黒な黒髪に少し焼けた肌、更に血のような赤い目。

彼は目を細め小さく暇そうに欠伸をし、事務所机に足をかけた。


チリンチリン


事務所の扉が開くと、小さく鈴が鳴った。

彼としてはなかなか繊細なものをつけたなと思う。
これが左隣にある店Devil May Cryに居る俺のオリジナルとは違うところだろうか。

店内も赤ではなく黒やグレーで統一されている

椅子にどかりと座ったまま両開きの扉の方を見ると、そこには彼があの何もないブラッディパレスから出る切っ掛けとなった男が立っていた。

そういえば、ついさっきまで左隣の店へ”お使い”を頼んでいたのだと思い出す。


「戻った」

「お疲れ。報告は?」

「した。後は若いのが騒いでたくらいだ」


右隣の住人たちへの挨拶を兼ねた店開店の報告。

残念ながら黒ダンテは彼らに出会って日が浅いため、坊やと髭しか性格はわからないが
ほか面々は皆この突然の「店を建てた」の報告にそれぞれの反応だろうと思う。


「シャワー浴びてくる」


そう言って同居人は奥へと行った。

ちなみにこの店は事務所件家なので、奥にはちゃんと生活スペースも部屋もある。
右隣の店よりいくらか店が小さいのは、まぁ、この際仕方ない。




ぶっちゃけ、この店の開店に至るまでそう時間はかからなかった。

黒ダンテのオリジナルである髭の何らかの闇への心の変化と
自分をダンテと名乗るあの外見不相応なアイツと出会ってから。
そしてこの表世界に出てこれるようになってから。


つい数日前のことに遡る。
黒ダンテ達はあの何もないブラッディパレスに戻る気も失せ、何をしようでもなくそこらへんの酒場に入り、飲んだ。

初めて飲んだ酒はそれなりに旨く、気づいたら結構な量を飲み、その間に何やらガラの悪いヤツラに絡まれたのだ。

「この間は人の女によくも」などと身に覚えのないことを言われ「人違いだ」と言うと、聞く耳持たずに殴りかかってきたので、

適当にノしてやったら、たまたま居た情報屋のエンツォという脂ぎった男に、手に負えない依頼があるから試してみないかと言われた。


「いやぁ、最近あんたそっくりなヤツがご無沙汰でなぁ、助かるぜ」
と言っていたが、たぶん髭のことだろう。


依頼はそんな難しくなかった。

いや、常人には難しいのかもしれないが黒ダンテ達としては悪魔関連ではない限り物足りなかった。

でも多額の依頼料を貰い、それなりに生活はできるようになり。
そしてこの空き家だった家を買取、情報屋を始めたのだ。


ガチャリ


黒ダンテらしくもなく物思いに老けていると、奥のシャワールームからスボンだけの姿で同居人が出てきたので、
視線だけを送ると、同居人はなにやらふと考えた後、口に出した。


「この街はまだ平和だな」

「いきなりだな、お前のとこは違うのか?」


そう聞くと少し自嘲ぎみに笑って


「街は襲ってくるものだった」


そのまま二人がけのソファにどかりと座った。


「”街が襲う”ねぇ。それもそれで楽しそうだな」

「退屈はしない」


頭をガシガシと吹きながら同居人は受け答える。
しかし少し違和感を感じた。


「お前今、不機嫌?」


ホントはそっとしておくのがいいのだろうが
髭と違って黒ダンテは率直に聞くタイプだった。


「そうでもない」

「そうか?」

「ナクラ」

「は?」

「若いのに言われた」


ジャパンのバライティ番組を見ていた若が、たまたま訪れた同居人に名付けたらしい。
心なしかイラついてると思えばそういうことか。


「いいんじゃないか?アダ名もなかったんだし」

「俺はダンテだ」

「俺もダンテだ」


クツクツと笑うと更に眉間を深くしてジロリと睨みつけられる。

こいつもこいつで、大人びていてもあの坊やとほぼ年齢は変わらないだろう。
アダ名くらいで怒るのはまだまだガキってことだ。


でもそれを見ているのが、俺は楽しい。
俺は俺と同じこいつの漆黒が視界に写るのが、嬉しい。



ジリリリリリリリリリ



不意にこの事務所に似つかない事務所机の上にある白電話が鳴り出し、
黒は事務所机足で叩きつけ宙に舞った受話器を受けとった。


「Bloody Dance」


依頼内容に自然と口角が上がる。


「OK」


そのままガシャンと受話器を戻すと
黒ダンテはコートをとって同居人を呼ぶ。


「早速収集の依頼だ」

「内容は?」


少し間をおいて外への扉の前で黒ダンテは振り返り、楽しそうに言った。



「―――合言葉付きだ」





そう、また彼等も、”ダンテ”の一人なのだ。





[ 16/34 ]
[BACK] [NEXT]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -