突撃!ダンテさん家の晩御飯 その3
脱ぎ捨てられた元々赤と青のコートだったモノを見て、俺は大きく溜息を付いた。
何故自分がこの状況下に置かれているのか、いや、緊急事態だから仕方ないんだろうけれど、気に食わない。
実は先程、シャワールームから出た若いダンテは今は気を失っているもう片方、名前を・・・大方予想は憑いていたが、双子の兄のバージルと名乗った。
状況整理をしたいが、今は怪我人がいることと、血と雨の混ざった水が滴った事務所内をどうにかして、落ち着くことから始めようと、珍しく髭が言い出した。
正直、突然の自分の出現に驚いている様子というよりは、
もう片方、兄に何か在るのか・・・とにかくあのおっさんの気は読めない、まぁ真剣に読む気もさらさら無いが。
開いていた部屋を何故か手の開いていた俺が軽く掃除し、バージルを寝かせ、その側に張り付くように腰を下ろした若いダンテ。
「ホットミルクでも飲むか?」と聞くと
「子供扱いするなよ!でも、今はいい、もう少し此処に居るわ」
と、虚勢を張ったくせに、後からしょぼしょぼと兄の顔を愛しそうに見た。
果たしてそれは親愛か、それとも強い何かか・・・俺にはよくわからない。
そのまま事務所に降りると、ダンテはいつもの事務机で雑誌を読むでもなくじっとしていて、俺に気づくと
「アレもよろしく、ネロ」と洗濯の仕事を押し付けてきたのである。
「きちんと名前で呼べるならそう呼べ!」と突き返して、
もうヤケになって風呂場での血まみれ洗濯物との格闘を始めたのだ。
ちなみに今2人が着ているのは、髭がどこからかわからないが出してきた少し誇りのかぶったコート。
しかも全く同じもの、でも過去の自分の服なんだからそりゃそうだ。
バージルは普通のワイシャツにスウェットだ。
こんなんがこの家にあったのが驚き。
排水口に赤い水が渦を巻いて流れ落ちる。
それにしても、あの二人はどんだけ血を流したんだか・・・。
髭曰く、人と魔を分つ閻魔刀で切られたから治りが遅いとかなんとか精神状態がどうのこうのとか、難しいから受け流したが、まぁ、とにかく相当激しい争いをしたのは分かった。
だいぶ血液が落ちた所で、長年使っているのか使ってないのかわからない洗濯機に放り込む。
大きな音を立てて洗濯機が回り始めた。
生地が痛もうが色が落ちようが、俺が知ったこっちゃない。
だが、ここまで作業してふとネロは思った。
「俺は主夫かっての」
おっさんの主夫、と想像して顔をしかめた。
そんなの、こちらから願い下げだ。
ふと時計を見るともう辺りはすっかり暗くなってる時間。
病人が居るのに、このままというのも忍びない。
正直、ダンテがどれだけ健康食を作れるのかも危うい、というかピザだろ、確実に。
まぁ、今まで自炊してきたのなら簡単なパスタやサラダくらいできてもおかしくないが・・・。
ふと髭を見ると今度はこの事務所一台だけの壊れかけなテレビを付けて天気予報なんて見ている。
・・・もう、駄目親父にしか見えなくなってきた。
俺は更に溜息をついてキッチンにたった。
ピザの箱、酒、ストサン、その他最低限のもの、賞味期限が切れたもの、流し台には水垢が酷い有様だ、キリエが見たら絶対小さく悲鳴をあげるに決まってる。
とにかく今日一番の大きな溜息と同時に肩をすくめ、腕を巻くって、今度俺は、流し台にこびり付いた水垢との戦闘態勢に入った。
自分の空腹もあるが、とにかく病人用の飯をつくるべく、奮闘するのだ。
それにしても
今日でどれだけの幸せ、逃げたかな・・・。
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