(なんだか珍しく平和だ。)


煎茶を啜りながら思う。
幸いこの部屋は効きまくりの空調のおかげで肌寒いくらいなので温かいお茶を飲むことも苦にはならない。
パソコンを前に仕事をしていたため固まった肩をぐるりと回す。


(今日はいつもより早く終わりそうだ。)


なんだか不自然なくらい平和だ。
まあ、それもそうか。



「正臣くーん、たすけてー」



奥の寝室から聞こえる声の主――折原臨也が今日1日何もしないで寝込んでいたんだから。






早朝からメールで呼び出されて彼の家に行くと、倒れていた。
何がって、あの折原臨也が。

床に這いつくばる彼を見つけたとき、俺は暢気に「朝ごはん作るの、自分の分だけでいいかな?」なんて思わず考えた。






「どうしたんすか?」



仰向けに倒れるようにベッドに横たわる彼は、顔だけ上げて力無く笑った。



「正臣くん……俺、ちょっとヤバイかも。」

「ですねー永遠の21歳がぎっくり腰で寝込んでるとかヤバすぎですね。」



そう。
この完全無欠の情報屋様はぎっくり腰で1日寝込んでいるのだ。



「その言い方だと誤解を招くよ。」



正確には平和島静雄の投げた道路標識が腰に直撃したらしい。
まあ結局自分のせいですよね。



「たすけてー」

「俺にどうしろって言うんですか」



そんなに痛いなら病院に行けばいいのに。
このひとは何をするでもなくベッドの上でごろごろしていた。
ベッドの淵に座って尋ねると、顔を枕に押しつけているせいでくぐもった声が聞こえてきた。



「優しく撫でてくれたら治るかも」

「とんとん叩くんですねわかりました」

「わかってない、わかってないよ!それは冗談としてはかなり笑えないからね!」



結局さすっている俺を誰か褒めてくれ。
ゆっくりと背中から腰にかけてさする内に疑問が沸いた。



「……これって本当に効果あるんすか?さすってるだけで変わるもんなんすか?」

「あるよー?少なくとも正臣くんが俺に優しいってだけでかなり効果ある。」

「じゃあ普段は辛辣に接しますね。」

「優しい方が嬉しいな!」



このひとは本当によくわからない。
俺を顎で使ったり道具みたいに使ったりするのと同じくらい、優しかったり助けを求めたりすることも茶飯事なのだ。


(…寂しいひとなのかもしれない)


こんなときに俺くらいしか呼びつけられないなんて、案外彼も寂しいひとなのかもしれない。



「正臣くん夕飯どうする?」

「あー…今日は早めに終わりそうなんで作ってから帰ります」

「せっかくだし食べていけば?今から作ったら家に帰ってから食べるの遅くなっちゃうよ?」



気づいたことがある。
いつも欲しがってる安息とやらは、実はそこら辺に転がってるということ。



「…じゃあそうします」



あと、俺は案外この寂しいひとに甘い造りになってしまっているということ。



平和を望みます

(だけれど)
(おとなしいあなたなんて)
(逆に俺は落ち着かない。)

(…なんて言えない)



10.08.06





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