梔子 餠さまより【膝小僧(次富)】
「てめー三之助ェー!!」
ドゴッ!
「痛っ!」
森の中、今日も今日とて迷子になった三之助。そしてようやく見つける事ができた作兵衛が、ずんずんと進む三之助の背中に鉄拳を入れた。
「後ろからいきなりパンチとか…俺が何したっていうの?」
「なってんだろが!迷子だろが!」
「俺?」
「おめえ以外に誰がいるんだ!あぁ!?」
作兵衛の勢いに後ろにひっくり返りそうになる。こういう事、言い合ってもしょうがないことを三之助は知ってるので、おとなしく謝る。
「ごめん」
はぁ、と大きなため息を作兵衛がついた。
「ったく、早く戻んねえと」
作兵衛は三之助の腰にいつも通り迷子紐を結びだす。ふと三之助が作兵衛の膝部分の制服に赤黒い染みができていることに気がつく。
「作兵衛、それどうしたの?」
それ、と言われた目線の先が自分の膝部分を示していることが分かったようだ。
「さっき、派手に転んだ」
けろりとした顔で言う作兵衛に三之助は呆れる。
「痛いんじゃないの?結構、血出てんじゃん。」
「痛くねえよ、見た目だけ凄いだけ」
「止血した?」
「ほっときゃ止まるって」
三之助は自分の頭巾をしゅる、と取り、作兵衛の膝部分にグルグルと巻きつける。
「平気だって」
「念のため、後で数馬に怒られても知らないよ?」
口うるさい不運委員の名前を出すと、作兵衛は言い返せなくて唇をかむ
三之助は仕上げにギュッと強く結ぶ。
「いっ…!」
作兵衛が顔をしかめた。
「やっぱ痛いんじゃん」
「強く結ぶからだろ!」
「止血だもの」
三之助の筋の通った意見に、作兵衛はまたしても言い返せなくなり、舌打ちをひとつ。
「…痛くねえよ」
ブスッとした顔で言う作兵衛に、苦笑いする三之助。
作兵衛は昔から痛いだとか、辛い、苦しい等の言葉を言わない。実際、作兵衛自身が平気だって思ってる場合もあるのだが、逆もあるわけで。
それを見極めるのは三之助には慣れたもんだった。
それは左門も含め、四六時中一緒に生活していることだけある。
「作兵衛、」
歩き出そうとしていた作兵衛を呼び止め、三之助はしゃがむ。
「ほら、」
「大丈夫だっつったの聞こえ無かった?」
「聞こえたよ?」
作兵衛の圧力がかかったような声にも動じず、さらりと返事を返す。
「歩ける」
「知ってる」「痛くない」
「知ってるよ」
「…立て、いくぞ」作兵衛がくるりと前を向こうとしたのと同時に三之助が言った。
「いいじゃん別に、」
作兵衛の動きが止まる。
三之助を横目で見る。
「おぶらせてよ作兵衛」
じい、と作兵衛を見る。
「俺なんだから、気にすんな」
(本当にこの無自覚バカは…)
「はー…」
作兵衛は大きなため息をつくと、三之助の背中に飛び乗る。
「おっとっと…!」
「大丈夫かー」
三之助がぐらついたのを面白そうに笑ながら作兵衛は言った。
「平気ですー」
「いつでも降りてやるからな」
「学園まで、絶対下ろさない」
嫌味な台詞がさらりとカッコいい台詞で返ってきて、作兵衛はなんだか照れくさくなって、三之助の首に回す腕を強める。
「さくべー、苦しいんだけどー!」
「うっせえ、無自覚方向音痴!左だ!左ー!」
*
―――
《道の空路》さまとの相互記念に、梔子餠さまよりだいすきな次富をいただきました。餠さまが描かれる初々しいふたりの恋の姿が可愛らしくて胸がきゅんとなり、とても好きです^^*
ありがとうございました!
:::時鳥:::
[ 1/1 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]