冷房の効いた部屋で仕事をしたいと、毎年この時期になるといつも思っていたし実行してきたドガも、ここ数日の気温にはそんな気も削がれるほどやられている。
研究に打ち込んできた身も心も、今は何もしたくないという感情に支配され、だらしなくソファに沈むのが精一杯だ。
そんなドガに、アイスティーを持ってリビングまで来たジェシーは目を丸くして、気持ち足早に近付く。

「どうしたの?具合でも悪い?」

「……暑すぎる。脳が破壊されそうだ」

「びっくりした…大袈裟だなぁ、確かに暑いけど…でも最近は少しマシになってきたんじゃないかな。というかドガ、年々暑さに弱くなっていないかい?」

「私が弱っているのではなく、年々気温が上がっているんだ。忌々しい…」

「忌々しい、……」

「笑っていられるのも今のうちだぞ、君だってあと数年で私のようにだな…」

「そんなこと言って、僕たち大して変わらないじゃない。だからドガも軽く運動しようって誘ってるのに。体力がないと暑さにもやられちゃうよ、そうだ、プールなんてどう?」

「プールか…いいな、浸かりたいよ」

「泳ぎはしないんだね」

「疲れるだろう」

涼みたいだけで疲れたい訳ではない。何も考えられないくらいだというのにこれ以上自分が使い物にならなくなっては困る。
そう言って起き上がりもせずジェシーの手から、やや汗のかいたグラスを受け取ったドガは、頭を浮かすことすらせず、口を尖らせてストローからアイスティーを飲み、ジェシーへ返す。
受け取ったグラスを置いて、ジェシーはいつだったかネオジャパンの土産だとモデル仲間から貰った扇子で、ドガをゆっくりと扇いだ。

「あ〜〜〜」

「ふふ、情けない声が出ていますよ、ドクター」

「いい、もう、君しか見ていないし、聞いていないからな…今日の私は情けないんだ」

「そんなこと言って、あぁ、シャツに皺が寄っちゃってる。ほら、起きて何か少し食べよう」

「やめてくれ、起こすんじゃない、扇いでいてくれ…人の形を留めておけなくなる……私が消えてもいいのか……」

「もう、だから大袈裟だってば、」

抱き起こしたジェシーに、完全に体重をかけてもたれるドガの額からは、次々に汗が流れている。顎まで到達した汗が喉を伝い、シャツの中に消えるのを、そして染みていくのを、後ろから支えるジェシーは黙って見ている。
こんなに弱っている人相手に…。軽く頭を振って、ジェシーは扇子をぱたぱたと動かすことに集中する。時々僅かに身を捩り、小さく唸るドガの声を聞く度、沸々と湧き上がる感情を、必死に抑えながら。
そしてそんなジェシーの葛藤に気付き、少しだけ申し訳ない気持ちでいるドガも、今日の夜の代わりにと、背中の熱を必死に受け止めている。
 




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