リビングのソファーに横になって、携帯を、少しむくれたような顔で弄りながら、ジェシーはドガの帰りを待っていた。首が痛い、と外の寒さに身を竦めながら歩いてきたらしいドガの声で身体を起こし、おかえりよりも先に文句を言う。最近はいつもそうだ。それはドガが、メッセージでのやりとりをきちんと返すようになってからだった。それが良いことなのか悪いことなのか、自分のせいで少しわがままになってしまったらしいジェシーを見て、疑問に思う。

「帰るときは帰るって連絡してねって言ったのに」

「途中まで人と一緒だったのでね。そんな暇がなかった」

「ちょっとこれだけ送るからとか言えるでしょう?」

ジェシーと付き合い始めてからというもの、ドガにはこれまでの友人としての付き合いで得た彼の情報が、面白いほど更新・修正されていくのを、楽しく、そして少々驚きながら見ている。
ジェシー・ブランドンは意外と自分本位である。
それもどうやらドガに向けて、そしてほとんどが第三者が関わっているときなどに顕著であるようだった。

「今度からそうするよ」

「今度っていつ?」

「あー……次から。明日から」

「絶対だよ」

食事を温めるタイミングがあるとか、帰りに買ってきてほしい物があったとか、そんな話を唇を突き出して言うので、ドガは笑いながら聞く。友人から恋人へ、そして段々と家族のようになっていく今の関係を、ドガは中々気に入っている。彼の最近の様子を周囲が見ればわがままと一蹴するだろうが、これも不思議と心地好いのだ。

「あーあ、色々足りないものがあって、今日の料理が完成しそうにないなぁ」

ドガにべったりくっついて離れないジェシーが、肩に顎を乗せて、耳元で拗ねたように言うので、ドガはまた笑って、今掛けたばかりのコートを手に取る。きっと、今から行ってくるなんて言えば、完璧なわがままにはなりきれないジェシーが、申し訳なさそうにするのは目に見えている。我々はいつだって対等でいなくてはならない、とドガは思う。わがままにはわがままを、そうすることで絶対に二人で楽しくなれるのを、ドガも、そしてジェシーも分かっているのだ。甘やかされるばかりだと思っていた自分が、彼を甘やかす日が来ようとは。こんなとき、ドガは少し大袈裟に、いい人生だ、と思う。

「さてジェシー」

「なんでしょうドクター?」

「君もコートを着てくれないか」

「僕も?」

「足りない食材を買いに行こう、二人で」

「……いいですよ、僕と二人で行きたいなら」

「是非そうしたいね、遅くまでやっているコーヒーショップも見つけたんだ、帰りに寄ろうじゃないか。…これはデートだぞ」

「デート!僕、もしかして今ドガからデートに誘われた!?」

「寒い暗い夜道を、一人で買い出しに出るよりは、君と寒がりながら歩くのも、良さそうだと思ってね。どうかな」

「よろこんで!」

白く長い首に、自分のマフラーを巻きながら誘うと、ジェシーは相当嬉しかったのか、またドガに思いきり抱きつく。自分でも動かしたことのないような範囲まで反ったドガの背骨は悲痛な叫び声をあげたが、ジェシーはお構いなしだ。ドガの頬に、眼鏡がずれるほど唇を押し付けてから、慌ただしく洗面台へ駆けていく。

「少し待ってて!」

「少しだぞ」

絶対に少しでは済まないことをドガも分かっているが、仕方ない。デートという言葉が出た以上、彼を止める術は、ドガにもジェシーにもないのだ。





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