少し染みのついてしまった下着をスラックスごと一気に脱がせ、グレイはジャドを、便座の上に片膝を立たせて、再び座らせる。

「意外と柔らかいんだなお前」

「うるっせぇ」

まじまじと見つめるグレイから顔を逸らし、さっさと終わらせてくれとだけ願うジャドの祈りは、本当にあの提案をしたのはコイツか?と思うほど酌んでもらえない。さっさと指を突っ込んでくれとはしたなく頼んでも、こうなってしまっては構わないのだが、グレイは相手が誰であろうと、こういうことに関して意外にも紳士であるようだった。

「まさかこうなるとは思ってなかったからなぁ…どうすっかな、せめてコンドームがあれば…」

「お、れの…ァ、…俺の鞄に……」

「ん?…あーあった、これか。…うーわ…減ってんなぁ」

「一々そういうこと、言うな!仕方ねぇだろ…つか、も、頼むから…」

「っ…へぇ、そういうことも覚えさせられた訳だ、大変だねぇ会社員は」

「馬鹿なこと言ってんじゃ、ねぇっ」

上げていた足でグレイの太ももを押して窘めると、苦笑いしてその足を掴まれる。そのまましゃがんで自分の肩に足を乗せたグレイは、ジャドに楽にするように言い、手に使いかけのローションを出し、指を曲げ伸ばして馴染ませる。
それを見て喉を鳴らしたジャドに、グレイはまた笑う。期待してもらってるとこ悪いがすぐ終わらすぜ。そう言って指を入れたグレイが眉間に皺を寄せて、柔い、と小さく零した。

「それは…仕方ねぇだろ…あの野郎が、」

「いい、言うな。…指増やすからな」

「っ……ふ、」

二本の指がこちらを気遣いながら奥へと入ってくる。押されているような、広げられているような、不思議な感覚があって、少ししてから触ってほしくなかった場所に触れられ、僅かに声が漏れる。グレイは今度はこれに反応しない。あるのは奇妙な縁で他人から仲間となったジャドを、助けるためという意思であって、それ意外のものは、無いのだ。先ほどの軽口は彼の癖のようなもので、その目にはその先を期待する色もない。それを汲んだジャドは、先ほどまでのややずれた期待をした自分をすっかり打ち消す。

また少し進んだ頃、中で爪と当たるようなコツ、という音が体内に響いて聞こえ、安心して力が抜ける。その調子、と声をかけられ、背中をさすられ、それが合図かのように、ふぅ、と細くゆっくりと息を吐き、目を閉じて腹に力を入れないように集中する。時々舌打ちや自分がグレイの頭を胸に抱えるような位置にいるほど近いこの距離でも聞き取れないほどのくぐもった独り言を零しながら、グレイは何か確認でもしているかのようにコツ、コツ、と爪をあてている。

「…掴めねぇ」

「は、」

「指の先は何となく当たるんだが、これ以上は指以外のモンも入りそうだし…」

「は、やめ、やめろそれは、」

「やらねぇよ…」

お前はどうか知らんが俺は慣れてねぇ。鼻で笑いながらグレイは指をそのままに顔をあげる。近い距離で目を合わせることになり、二人同時になんとなく視線を逸らす。

「どうすんだ、出来なそうか?」

「いや、あとちょっとってとこで止めはしねぇが」

我ながら縋るような、情けない声が出たな、と思いながらも、頼れる人間が、今他に思いつかないジャドには、ここでグレイに諦めてほしくなかった。グレイの止めないという言葉にまたほっとしたが、狭い個室の中でやや策を練る時間が出来てしまい、今度は二人同時に吹き出す。

「野郎のケツに指つっこむか悩む日が来るとも、指つっこみながら悩む日が来るとも、思いもしなかったぜ」

「ふっ…悪かったな、」

他の客の気配は無かったが、それでも何となく声を潜めて笑う。少しあって、笑って腹部に力が入ったのか、それとも振動なのか、一層背中を丸める格好になったからなのか、何のお陰か定かではないが、良い位置に来たらしい玩具の端を、グレイの指が捕らえたらしい。

「あ、よっしゃ、挟んだ」

「うぉ、マジか、助かった……」

「安心すんのは早いぞ、ローションのせいで指が滑る…力抜けるか?」

「おう、やってみる…」

入り込んだグレイの中指と薬指が、時折曲がったりのびたりしているのが分かる。端を掴んでは手前に掻き出すような動きをしているのが想像出来て、自分の中のモノが出口へ少しずつ、着実に下りてきているのを感じる。引き抜こうとする動作が、指のみから、微かに肘が引かれるような動きに変わって、またグレイの指が入ってきた時のように、…今度は異物と共に、己のイイ所へ当たって通り過ぎた。声を抑えることには成功したはずだ。よっしゃ!と小声ながら嬉しそうなグレイの声が聞こえて、いつの間にか瞑っていた目を開ける。
ぬめりを纏った指と玩具が、己の脚の間で、洒落た照明の明かりでいやらしく光っているのを見ても、気が抜けきった今のジャドには、何とも思えなかった。

「っっっはぁぁ〜〜〜〜」

「っはー!……こんなとこでいらん達成感を得ちまった…」

「本当に助かった…恩人だよお前は…」

「どうせなら命でも助けた後に言われたかったぜ」

また声を殺して二人は暫し笑っていたが、これ、どうすんだ?と、まだ手に持っていたままだったらしいグレイがジャドの鼻先に突きつけて言うので、なんとなくペーパーを取って包み取る。俺は素手だったんだぞ!と大声を上げるグレイに、ジャドも声上げて笑う。
疚しい感情も恥も怒りもジャドからは消えていたが、グレイの方は両足をだらしなく投げ出して自身を隠そうともしていないジャドを見留めると、何かを急に思い出したように勢いよく立ち上がり、個室の扉を開けて出ていく。焦ったジャドが慌てて扉を押さえて全開を回避した頃、水の音が聞こえ、グレイが手を洗っているのが分かった。
まぁ流石に気持ち悪いだろうしな、とジャドは申し訳なくなりながら、カラカラと取り出したペーパーでローションまみれとなった部分を拭く。ややあって、水の音が止まったことに気付き声をかけると、被せるように、グレイのさっさと飲んで忘れようぜ、といつもの調子で言うのが反響して聞こえてくる。
その変わらない態度に感謝しつつ、先に行っててくれ、と声をかけて急いで下着を履くジャドは、個室から出る間際のグレイの、耐えるような目や赤くなった耳に、全く気付かなかった。





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