苦しそうに、途切れ途切れに話された言葉たちを前に、ドガはジェシーに気付かれないようにひっそりと長く、息を吐くしか出来なかった。自分の言葉を跳ね返しておいてとか、今更都合の良いことをだとか、これまでの自身であれば怒りに感情を振っていただろうに、とドガは思う。それよりも、あれだけ今のままの状態でいいと願って努めてきたのに、そしてつい先ほどまでもう彼に期待をしてはいけないと考えていたのに、そんな考えなどまるで無かったように、ざわざわと心が浮き立っていることに驚いている。頭では切り替えていたつもりだが、今にもジェシーに手を伸ばしそうでいるのが、なんとも情けない気持ちにさせる。結局ジェシーを取り巻く人々となにも変わらないのだ、自分は。

「あなたのことばかり考えるよ、ドガ」

「………」

「あなたを、失うかもしれないなんて、これっぽっちも思わなかった……あなたにいつか愛する人が出来て、僕から離れるかもしれないとか、微塵もね。おかしいでしょ?僕らはずっと一緒にいられると思ってた。だからあなたの言葉に本当はすぐ喜べたはずなんだ、なのに…あなたの気持ちに、言葉に、怖くなってしまって…」

「すまない……」

「謝らないでほしい、お願いだから…ドクター、あなたが好きです。僕にはあなたが必要だ。あなたにも僕を必要としてほしい」

必要としているさ、いつだってそうだった。そう言いたいのに唇は動かない。言葉で伝えるのは、真意を汲まれるかは別として、得意なはずだった。それなのに今は彼の名前さえ出てこない。
ドガの指が解けて、膝から滑り落ちるのをジェシーは見逃してはくれなかった。彼に向かって伸びようとしているその指を捕まえようと、ソファーからゆっくりと降りて床に膝をつく。それを見て怯えたような目に変わったドガを、ジェシーは先ほどよりももっと、泣きそうな目で見つめ返している。
不安気な眉に頬を寄せるように腕の中へドガを引き込み、かたまってしまった身体を優しく撫でるその手が、氷のように冷たい。
潜められたドガの呼吸を、ジェシーは集中してじっと聞く。わたしもだ。ようやく囁かれたその言葉に、止まってしまっている気がしていた自分の身体の機能の全てが、正常に動き出そうとしているのをジェシーは感じた。肺に自分でも制御出来ない勢いで酸素が舞い込んでくる。涙が出ないように、口だけで大袈裟に息を吸っては吐く。わたしもだ。もう一度、今度は自分に言い聞かせるように、間違いではないと確認するように、ドガは囁く。
落ち着いて顔を見合わせた二人の間の照れくささを、まだ開けたままの窓から、深夜の刺々しい風が嘲るように冷やしていく。情けない大人たちを、大儀そうに弄っては去る風も、今のふたりには表面の熱を分け与える口実にしかならない。

 




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