じっとり、湿った石畳。その上をお気に入りの黒いブーツが規則正しいリズムを叩く。まるで、死神のマントにすっぽり包まれたような闇が下りる、慣れたこの街を彼は歩いていた。地上より少しだけ季節が進むことが早いせいなのか、闇に溶けてしまいそうな黒いコートを着ている。ぽつぽつと置かれた、街灯の光に金色のボタンが煌めいた。
抱えていた紙袋を持ちなおして、荷物に視線を落とした彼はため息を吐いた。白くけぶった吐息が、とろけるようなオレンジ色の光の下に吐き出される。
こつこつこつ。止まっていた足が、もう1度動き出す。ブーツの底は、足早に石畳を叩き続けた。リズミカルな音に紛れて、彼の耳に入れたイヤホンから微かに漏れる音楽が寂しい路上に閃く。人っ子一人いなかった。


しばらく歩き続けて、ふと、彼は足を止めた。
遠くの光すら届かない、街の隅。その闇の中に見慣れた3つの影が揺らめいていて。すると、止まった足音に気づいたのか、その中の1人が振り返った。


「あ、十朱。やっと来たの〜?」


影は、にっこりと笑みを浮かべて手招きをする。彼、十朱も呆れたようにため息を吐いて、彼らの方に近づいた。途中、外されたイヤホンから零れた、違う言語の歌が暗い通りに反芻して。ぴくりと空気が震えた。


「・・・ホラ、持ってきてやったぞ」


十朱が持っていた紙袋は放り投げられると、その中身をひとつも零さずに甘舌舐の腕の中に収まった。甘舌舐は、紙袋を受け取ると、子供のような笑顔を浮かべて中身を漁る。それを横目で睨んでいるのは、さっきまで屈んで何か作業をしていた百百だった。


「こんなもん、一体何に使うんだよ?」
「えー十朱、今日がなんの日か知らないのー?」
「うるさい、影」
「べつにいーじゃん。みんなでやろうよ」
「・・・甘舌舐、いい加減もういいんじゃねーの?待ちくたびれた」


百百が、嬉しそうに紙袋を抱えている甘舌舐に尋ねる。甘舌舐は、吊り上った口元を歪めて、真っ赤な舌舐めずりをした。がちゃがちゃと石畳の上に、紙袋の中身をばら撒いて満足そうに目元を細める。


「ふふっ・・・じゃあ、始めようか」


4人は、ぐるりと1人のボロボロになった男を取り囲むように屈んだ。さらに闇が濃く、深くなる。どこかで、マッチを擦る音がした。恐怖が張り付いた男の顔を照らし出すのは、1本の蝋燭の明かりだった。呆気なく垂れた蝋が湿った石畳にじゅうっと音を立てる。


「Trick or Treat・・・お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ?」


ある意味、猟奇的すら見え隠れする表情の甘舌舐が大きく見開かれた男の瞳に映りこむ。そして、たらり、蝋が音もなくその眼球に、吸い込まれた。






20111031




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