やさしき日々
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見づらい方はふち無しver

ある意味初夜




「いい湯だなーあははん」

テーマソングを歌いながら、ドアを開けた高宮家長女、椿は絶句した。

目の前のベッドが膨らんでいる。枕元からはみ出る茶髪。そして静かに上下する掛け布団。マイスペースに先客あり。

「うっそォオ!」
「現実デス。それも就寝中」

ぽんと椿の肩に、弟類は手を乗せる。

「幸村は頼んだ姉貴!」
「いやいや何故に私!?あんたのとこあるでしょうが!」
「キン肉マンで足の踏み場在りません」
「誇らしげに言うな!お母さァア…」
「あいつらダブルベッドだろ。スペースあると?」
「お客さん用の布団は!」
「奈津が漏らして捨てただろ」

奈津というのは今年5歳になる椿たちの従兄弟なのだが、先日泊まりに来た際、お漏らししてしまったのだ。ということで、最後の頼みさえなくなってしまい、椿深いため息をこぼした。

「今更追い出す訳にも行かないだろ?右も左も分からないんだぜ?姉貴がそんなに無理って言うなら、仕方ないかもしんないけど。…やっぱ、無理だよな。いやうんいいよ。俺幸村起こしてくるわ。ちょっと外寒いかもしんないけど、今日は公園でホームレスの皆さんと」

「あぁあ!うそうそ!私が一緒に寝ます!全然大丈夫だから!公園なんて駄目に決まってる!」

「ならおやすみ」

椿の肩から、ひらりと手を退けた類はにこりと笑い、そのまま自室へと方向転換した。

「…え」

目を丸める姉と、してやったり顔の弟。 そして三秒後椿は口車に乗せられたのだと気付いたのだった。

「はめられた!」

ある意味初夜


「…えっと、失礼します」

これほど自分のベッドに入るのを躊躇ったことは今まで有っただろうか、いやない。

やはり返ってこない返答に、恐る恐る布団を捲る。すやすやと眠る幸村さん。おいおい、戦国武将がこんなマジ寝してていいんですか?寝顔こんな可愛くていいんですか?まつげ長いな。肌すべすべそう。女の子みたいだなー。女の私よりも可愛いってどういうことだよ。ちょっと分けてくんないかな、1パーセントでもいいから。

そのとき、幸村が小さな呻き声を上げた。はっとして飛び退くが、ただの寝言らしい。チキン丸出ししてしまった。心臓を整え、ふと時計に目をやると午前2時を指していた。

「うっそやば!」

いつの間にか何時間も経っていたらしい。徹夜だけは勘弁だと、意を決して椿は布団に足を踏み入れた。空いた壁と幸村との隙間に体をねじ込ませる。うわ、温か!流石は人肌というのか、布団の心地よい温度に思わず目を瞑ってしまう。緊張して眠れないとか思っていたが、予想以上に居心地が良い。隣りから聞こえる寝息も、布団に入ってみれば睡魔を誘導してくれた。

うわー意外といい。

なんて思いながら、意識は途絶えた。