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世界一優しいキスを貴方に
それから数時間。
佐助が上田に戻って小一時間。そして、みんなの涙もやっと止まり、眠たげに涙をこする時間帯になっていた。
母雪子と父順次とお休みの挨拶を済ませると、泣きつかれて眠る椿を抱き上げた。
「幸村。置いといていいよ。寒くなったら勝手に起きるだろうし」
「いえ、これは俺の我が儘です」
ゆるりと微笑むと、寝息をたてる少女をそっと見つめた。その目がひどく優しいものだから、順次は少し目元を緩めた。
「幸村、椿は好きか?」
「…え、?」
幸村が目を丸くすれば、父は温かい目をして言った。
「椿はきっと、好きだと思うよ」
それじゃあね。おやすみ、と後ろ手をひらひらと降り、父は階段を登っていった。
「すき…」
ふわりとした優しいその言葉に、残された幸村はしばらく棒立ちになっていたが、少女の身じろぎではっとして、自分も階段を上がったのだった。
きみとぼくベッドに少女をそっと下ろすと、起きることもなくすやすやと眠っていた。
「…無防備なお方だ」
幸村は靴下や上着を脱ぎ、寝巻きのジャージに着替えた。そこでふと思う。この少女はこのままでいいのだろうか、と。
自分がしたことを当てはめてみる。
「…いや駄目だ駄目だ」
ぶんぶんと頭を振った幸村は、しかし靴下くらいは脱がせるべきかと思い直した。
顔をほんのり赤らめながら、椿の足に手を伸ばす。どうやって靴下を脱いでいたっけ、など普段通りが思い出せない。仕方ない、起こさないよう引っ張って脱がせよう。
それから数分後、やっと靴下を脱がせれた幸村は、深い溜め息をついた。
足元には少女の靴下が二足。こんなに人の靴下を脱がせるのが緊張ものだなんて知らなかった。
ちらりと目をやると、深い睡眠の中なのか幸せそうに眠る椿の姿があった。人の気も知らないで、まこと脳天気に眠っておられる、なんて幸村が思っていることは知る由もない。
首についたネックレスを四苦八苦しながら外し、寝やすいように首もとを緩めた。ベッドに腰掛け、少女を覗き込んだ姿のまま、ぽつりと一言こぼした。
「まこと何をしても起きぬな」
試しに顔に掛かった横髪をどけるが、反応なし。身じろぎさえせずに、すーすー眠りこけている。
可愛い可愛いとすぐ椿は言うが、
「お主のが、かわいい」
幸村はふわりと笑みを浮かべると、
ちゅ、と
おでこに口付けを一つ落とした。
「おやすみ、良い夢を」
世界一優しいキスを貴方にカチリ、と照明は消された。