やさしき日々
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見づらい方はふち無しver

自転車教習!



「して、じてんしゃとはどの様にして乗れば良いのだろうか?」

首を傾けて幸村はそう問うた。

うちの居候幸村くんは全く基本的なことが分かっていなかったらしい。

そりゃ転けておでこ擦りむくよ。

自転車に取りあえず乗った幸村に、手をペダルに見立てて漕ぎ方を教えてやる。それに続いてみくちゃんやけんたろうくんもアドバイスを上乗せする。

真剣に説明を聞いた幸村は出来る気になったらしく、分かり申した!と力強く頷いた。

「いや幸村ちょ待っ!」

椿の言葉を最後まで聞くことなく、幸村はペダルに足を乗せ、深く漕ぎ出した。

しかし刹那に傾く車体。

「うわっ!」

バタンッ!

砂ぼこりと共に、また大きく転けた幸村だった。幼稚園児二人はあちゃー!と顔を見合わせる。

「最初は誰かに荷台持ってもらわないと、ってもう遅いか」

椿の呟きも虚しく風にとけた。

自転車教習!



「椿殿ゆめ放さないでくだされ!」
「はいはい!」

そう言っていっぱい足を踏み込む幸村。すると少し前進したので、またペダルを漕ぐ。

やった!と二人が思ったが、自転車は直ぐに傾いた。荷台を掴んでいた椿もろともに地面に突っ込む。痛あ!と音を上げていると、端から見ていたみくちゃんが駆け寄ってきた。

「分かった!レッドは踏み込みすぎ!」

それにけんたろうくんも続く。

「力一杯するから転けるんだよ!」

立ち上がり、椿の服に付いていた砂を払っていた幸村はそれか!と納得の声をあげた。

それから自転車の漕ぎ初めについて、作戦を練る4人。ペダルに掛ける力はどの位か、重心はどうすればよいかなど、中身のある会議は続き。

そして、三度目の本番だ。

「よし!今回は行ける気がする!」
「頑張れ幸村!あんま意味ないけど、頑張って支えてるから!」
「有難う!」

慎重にそして優しく!を第一に心がけながらペダルを踏み込む幸村。

右足、そして左足。ゆっくりと自転車は進み始めた!ゆらゆらふらふらと蛇のようにうねりながら進んでいく。

「椿殿進んだ!」
「もーちょい!頑張れ!」

後ろでわーわーと盛り上がる幼稚園児カップルを背景に、ゆっくり、ゆっくり、蛇行しながら自転車は進む。

「頑張れ幸村」

少し緊張で汗ばむ手をそっと放した。

そうとも知らぬ幸村は椿がまだ持っていると思い込んで、ペダルを踏み込む。

両手を握って見守る椿。

どうか転けないで。

ふらり、と幸村の体が宙に揺れ、

あっと椿は声を漏らしそうになった。

しかし、ぎりぎりのところで踏みとどまった自転車は、また進み出した。

今度はもう少し、加速して。


3人は飛び上がって喜んだ。

やったあ!いった!

「椿殿ぉお!今回は転けなかったぞ…って椿殿ぉうおあ!」

嬉しそうに振り向いた幸村は、そこで誰も荷台を掴んでいないことに気づく。そして大きく動揺し、また派手に土に突っ込んだのだった。

しかし起き上がったとき見たのは、

「「レッド自転車乗れたー!」」

飛び跳ねて喜ぶ幼稚園児たちに、走ってくる椿の姿。

「幸村ーっ!」

立ち上がった幸村もあまりの嬉しさで自転車なんて放り出して、椿に駆け寄る。

「椿殿おお!」

そして勢い良く抱き合った。

「某やりましたぞぉ!」
「やったね幸村!すごいっ!」

そのまま幸村はぴょんぴょんと飛び跳ねる椿を捕まえるように堅く抱き寄せ、持ち上げると、その場で円を描くようにぐるぐる回った。

怪我のかいがあったねえ!ほんと天才!なんて続けながら、椿も両手で幸村の髪の毛を豪快に撫でた。まるで犬をなでるみたいに、彼の髪がぐしゃぐしゃなるまで。

「うお!?むつごろうか!」
「今日はお祝いに三倍強わしゃわしゃしております!」

幸村もこの上なく嬉しそうな顔をすると、それでは某も椿殿に!と椿以上豪快に撫で返した。

「うわわ!やったなー!」

仕返しだと幸村よりも豪快に頭をかき乱す。ぐちゃぐちゃになる幸村の髪の毛。

してやったり顔で椿は笑う。

「よくもこのような髪型に!天誅にござる!」

わーしゃあしゃあ!と椿の髪の毛をかき回す幸村に、こっちも負けるかと髪の毛に手を伸ばす椿。

端から見ていた幼稚園児二人は、最初ぽかんと見ていたが、声を揃えて叫んだ。
「「私(僕)もやるっ!」」