自由放任主義
「やっと着いたー!」
椿は河原に自転車を止めると、草の生えた土手に寝転がった。短く刈られた草の、いい匂いがする。
少し目を閉じると、何だか眠気が襲ってきた。太陽が当たってぽかぽかもする。
「また寝るのか?」
少し呆れたような声に、瞼を開けると、予想通りの顔の幸村がいた。
「駄目?」
「いや駄目ではないが。よく寝れると思っただけでござる」
「幸村は睡眠時間短すぎんのよ。4時起きなんておじいちゃんレベルでしょ」
「む、なぜそれを?」
「隣でごそごそしてたら誰でも気付くよ。本当よくやるねえ、朝から晩まで鍛錬鍛錬鍛錬って。」
「日課ゆえ今更変えられぬのだ」
「日課ねえ。類が筋肉痛で動けないって泣きべそ掻いてたよ」
「あやつは力が無さ過ぎる」
「幸村があり過ぎるんだと思うけどね」
椿は欠伸を一つ落とすと、また瞼を閉じた。
「あーやっぱ眠いや」
「なれば、仕方ない。寝ていてくだされ。じてんしゃくらい某一人で乗ってみせまするゆえ」
「ほんと?思う存分練習してきなねえ」
ひらひらと手を振ると、相手の返事を待たずに寝返りを打ち、椿は本格的な眠りに入ったのだった。
自由放任主義しかし一分後。
眠りに付きかけた少女の耳をつんざいたのは、幸村の悲鳴と衝突音だった。