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「お綺麗だ」
「あーもー自転車の練習したいならそう言ってよねー紛らわしい!」
自転車を漕ぎながらそう漏らすのは高宮家長女、椿である。
「でぇとではないのか?」
「違います」
そしてその隣りで軽々と走るのは、武将であり居候でもある幸村。
「しかし類殿がこう言えば椿殿が必ず了解してくれると太鼓判を押した故」
「うんそうだと思った」
少女は呆れ顔で笑う。風でさらさらと椿の髪がなびいた。長くて軽い、まるで親方様の兜みたいな髪の毛だ。
知らず知らずのうちに、幸村は横目でそれを追っていた。相手から何?と問われるまで。そして気付けば、ぽつりと一言漏らしていた。
「 」
「ん?何て?」
はっとすると、幸村は一体自分は何を言っているのだと思い返した。だんたん顔が火照っていく。そしてそれを隠すために椿に何でもないと返し、走るスピードを一段と速めた。
いきなりぐんと離れる距離に、少女も自転車を深く漕ぐ。
「ちょバカ!幸村!そんな速めると持たなくなるよ!」
「この位どうってことあらぬ!」
馬の尻尾みたいな髪の毛を揺らし駆け抜ける幸村を追いかける少女。
「幸村ちょっと待って!」
「置いていきまするぞ」
椿の場所からは青年の背中しか見えない。だから彼の顔が真っ赤だったことなんて、知る由もないのだった。
「自転車より速いって秒速いくらよ!」
「知らぬ!」
「お綺麗だ」などと口にした某は破廉恥だ。