「ってかさ幸村、背中傷多くね?」
ぽつりと、類は呟いた。
そうか?と振り向いたその顔に傷はないが、背中や腰、足など体中至る所にみみずが走ったような跡がある。きっとこれ全部縫われたものなんだろう。
「けっこー戦とか出たり?」
「何を言うておるのだ。某は武田軍が一番槍でござるぞ!」
「まじで!幸村槍使いだったんだ!じゃ刀は使えねえの?」
するとくすりと笑われた。
「刀の使えぬ武士などおらぬぞ?」
「やっべー!幸村と剣道やりてえ!」
類は興奮してきたのか、足でバシャバシャとお湯を鳴らした。
「お、類殿も剣術を窘めておるのか!」
「剣道歴9年舐めんなよ!」
「まだまだ!某は13年だ!」
「うぉお!流石武家は違え!あとは?他は武道出来ねえの?」
そう興味津々に類は聞く。幸村はそうだなあと考え込むと、ぽつりぽつりと言っていった。
「弓術、柔術、馬術、水術、棒術、捕手術…くらいだろうか」
「多くね!?最後らへん何言ってるか分かんなかったし!」
捕手術か?と聞けば、それそれ!と類は答える。
「捕手術は人を殺さずに捕らえる武術のことなのだ」
「うぉお!すっげえ!無茶苦茶かっこいいじゃん!」
目を煌々と輝かせた類は、ばっとお湯の中から立ち上がった。幸村もつられて立ち上がる。
「俺に捕手術教えてくれ!」
「某は厳しいがついてこれるか?」
「どこまでも付いていきます師匠!」
「類殿!」
「師匠!」
「類殿ぉ!」
「師匠ォオオ!」
目を輝かかせた二人は、相当興奮しているらしく現在早朝の5時だということをすっかり忘れていた。
激しく名前を呼び合っている、丁度その時。風呂場のドアが勢いよく開いた。
はっとして二人が視線をやるとそこに仁王立ちしているのは、
「いい加減にしなさいあんたら!一体今何時だと思ってんの!隣りの山本さんが発作起こしたらどう責任とるつもり!?」
眉を釣り上げた長女椿の姿だった。
静まり返った風呂場に、目を丸くして棒立ちする全裸の男二人。そしてそれをじっと睨む少女。
つかの間静寂が広がる。
そして、悲鳴が上がった。
「ギャアア!ガン見すんなよ姉貴!」
「うぉあうお!うぁあああ!」
類はお湯の中へ瞬時に浸かり、幸村も釜の中へ飛び込む。一人用の狭い風呂に青年二人。中の湯が滝のように流れ出た。
今更隠しても少々遅い気もするが。
「何恥ずかしがってんの!悲鳴なんて上げて女々しいわねえ!男なら腹括りなさい!」
「姉に全裸みられて平気な度胸なんて俺いらねえから!な!幸村!」
「某も男だ!腹を括ってみせましょうぞ!」
「ギャアアア!止めろぉお!」
「うぉおお!止めるな類殿ぉお!」
「立ち上がるな幸村ぁああ!間違ってんのは俺たちじゃねぇえ!このバカ姉貴どぅぁあ!」
「だから…静かにしろっつってんだろがぁああああ!」
早朝悲鳴=高宮さんちの日課
「子どもたちは下で一体何やってるんだろう」
「三人でお風呂でも入ってんじゃないの?」
「え?えぇえ!?ぅぇええ!?」
「パパ冗談よ」