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警察に勝った日!
真っ暗闇に月がぽつんと浮かぶ静かな夜、少女を抱えて駆け抜ける青年がひとり。そしてサイレンを鳴らし彼らを追うは、一台の白バイク。
青年の速度が一気に上がったと思えば、曲がり角を人影は曲がる。
「まっ!待ちなさい君っ!」
警察官は体全体で重心をかけることでスピードを落とさないまま、狭い角を曲がりきらせた。
壁すれすれだったが体制を立て直すことに成功し、心の中でガッツポーズをかました。が、はっと前を向くと、青年の姿は完全に消えていることに気が付いた。
「っ!やられたっ!」
街灯一つないその通りには、ただ黒い闇が広がっているばかりだった。
警察に勝った日!どくどくどく…!
うるさいほど、心臓が音を立てた。
狭い路地裏の中、二人の荒い息遣いだけが響く。そして黒闇に紛れているが、お互いの距離はあまりにも近かいものだった。
白バイクが真横を駆け抜けていく。ファンファンというけたたましい音も近付いては離れていった。
はあ、はあ、と荒い息だけが真っ暗な路地裏に響く。そして沈黙が広がり、
「…っく、」
「っぷ」
うあははははは!
二人は同時に吹き出した。
「幸村速すぎー!何あれあんた人間じゃないでしょー!」
「椿殿こそ!あの場であの適切なる指示!親方様にも負けず劣らずでござる!」
「いやいや幸村のとっさの判断がなかったら今頃補導されてた!」
「もう無我夢中でござった!」
「いきなり真面目な顔して破廉恥すまぬとか言うから吃驚したし!」
「椿殿こそ突然顔を真っ青にしてまるで死人であったぞ!」
「うわー乙女に向かって死人とか言うかーこいつー!破廉恥馬鹿!」
「なぬ!武田の将になんたる無礼!まるで某が破廉恥のようではないか!某からすれば椿殿のほうが破廉恥でござる!」
「なあにい!この私のどこが破廉恥ですって?」
幸村はその返答を聞き、吹き出し、つられて椿も吹き出す。悪口を言い合いながらも、笑い声は止まないらしい。
「それにしてもあの警官!むっちゃくちゃキレてた!」
「とまるぅえええ!って感じでしたな!」
「ぶっ!似てる!」
「赤鬼が追いかけてきておるのかと勘違いしてしまいそうであった!」
「アカオニって表現古っ!あはは!」
その時、またサイレンが聞こえ、二人は肩をびくりと揺らした。しかし直ぐに遠くなっていく。
「ば、バレたかと思った!」
「うむ!それにしても、我らは相当小心者であるようだ!」
顔を見合わせた二人は、またけらけらと声を上げた。