![](//static.nanos.jp/upload/tmpimg/26470/26.gif)
警察VS幸村
かつんかつん、と警察官の踵が鳴る。近づいてくる!見つけられる!補導される!
顔を真っ青にした椿は、動くこともできず立ち尽くしていた。
警察官の声が真横から聞こえ、ああ、もうだめだ!と諦めた瞬間、
「破廉恥すまぬ」
耳元に降ってきたのは男声。
「…え?」
顔を上げようとした刹那抱きすくめられ、ぐらりと視界が揺れた。
椿は体制が横向になったことに気づき、声を上げようとする。しかし、その瞬間に空気が揺れ、感じたことのないほどの重力が一気に肩にのしかかった。明るかった視界が、一秒で闇と化し、景色がかすめた刹那消える。初めて体感するその凄まじい速度に、重力に逆らってみせる抵抗力に、息をすることさえ困難で。
それから数秒後、やっと幸村が自分を抱え走っているのだと理解した。落とされないように、ぎゅっと幸村の体に抱きついた刹那、サイレンが耳をつんざいた。
「前方の未成年!今すぐ止まりなさいっ!」
拡張機から聞こえる声はあまりにドスが効いたもので、びくりと体が震える。速度を上げるバイクの音に、近づいてくるサイレン。
いくら足が速くても、警察の白バイクの追跡からは逃げられっこない!このままじゃ家に警察を誘導してしまうか、それまでに追い付かれるかのどちらかだ!
「幸村っ!」
風を切る音に遮られながら、椿は叫ぶ。
「何でござろう」
幸村は前を見据えたまま、言葉を紡いだ。
「あと少し速度出せる!?一瞬だけでいいの!」
無論と元気な返事が聞こえたので、少女は続けた。
「あともうちょっとで曲がり角がある!そこで一気に警察を離して、右にある路地裏に駆け込む!一か八かやってみない!?」
「乗った!」
幸村の楽しそうなその声に拍子抜けしそうになった瞬間、地を蹴った音が耳に届いた。
刹那、肩に石を乗せたような重力がかかり、風が頬を切る。心臓を鷲掴みにされたような感覚が駆け抜けた。ジェットコースターレベルだ。
「…っ!」
死ぬと生まれて初めて思った。
警察VS幸村意識が飛びそうな中で目を開けば、あまりに男らしい表情の、幸村がいた。