やさしき日々
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見づらい方はふち無しver

警察VS幸村




かつんかつん、と警察官の踵が鳴る。近づいてくる!見つけられる!補導される!

顔を真っ青にした椿は、動くこともできず立ち尽くしていた。

警察官の声が真横から聞こえ、ああ、もうだめだ!と諦めた瞬間、

「破廉恥すまぬ」

耳元に降ってきたのは男声。

「…え?」

顔を上げようとした刹那抱きすくめられ、ぐらりと視界が揺れた。

椿は体制が横向になったことに気づき、声を上げようとする。しかし、その瞬間に空気が揺れ、感じたことのないほどの重力が一気に肩にのしかかった。明るかった視界が、一秒で闇と化し、景色がかすめた刹那消える。初めて体感するその凄まじい速度に、重力に逆らってみせる抵抗力に、息をすることさえ困難で。

それから数秒後、やっと幸村が自分を抱え走っているのだと理解した。落とされないように、ぎゅっと幸村の体に抱きついた刹那、サイレンが耳をつんざいた。

「前方の未成年!今すぐ止まりなさいっ!」

拡張機から聞こえる声はあまりにドスが効いたもので、びくりと体が震える。速度を上げるバイクの音に、近づいてくるサイレン。

いくら足が速くても、警察の白バイクの追跡からは逃げられっこない!このままじゃ家に警察を誘導してしまうか、それまでに追い付かれるかのどちらかだ!

「幸村っ!」

風を切る音に遮られながら、椿は叫ぶ。

「何でござろう」

幸村は前を見据えたまま、言葉を紡いだ。

「あと少し速度出せる!?一瞬だけでいいの!」

無論と元気な返事が聞こえたので、少女は続けた。

「あともうちょっとで曲がり角がある!そこで一気に警察を離して、右にある路地裏に駆け込む!一か八かやってみない!?」

「乗った!」

幸村の楽しそうなその声に拍子抜けしそうになった瞬間、地を蹴った音が耳に届いた。

刹那、肩に石を乗せたような重力がかかり、風が頬を切る。心臓を鷲掴みにされたような感覚が駆け抜けた。ジェットコースターレベルだ。

「…っ!」

死ぬと生まれて初めて思った。


警察VS幸村

意識が飛びそうな中で目を開けば、あまりに男らしい表情の、幸村がいた。